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夏最後の一日

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夏最後の一日

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 イルミンスール、通り。

「あの二人と離れてみてどうだい?」
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)が隣を歩くロズに訊ねると
「……夢札以来、この身に万が一起きたらと前よりは気に掛けてくれて研究の方もしてくれてはいるが、また何かやらかす気がして……」
 ロズは双子が心配で気が気でない様子で答えた。ちなみに二人の側にはペンギンアヴァターラ・ヘルムのペンタやパラミタセントバーナードやケルベロスジュニアなどがいた。少しでもロズの気持ちを和ませる事が出来たらと。
「キスミもヒスミもこれまでの経験で成長しているはずだから信じてあげても良いんじゃないか。悪戯したとしてもロズを傷付ける様な事はしないはずだ。それにあの二人を懲らしめてくれる人達もいるだろうから大丈夫だ。ロズもあの二人に構い過ぎるのもどうかと思うし」
 実は買い物中の三人に遭遇した陽一がロズに用事があるからと借りて今に至るのだ。
「……そうだな」
 ロズはこくりとうなずいた。
「それよりも用事の事だが君に会わせたい人がいるんだ。まぁ、こっちに戻っているかは分からないんだけど。彼は君と同じでね。会えば互いに得るものがあるんじゃないかと思ってね」
 ここで改めて陽一はロズを双子から引き離した理由を明かした。
「同じとは……もしかして……」
 陽一の言葉にロズは気になるのか双子を気に掛けるのを忘れて聞き返した。
「そういう事だよ。彼はフォルトーナと言って石職人が死に際に作り出した如何なる願いをも叶える石が人の形となった存在で、姿はその職人そのもので、名前も職人が経営していた店名で彼は今願いを叶える石という存在を模索する旅に出ている。自分が如何様な存在なればいいのかと」
 陽一が話したのは事件で関わり妖怪の山で再会した青年の事。
「……確かに……しかし、いつそのような人物と」
 聞いたロズは陽一の知り合いが製作者が故人である事、作られた存在である事、外見も誰かに似ている事、名前が製作者に関わる事に共感した。
「それは……」
 陽一は多少ロズを気に掛けながら話した。なぜならロズと関わる正体不明の魔術師事件の一つだから。
「……そうか」
 話を聞いたロズは少し沈んでいた。
 その時
「お兄ちゃん」
「陽一様」
 キーアとグィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)の声がして
「……久しぶりだね、二人共」
 陽一が親しげに挨拶をした。
「お店でケーキを食べた後におばちゃんのお店に帰る途中に買い物にここに来てたお姫様のお姉ちゃんを見付けておばちゃんの店に連れて行く所なんだ。お兄ちゃんもどう?」
 キーアはペンタ達の頭を撫でながらグィネヴィアと一緒の経緯を話した。
「丁度、行こうと思っていた所だよ。フォルトーナはいるかな?」
 陽一が肝心な事を訊ねると
「アタシが店を出た時はいなかったよ」
 キーアが申し訳無さそうに答えた。
 それを受けて
「そうか、ありがとう(キーアちゃんが店を出た後に来た可能性もあるし)」
 と陽一。
「うん!」
 キーアはグィネヴィアだけでなく陽一も来てくれるとあって嬉しそうであった。
「……隣の方は双子様のお兄様ですか?」
 グィネヴィアは陽一の隣に立つ顔見知りの双子にそっくりなロズが気になっていた。
「いや、兄ではなく……」
「彼は……」
 返答に戸惑うロズに代わり陽一が説明した。
 説明を聞いた後、グィネヴィアとキーアは親しげに挨拶を交わしてから四人は一緒にキーアの叔母ホシカが経営する石専門店『ストッツ』に向かった。

 石専門店『ストッツ』。

 ホシカは陽一に妖怪の山でのフォルトーナの様子を知らせてくれた事に礼を言ったが、彼はいなかった。
 その後、
「君に彼を会わす事が出来なくて残念だけど、折角来たから何か石を見てみればどうかな? 俺も理子さんへお土産を一つ買おうと思ってるし……」
 陽一は会わせる事が出来ず残念そうではあったが折角だからと楽しむ事にした。
「……そうだな」
 そう言いつつロズは寄って来るケルベロスジュニアと一緒に石を見始めた。

 石物色開始後。
「……(買うと言ってもじっくり見た事がないからまずはそこからかな……ホシカさんにお勧めを訊ねようかな)」
 陽一は最愛の人への贈り物を物色するも目星が付かず
「ホシカさん、少し助言が欲しいんだが……」
 ホシカに助言を求めると
「それなら良い物があるよ」
 ホシカは良さそうな物を紹介し、陽一はそれに決めた。

 陽一は自分の買い物を終えた後。
「……ロズ、良さそうな物はあったかい?」
 石を物色しているロズに声をかけると
「……これにしようかと」
 ロズは同色の石二つを見せて答えた。
 それを見た陽一は
「あの二人へかい?」
 すぐにロズの贈り相手に察しが付いた。
「……あぁ」
 ロズはこくりとうなずき、勘定をしに行った。
「……離れていてもやっぱり、二人の事ばかりだな」
 陽一はロズの様子を見やり微笑ましげに言葉を洩らした後、
「何か困っているのかい?」
 何やら困った顔で考え込んでいるグィネヴィアに声をかけた。
「……はい。どのような物を贈れば喜んで頂けるのかと思いつかなくて……」
 グィネヴィアは困り顔で縋るように陽一に助けを求めた。
「……石についてはホシカさんに聞いた方がいいだろうけど、君が贈る相手の事を思って選んだ物ならきっと喜んでくれると思うよ。大事なのは気持ちだからね」
 陽一は真面目にグィネヴィアの相談に乗ると
「……大事なのは気持ち……ありがとうございます」
 グィネヴィアは陽一の言葉を繰り返し、思い悩む何かを整理しているかのようだったが、すぐに顔上げ、助言してくれた陽一に礼を言うなり石選びを始めた。
 そして、綺麗な石を選んだ後
「……そう言えば、陽一様達にお会いしたのはここでの出来事が初めてでしたわね。あの時から皆様に色々と迷惑ばかり掛けて……」
 グィネヴィアはふとここで起きた騒ぎの事を思い出し、しみじみさと申し訳なさが胸にこみ上げ、伏し目がちになった。
「そんな事はないよ。きっと君が贈る相手もそう思ってるよ」
 陽一はニヤリと笑みながら声にちょっぴり意地悪な調子を含めて言った。
「……陽一様……それは……勘定をしてきますわ」
 グィネヴィアは陽一の言葉で贈る相手とやらを思い浮かべたのか恥ずかしそうに顔を赤くするなりそそくさと選んだ石の勘定に行った。

 その時、ドアが開く音が店内に響くと同時に
「フォルトーナ、顔を見せに戻って来たのね。旅の土産話をたっぷりと聞かせてちょうだいよ」
 ホシカは亡きある職人と同じ姿をした青年を呆れと安堵を交えながら迎えた。
「……丁度良かった」
 陽一も迎えた。
「……丁度良かったとは」
 フォルトーナは陽一の言葉に引っ掛かり聞き返した。
「君に会わせたい人がいて、君と同じ存在でね。それで君の事を話して……」
 陽一は勘定をしているロズの方に顔を向けながら言うとロズがやって来て
「……ロズだ」
「……フォルトーナだ」
 ロズとフォルトーナは名乗り合った。
「フォルトーナ、彼は……」
 陽一はフォルトーナにロズの身の上を伝えた。
 すると
「……」
 フォルトーナはじっとロズを見つめロズもまた見つめ返す。
「……(やっぱり、何か感じるものがあるみたいだな)」
 陽一は側で静かに見守る。
「……彼から旅をしていると聞いたが」
 ロズがまず話を切り出した。
「……知れば知るほど難しい……願いを叶えるのではなく願いを叶えようとする者の手助けになれとは……未だ……何も得られない……そちらは双子と共に生きると」
「……あぁ、それが自分の望みでやるべき事だと認識しているからだ……そして、自分がした過ちの贖罪になると……皆がいなければ、今頃……」
 フォルトーナとロズは互いに言葉を交わし、力となってくれた陽一の方をちらりと見た。
 ロズが言い終わらない内に
「……製作者を失い道に迷っていた状態から抜け出す事は出来なかっただろう」
「……互いに存在を許される、戻れる場所がある事は幸せだ」
 フォルトーナが先を言い、ロズは自分の居場所である双子を頭に浮かべながらフォルトーナを待つ者がいるこの場所を見回した。互いに似た境遇であるためか言いたい事が分かるらしい。
 この後、それぞれどのような日常を送っているのか言葉を交わした。ただ二人共、弾けるタイプでないため端から見たら淡々としていて楽しんでいるようには見えないが。

「すごいね(フォルトーナは探し求め、ロズは双子を見守り共に生きるか)」
「でしょう、これはね……」
 陽一は二人を気に掛けつつ缶の中に入っているビー玉や押し花、石ころなど一見すればごみのようなキーアの宝物披露に付き合っていた。
 その時、
「では、わたくしはお先に失礼しますわね」
 グィネヴィアが買った物を抱え、後の予定のため退席する旨を皆に伝えると
「贈り物は忘れずに渡すようにね」
 陽一が代表して言った。
「……はい……助言ありがとうございました」
 グィネヴィアは丁寧に頭を下げてから店を出て行った。
 それから
「……彼に会わせてくれて感謝する」
 ロズはフォルトーナに引き合わせてくれた陽一に礼を言った。
「楽しんでくれて良かったよ」
 陽一はロズの様子から会わせて良かったと実感してから
「……当分はここにいるのかい?」
 フォルトーナに訊ねた。
「……あぁ、彼女に土産話をしないといけないらしいからな……それが終わればまた……」
 フォルトーナは淡々と答えた。
 この後、石専門店『ストッツ』では和やかな時間が流れた。