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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう

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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう
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リアクション

 現在、2024年。ザンスカール、昼。

「今日は買い物日和だな」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)は澄み切った空から抱える荷物に目を落とした。抱える荷物のほとんどは妻の物だったり。
「お天気もいいしね。あ、でも雨でも羽純くんがいれば私はいつも買い物日和かな」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は空を見上げてから荷物を片手で持ち空いた手を羽純の腕に絡ませ、にっこりと笑い掛ける。
「……全く(いつもいつもこの笑顔には敵わないな)」
 羽純は妻の可愛い笑顔に軽く溜息を吐いた。自分が孤独ではないと言ってくれるその笑顔に。
「ねぇ、羽純くんが大好きなスイーツを買いに行こうよ」
 歌菜は買い物デートで立ち寄った店がほぼ自分の用事だったので付き合ってくれた甘党の羽純のためにスイーツの店に寄る事を提案した。
「そうだな。この近くで限定スイーツの販売があったな。確か……」
 羽純は甘党情報網で付近の店で秋限定のケーキの販売をしている店を思い出し店名を口にしようとした所で
「羽純くん、あれジナさんだよ! 何してるのかな? 声をかけてみようか」
 歌菜が前方を歩く通行人の中に顔見知りを見付けたのか指を差すなり羽純の返事を待たずに
「ジナさん!」
 大声で呼びかけ、駆け寄った。羽純も荷物を抱え直してから追いかけた。
 すると
「……ん……あぁ、二人はあの時の……」
 声を掛けられ振り向いたのは17歳の魔女の女性だった。声をかけて来たのが歌菜達と知って立ち止まっていた。
「お久しぶりです、ジナさん」
「あれ以来だな」
 歌菜と羽純は親しげ挨拶を交わした。ジナは名も無き旅団の調薬師として他四人と旅をし歌菜達など多くの協力者達によって事件が解決すると共に旅団は解散し、現在はこの地に留まるジナ以外の四人と魔法中毒者のミモラを加えた五人は自由な旅を続けている。
「そうだね。二人は買い物中?」
 ジナは二人の手にある荷物を見ながら訊ねた。
「そうだよ。実はこれから限定スイーツを買いに行く所!」
 歌菜は楽しそうに答えてから限定スイーツの話題を口にした。口調は挨拶の時とは違いすっかり砕けた口調になっていた。何せ相手は年上ではないので。
「ジナも一緒にどうだ?」
 羽純は折角だからと誘ってみると
「いいわよ!」
 ジナは即答した。
 そのため三人は急いで目的の店に行き長蛇の列を並んで何とかケーキをゲットする事に成功した。

 スイーツ入手後。
「……このケーキは直ぐに何所かで食べたいな」
 かなりの甘党である羽純は早くスイーツを口にして甘い味を楽しみたくて堪らないらしい。
「だったら、近くにササカさんのお店があるからお邪魔してみようよ」
 羽純の希望を叶えようと頭を巡らせていた歌菜は近くに知り合いの店がある事を思い出した。
「そうだな。ジナもケーキを買った仲だ。一緒に食べないか?」
 羽純はあっさり賛成してからジナにも声をかけた。
「もちろん。また御馳走になるね♪」
 ジナは初めて二人に会った時もスイーツを御馳走になった事を思い出しつつ嬉しそうに言った。
 この後、三人はササカが経営する雑貨店『ククト』に向かった。

 雑貨店『ククト』。

「ササカさん、こんにちはー♪ 秋の限定ケーキをゲットしたので、一緒にお茶しません?」
 歌菜が一番最初に店に入るなり、店の主に声をかけた。
「オルナも一緒か」
 続いて入った羽純がササカの親友のオルナがいる事に気付いた。
「二人共、いらっしゃい。そちらは……」
 ササカは歓迎するも二人の隣にいる見知らぬ人物に目を止め、首を傾げ
「ケーキ? 食べる食べる!!」
 オルナはケーキという単語にハイテンションになっていた。
「私はジナ。この二人や他の人達に助けて貰った者です」
 ジナが名乗り、歌菜達の知り合いである事を言ってから自分達の旅に終わりを与えた事件の事を話した。
「そう、あの騒ぎの……」
 ササカはそれだけしか言わなかった。なぜなら事件当日親友と共に歌菜達に協力を頼まれ解決に助力したから。
 そんな少し重い話が終わるなり
「ねぇ、ねぇ、どんなケーキ?」
 オルナがせっつくように羽純にケーキの種類を訊ねると
「皆で分けあって食べられるほど結構大きい物だ」
 羽純は僅かに箱の蓋を開けて中に入っている和栗のモンブランを見せた。
「わぁ、美味しそう!!! しかもこれって限定の奴でしょ!!」
 オルナは目を輝かせながら勢い込んで言った。どこのケーキか知っているらしい。
「よく、知ってるな」
 羽純が感心していると
「知ってる、知ってる。あたし特に甘い物が好きって訳じゃないけど。ここのスイーツは有名だから。今日来てラッキー!!」
 オルナは嬉しそうに手を叩いた。
「……早速、切り分けるか」
 オルナの喜びようから早く御馳走しようと羽純はケーキの箱の蓋を閉めてから
「ササカ、皿と包丁を借りられるか?」
 ササカに皿と包丁を訊ねた。
「えぇ、いいわよ。店の奥にあるから案内するわね。オルナは看板を閉店にしてから来てちょうだい」
 ササカが来訪者達を店の奥に案内しようとした所に
「ササカさん、紅茶か珈琲って置いてます? 無かったら、ひとっ走り買いに行って来ますけど」
 歌菜がケーキには不可欠の飲み物の有無を訊ねた。
「バッチリあるわよ。美味しいのを淹れるわね」
「いえ、お茶を淹れるのは私に任せて下さい。出来れば好みも教えて頂ければ……」
 返答するササカにお茶の件についてはやんわりと自分が引き受ける事を伝え好みを訊ねる歌菜。
「それならお願い。好みは奥に行ってから教えるわね。オルナは看板が終わってから来るのよ」
 ササカは凄い忘れっぽい友人に仕事を念押ししてから羽純達とジナを店の奥へ案内して歌菜には自分とオルナの好みを伝えた。
「……二度も言わなくとも分かってるのに」
 オルナは文句を垂れながら仕事を果たしてから皆のいる店の奥に行った。

 店の奥。

 部屋には休憩出来るように簡易キッチンやテーブルと椅子が設置されていた。
「……はい、お皿と包丁」
 ササカが人数分の小皿と包丁を羽純に渡した。
「早速、切り分けよう」
 包丁を受け取った羽純は丁寧にケーキを人数分切り分けて小皿に載せ
「並べるわね」
 ササカが並べていく。
「ケーキには美味しい飲み物がないとね♪ お茶も用意出来たよ」
 お茶担当の歌菜が現れ
「羽純くんは珈琲だよね。ミルク多めで砂糖なし。はい、どうぞ」
 羽純に珈琲を手渡した。
「あぁ、ありがとう」
 受け取り羽純はカップに口を付け、一口飲み妻が淹れてくれた美味しい珈琲を楽しんだ。
 それから
「はい。皆さんの飲み物も用意出来てますよ」
 歌菜はそれぞれ好みを聞き出して淹れた飲み物を三人にも渡した。
「わぁ、これあたしの好きな物だよ!」
 オルナはカップを受け取るなり嬉しそうに飲んでいた。
 そして、改めてお茶会が始まった。

 お茶会中。
「栗って美味しいね♪」
 歌菜はほくほくと幸せそうにケーキを頬張る。
「最高!」
 ケーキを見るだけでもテンションが高かったオルナは当然の如くの感想。
「俺も栗は好きだ。このケーキ、甘すぎず上品な口当たりで本当に美味い。並んだ甲斐があったな」
 羽純は誰よりもケーキを味わっていた。
「本当に。今日二人に会えなかったらこんな美味しいケーキ食べられなかったんだよね……美味しい」
 ジナはケーキに出会うきっかけとなった歌菜達との再会に大感謝。
「ジナさん、ここでの生活はどう?」
 ジナの新たな生活を気に掛ける歌菜に
「もう解放感を満喫してるよ。あちこち出掛ける必要も野宿する必要も危険もないし……ここは魔法学校があるから魔法系の事も色々出来るしで……自分の好きなように出来るのが嬉しくて」
 解放感に顔を輝かせた。彼女は知的生命体に遭遇した瞬間人生を支配され今ようやく自分だけの人生を再び歩んでいるのだ。
「元旅団から連絡は来ているのか?」
 羽純が訊ねると
「時々、来てるよ。ガスタフじいちゃんの体調は年もあって日々悪くなっていて薬で抑えてるみたいで精神の方は元気みたいだけど……最後に加わったあのミモラという女性がガスタフじいちゃんの薬を調薬しているみたいだけど、和気あいあいと馴染んでいる感じじゃないみたい」
 ジナは時々来る連絡や手紙で知った事を話した。
「……そうか。しかし、旅の仲間のために力を貸す辺りはそれなりに思っているのかもしれないな」
 羽純はジナ以外の者も元気にやっている事を知り安堵していた。
「かもしれない。調薬が好きというのもあるだろうけど、和気あいあいじゃないと言っても多少の話、昔話とかはしているみたい……旅やもう嫌だけど仲間は大切だから。同じ時間を共にしたから」
 ジナは元旅団の報告を思い出していた。この瞬間もどこかにいるかもしれないと思いながら。
「時間を掛ければもっと仲良くなると思うよ」
 歌菜は明るい調子で言ってからケーキを一口頬張った。
「ササカの方はどうだ? 相変わらず忙しい毎日を送っているのか?」
 羽純はササカに話を振った。
「えぇ、二人のおかげでブラウニーが家出をせずに済んだけど。あんな大変な時に本当にありがとう」
 ササカは歌菜達によってブラウニーのブラッツの家出を防げた事を親友に代わって感謝を示した。大変な時とは特殊な平行世界が迫っているという時である。
「でもそのせいであれからしばらく毎日ササカからしつこく言われて……ちょっと忘れただけなのに」
 オルナはぶぅと不満顔でケーキを頬張った。
「それでブラッツさんとは上手くやってます?」
 歌菜がオルナにブラッツとの関係を訊ねた。何せ忘れ癖が酷い彼女がまた何かやらかしているのではと。
「何とか、おかげで毎日部屋が綺麗だよ」
「それなのになぜか私の苦労が減らない」
 オルナはにこにこしながら言い、ササカは疲れたように言うのだった。
「……大変だな」
 すぐに羽純はブラウニーに渡す食べ物を巡る事でササカの苦労が減らないと察し、労った。
「……ありがとう」
 苦労を分かってくれる羽純にササカは疲れたような笑みでこたえた。
 そして
「オルナ、後で包んでやるからブラッツにも余りを持ち帰ってやるといい」
 羽純が残ったケーキについて言うと
「ありがとう!」
 オルナは嬉しそうにケーキを食べながら礼を言った。
 その元気さに羽純は不安を覚え
「ただ、さりげなく置いておくんだぞ……渡すのを忘れて自分が食べるような事はするなよ」
 しっかりと刻む込むように注意をした。
「大丈夫だよ。でもよかった。今日渡す物をまだ決めてなかったから」
「……はぁ(あとで確認の連絡を入れない)」
 元気なオルナの横でササカは溜息を吐いていた。
 この後、賑やかなお茶会は続き、終了後は全員で後片付けと店の掃除をしたという。