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【第十一話】最終局面へのカウントダウン、【第十二話(最終話)】この蒼空に生きる命のために

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【第十一話】最終局面へのカウントダウン、【第十二話(最終話)】この蒼空に生きる命のために

リアクション

 
 三十分後 パラミタ上空 パラミタ外縁

『来ましたね。さあ、お互い死力を尽くそうではありませんか』
 スミスはそう声高に告げる。
 迅竜の姿を眼前に認め、彼の乗るグリューヴルムヒェンは芝居がかかった所作で両手を広げる。
 
 同時刻 迅竜 ブリッジ

「艦長、戦闘距離に突入――」
「――ええ。総員、第一種戦闘配備!」
 
 艦長室に響き渡るルカルカの声。
 これにより、戦いの火蓋は切って落とされた。
  
 同時刻 パラミタ上空 パラミタ外縁
 
 グリューヴルムヒェンから大量に生産された“フリューゲル”スティルが視界を埋め尽くす中、鳳竜とザーヴィスチが戦闘空域を駆ける。
 カスタムされた二機のスピード、そして、パイロットの技量も相まって敵機を振り切ることはできている。
 だが、敵機は既に最高性能の量産機だ。
 やがて二機へと追い付いてくる。
『ッ! 速っ!』
『落ち着いて、垂。そろそろ彼が来るはず――』

 同時刻 迅竜 格納庫
 
 その頃。
 迅竜の格納庫では、サルーキのコアと“フリューゲル・ラーベ”の同調作業が行われていた。
「……っ。やっぱり動かねえのか……」
 言いつつも諦めずに操縦桿とペダルを操作し続ける航。
 そんな彼を横で見ながら、ティーは呟いた。
「ごめんなさい……サルーキ。もう、休ませてあげるはずだったのに、あなたの力をまた借りるようなことになって……。もしまだ力を貸してくれるなら、お願い、この戦いだけでいいの。力を貸して」
 そのまま静かに語りかけ続けるティー。
「目覚めて、サルーキ。ここには私と同じように空を飛ぶのが好きな人がいる。その為の機体もある。そして、私がいる――」
 そう結ぶティー。
 直後、今まで変化の無かった“フリューゲル”のコクピットに変化が現れる。
「メインシステムが直った……!? ……動くぞ!」
「どうやら力を貸してくれるみたいです」
「……そういうことらしいな。頼むぜ、えっと……」
「サルーキです」
「おう。頼むぜ、サルーキ――」
 航の言葉に応えるように、稼働率はみるみるうちに上昇していく。
「いきましょう、航さん。空へ――」
「ああ」
 目配せ一つ、二人は正面を向き、モニター越しに見える蒼空をしっかりと見据える。
「羽鳥航」
「ティー・ティー」
 互いの名前を名乗り、二人は声を揃えてもう一人のパイロットの名前を呼ぶ。
「「サルーキ」」
 そして二人はペダルを踏み込み、操縦桿を倒す。
「シュバルツ・グリューヴルムヒェン・“フリューゲル・ラーベ”、いくぜ!」
「シュバルツ・グリューヴルムヒェン・“フリューゲル・ラーベ”、いきます!」
 重なり合う二人の声。
 それに更に重なり合うようにして、漆黒の機体が蒼空へと羽ばたく音が響き渡る。
 飛び立つなりすぐに、噴出機構からエネルギーを最大に放ちながら飛んでいく漆黒の機体。
 その姿は完全に、漆黒の“フリューゲル”としての翼を取り戻していた。
 
 同時刻 パラミタ上空 パラミタ外縁
 
『……っ!』
『……ッ!』
 
 シルベルタイプの“フリューゲル”に囲まれ、窮地に陥っていた鳳竜とザーヴィスチ。
 二機を救ったのは横合いから放たれた二筋の光条だった。
 巨大な一対の光条は銀色の機体を呑み込み、一瞬で蒸発させる。
 
『航かっ!』
『随分と待たせるじゃないの』
 垂と佐那の声に応えるように、通信帯域に流れ出す軽快なダンスチューン。
『ほら、とっとといくぞ。スミスをブッ倒す』
『言われなくても。ねえ、垂?』
『おうよ! いくぜ、航! 佐那!』
 
 編隊を組んで三機はグリューヴルムヒェンへと肉迫する。
 鳳竜と“フリューゲル・ラーベ”。
 各々高エネルギーを発する二機は、紅蓮の翼と漆黒の翼を広げて蒼空を駆け抜け、銀色の機体を次々に蹴散らしていく。
 
『見事、私の与えた機体をよくぞここまで改良しました。けれど、私の所までは届かなかったようだ』
 
 余裕を滲ませた声を共通帯域に乗せるスミス。
 それを突っぱねたのは垂だ。

『へっ! 俺達の翼は鳳竜と“フリューゲル”だけじゃないんだ! ――佐那!』
 
 垂の合図と同時、鳳竜と“フリューゲル”が切り開いた道を駆け抜け、ザーヴィスチがグリューヴルムヒェンへと迫る。
 
 嵐の儀式で起こした緩急を付けた風を使い、凝縮した風の力を踏み台にし機動を急変更するザーヴィスチ。
 それだけにとどまらず、ザーヴィスチはダウンバーストの流れを利用し急降下、更には敵の量産機を踏み付け、それを足がかりに更に加速する。
 
 グリューヴルムヒェンの眼前へと辿り着いたザ―ヴィスチは再び嵐の儀式を発動。
 それにより巨大な竜巻を起こした佐那はその回転エネルギーを利用し、ザーヴィスチを上昇させる。
 そして、ザーヴィスチはグリューヴルムヒェンの頭部へと爪先――そこに組み込まれたビームサーベルを振り抜いた。
 
『あんた達のね……思う通りにはしないよ、絶対ッ!』
 
 ザーヴィスチによる捨て身の一撃は果たしてグリューヴルムヒェンの胸板へと命中し、その爪先とビームサーベルは深々と突き立った。
 通常サイズのイコン一体による攻撃ならばものの数ではないグリューヴルムヒェン。
 だが、急所にあたる箇所へのクリーンヒットだったこと。
 そして、イコンが出し得る中では最速レベルのスピードが乗った状態でザーヴィスチがぶつかったことで、そのダメージは無視できなくなっていた。
 
 無論、ザーヴィスチもただでは済まなかった。
 しかし、そのおかげでグリューヴルムヒェンの装甲が異常をきたす。
 
 まるでモザイクを思わせる波紋を広げながら表面が波打ったかと思うと、歪な形に小刻みな変形を繰り返す。
 やがてそれが収まった後、グリューヴルムヒェンは新たな姿――“シュベールト・スティル”へと姿を変え、パラミタの大地に降り立っていた。