リアクション
ヴァイシャリーの休日 「デート、デート。刀真とデート♪」 ヴァイシャリーの商店街を歩きながら漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はもうごっきげんでした。 その様子をじっとながめていると、樹月 刀真(きづき・とうま)はなんだか奇妙な違和感と、あたりまえの安心感の両方を味わうのでした。 思えば、いつの間にか、漆髪月夜はずいぶんと饒舌になったものだと思います。 樹月刀真が漆髪月夜をパートナーとしたとき、彼女はほとんど片言しか喋りませんでした。樹月刀真が振るう剣のための鞘。まさに、それだけの存在だったはずです。 それが、いつの間にこんなに変わってしまったのでしょう。それとも、変わってしまったのは、樹月刀真の方なのでしょうか。 いえ、それぞれが変わったのではなく、二人一緒に少しずつ変わっていったのでしょう。それは、主に二人の関係として……。 いつの間にか、漆髪月夜にとっては、契約者としての関係よりも、もっと別の意味でのパートナーとしての関係に変化していったような気がします。いえ、そう変えていったのは、樹月刀真自身であり、樹月刀真がそう変わっていったのは、漆髪月夜のおかげだとも言えます。 何のことはない、どっちもどっちなのでした。 そう分かってしまえば、見えてくることもあります。 樹月刀真に恋心をいだいた漆髪月夜の姿は、樹月刀真自身の姿でもあるのです。 「やっぱり、一度ちゃんとしておかないといけないな」 そう思った樹月刀真は、今日はフルコースでデートの計画を練ってきました。 ショッピングの後は、予約したホテルでディナーです。ちゃんと部屋もリザーブしてあります。 「おい、月夜……。何してるんだ?」 頭の中でいろいろと段取りを確認していると、いつの間にか漆髪月夜がショーウインドにべったりと貼りついていました。 何をのぞいているのかと思えば、ウェディングドレスのようです。 「綺麗ですよね……」 なんだかちょっと憧れるように、漆髪月夜が言いました。こういうところは、本当に女の子らしくなってきています。 「欲しければ買ってやるぞ」 ちょっとぶっきらぼうに、樹月刀真が言いました。 「買うって、普段着じゃないから、着ることなんて……」 剣の花嫁なのでウェディングドレス風の衣装を着ることはありますが、それは本当の意味での花嫁衣装ではありません。 「着られるようにすればいいだけじゃないか」 「えっ?」 そう言うと、樹月刀真が漆髪月夜をぐいとだきよせました。 「俺の隣にいれば、すぐに着られるようになるさ。月夜は俺の女だ。すぐに着せてやるさ」 ちょっと驚いて目をぱちくりする漆髪月夜にむかって、樹月刀真はきっぱりと言いました。 海京の休日 「よし、関節部の洗浄から行うぞ」 メンテナンスハンガーに横たえられたゴスホークを前にして、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が言いました。 ロボットアームを操作しつつ、関節部に高揮発性の溶剤を高温で吹きつけて汚れを洗浄します。 綺麗になったところで、目視とカメラの画像解析による確認です。金属疲労などによる損耗や劣化をチェックします。怪しい部分は、ブロックごと交換です。 「ここは、交換ですね」 リストの項目をチェックしていたアニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)が、問題のあった箇所をさっそく交換にかかりました。 駆動系のチェックが終了すると、実際に可動チェックプログラムを動かして、問題がないことを確認します。 一方、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)とヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)はシステム系のチェックを担当していました。 コックピットのメインコンピュータから抜き出した戦闘データを、外部システムで最適化していきます。 実際の戦闘データから、新しいモーションパターンを抽出して、トリガーとなる動作を確定していきます。それによって、正確で豊富な行動を素早く行うことができるわけです。 「これが、交換部品のリストだそうです」 ヴェルリア・アルカトルが、アニマ・ヴァイスハイトからもらってきたリストをアレーティア・クレイスに見せました。 部品の交換によっても、微妙な誤差が出てきますので、交換データと照らし合わせての修正も重要でした。 また、損傷を受けたときのために、データバックアップも重要です。 データ処理が終わると、今度はコックピット内の清掃です。万が一スイッチ類の接触不良などあってはなりませんから、徹底的に塵一つ残さぬように行います。アレーティア・クレイスとヴェルリア・アルカトルでバキュームのホースと筆を持って、細かな溝の一つ一つから埃を吸い出していきます。 もう手慣れたもののメンテナンス作業ですが、それでも項目数は膨大です。手分けてして、抜け落ちがないようにしっかりとメンテナンスしていきます。 「BMIの同期テストに入る」 すべての点検項目が終了すると、柊真司がヴェルリア・アルカトルと一緒にコックピットに入りました。これから、BMIのチェックです。 「脳波チェック開始じゃ」 アレーティア・クレイスがモニタを開始しました。ヴェルリア・アルカトルとの同期も細かくチェックします。 二人の脳波波形とゴスホークの駆動命令のパターンが同期します。シンクロ率が上がると同時に、より細かいパターンと一致していきました。 「シンクロ率100%問題なしじゃ。後は、実戦でこれが実行できるかじゃな」 太鼓判を押しつつも、気を抜かないようにとアレーティア・クレイスが柊真司に言いました。 「分かっているさ。全工程の終了を確認。これより試験飛行に移る」 後は実際に動かすだけだと、柊真司が言いました。 「リフトアップ開始じゃ」 アニマ・ヴァイスハイトに下がるように言うと、アレーティア・クレイスがゴスホークの機体をハンガーごと起こしました。ロックボルトが外れて、ゴスホークが自分の足でフロアに立ちます。 「カタパルトへ移動する」 ゆっくりと歩行を開始すると、ゴスホークが発進用カタパルトに乗りました。 「進路クリアです。発進許可、来ました」 「ゴスホーク、出るぞ」 ヴェルリア・アルカトルの言葉に、柊真司がフローターのスロットルを開きました。電磁カタパルトがシャトルを加速し、ゴスホークを海上へと押し出します。白い波を蹴たてて海を割ると、ゴスホークが機首を上げ、大空へと舞いあがっていきました。 |
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