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ペンダントの行方

「ゴブリンと会うのも久しぶりね」
 おみやげとしてのカステラを持ちながら奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)は森の中を歩きいつかのゴブリンを探す。
「ゴブリン元気してるかな?」
 隣を歩く雲入 弥狐(くもいり・みこ)も久しぶりに会えることと、カステラの香りにワクワクしていた。
「あ、いた。えっと……ひさしぶりって挨拶のジェスチャーは…………なんだっけ?」
 弥狐は探していたゴブリンを見つけるが、その挨拶のジェスチャーを忘れてしまっていた。
「もう、弥狐ったら」
 沙夢は仕方ないと手本のようにジェスチャーをゴブリンにする。それに続くように弥狐が、ゴブリンが『久しぶり』とジェスチャーをした。

「……そういえば、穂波ちゃんがペンダントを探してたけど、多分あなたがしているそれよね」
 ゴブリンと交友を深めながら沙夢はそう言う。弥狐は美味しそうにカステラを食べながら二人のやりとりを見ていた。
「どうして持ってる…………って流石にジェスチャーで伝えるのは難しいわよね」
 ゴブリンが困っている様子を感じて沙夢はそう言う。
「そのペンダントの機能を使えば分かりますよ」
「穂波ちゃん? あ、ペンダントがある場所分かったんだ」
 穂波の登場に驚く弥狐だが、その理由を理解して納得する。
「ペンダントの機能……確か記憶を記録する機能だったかしら」
 情報収集してる中にそんなものがあったと沙夢は思い出す。
「はい……少し失礼しますね」
 穂波はそう言ってゴブリンのする『ミナホのペンダント』に触れる。するとそのペンダントから白い光が出て穂波の手の上に宿った。
「記録のコピーをしました。……最初の半分は私が貰いますね。後の半分は沙夢さんたちに渡します」
 その白い光は半分が穂波が持つ『ミナスのペンダント』に。後の半分は沙夢と弥狐の元へと入っていく。
「……そっか。そういう理由で村長はゴブリンにペンダントを渡したのね」
 沙夢と弥狐はゴブリンのものだと思われる記憶を見た。その最初の記憶は『衰退の力』による呪いで死にかけているゴブリンに美奈穂が自分のペンダントを渡す様子から始まっていた。
「この森って呪いがかけられてたんだね」
「はい。その呪いをペンダントをしたゴブリンとコボルト達は全て引き受けていたんです。森の生物を無作為に殺す呪いを『森に住む亞人』を殺す呪いに変えて」
 これは恵みの儀式のシステムの一つだ。衰退の力の返済に森の生き物を滅ばない程度に殺す呪いをかけていた。ゴブリンとコボルト達はその呪いをミナスの助力を受けて自分たちだけに向けさせた。ゴブリンとコボルト達はその頃合わせても180。100個ずつのペンダントをゴブリンとコボルト達は受け取り大丈夫のはずだった。
「でもこのゴブリンはそのペンダントをなくしてしまったのね……そして死ぬ直前に村長からペンダントを受け取った」
 それは全ての悲劇の始まりだ。ペンダントを失った美奈穂はミナに操られミナスを殺した。そして記憶を失い、ミナホとなった。
「穂波ちゃんは10年前の……記憶を失う前の村長の記憶が欲しかったんだね」
「はい。それとミナスさん……母親の記憶とおじいちゃん……父親の記憶があれば少しでも『美奈穂』としての自分を取り戻せるんじゃないかなって」
 それが穂波の願いだった。
「……でも、このゴブリンの記憶を勝手に私達に見せてよかったの?」
 弥狐の素朴な疑問
「………………………………あ」
 冷や汗を流す穂波
((……間違いない。この娘にも村長と同じ血が流れてる))
 うっかりもののの母娘だった。
「『大丈夫』『知る』『もらえる』『嬉しい』?……そう言ってくれるとこっちも嬉しいわ」
 ゴブリンは自分の記憶を覗かれたにも関わらずそうジェスチャーをして自分の気持を沙夢たちに伝える。
「……これがミナホお姉さんや、ミナスさんが……おじいちゃんが目指したあり方なんですかね」
 ゴブリンと沙夢たちのやりとりを見ながら穂波は思った。



「うーん……ハッピーエンドでいいのかな? 何か大切なことを忘れてる気がする……」
 服の中に隠している『将のペンダント』を無意識に触りながらアニス・パラス(あにす・ぱらす)はそう呟く。
「まっ、いっか。そのうち思い出すかもしれないし。それよりも和輝が裏のお仕事をする必要がなくなって、離れ離れになる必要がなくなったことが凄く嬉しいのだ」
 嬉しそうに佐野 和輝(さの・かずき)に抱きつくアニス。そのまま和輝分を吸収する。
「相変わらずなつかれてるわね」
「……真面目な話をしているときは勘弁してもらいたいんだがな」
「これからもっと増えるかもしれないわね。恵みの儀式が終わるならアニスが言う『皆』とは今までどおりには話せなくなるもの」
「……待て、それは初耳なのだが」
「アニスが今まで話してた『皆』は恵みの儀式に連なる存在であったものたち。儀式が終われば開放されいなくなるわ。そりゃ、地霊や土地神のたぐいはいるでしょうけど『皆』ほどははっきりしてないでしょうね」
「…………まあ、そのことはまたあとで考えよう」
「考えるも何もあなたが一緒にいるしかないでしょうに。ちゃんと救ってあげるのよ。……あの男のペンダントが必要なくなるくらい」
「……気付いていたんですか」
「ま、そりゃあのペンダントの用途を考えればすぐに分かるわよ。…………それで? 私に何のようかしら?」
「そうだったな。……契約は終了したが、前村長――あの人の最後を“全て知っている”貴女と俺で一つ、契約をしたい。俺は、あの人に村を頼まれてたりしてるんだが……退屈は人を――知的生命体を殺す……貴女も手伝ってみないか?」
「あなたも仕事のお誘い? 私寝てるのがいいんだけど…………」
「報酬は、それなりに充実した日常……そして、満足できた後に“彼女達の元へ”行く手伝い。……どうだろう?」
「うーん……前者は良さそうだけど、後者はどうかしらね」
「……どういうことだ?」
「だって私、あなたよりきっと長生きするもの。……ま、でもその契約でいいかもね。あなたとあなたに連なるものは私に楽しい日常と全てを見届けた後に安らぎをくれる。……どう?」
「さらっと俺の子孫まで契約で縛りますか…………あの人といいあなたといい」
 食えない人たちだと和輝は思う。
「いいでしょう。契約を結びます。……流石に自分の子孫までは保証できませんが」
 こうして和輝はミナと一つの契約を結ぶのだった。



「穂波、ペンダントは見つかったか?」
 瑛菜は穂波の姿を見つけてそう声をかける。
「探している内一つは見つかりましたが……おじいちゃんのペンダントは見つかりませんでした」
「どうすんの? もう暗いけどまだ探す?」
「いえ、今回は諦めます。……おじいちゃんのペンダントです。きっと今見つからないことにも意味があると思います」
 きっといつか見つかるだろうとも穂波は思う。あの人は誰よりも村と娘のことを大切にしていたのだ。……それ以上に妻を愛していたから死にたがってもいたが。
「ミナホお姉さんが『ミナホ』として多くの記憶を重ねていった後でもいいと思うんです。『美奈穂』としての記憶と『美奈穂』として両親に愛されている記憶をみるのは」
 『ミナホ』はもう『美奈穂』に戻ることはない。10年という月日とはそういうものだ。
「だから、記憶を見せるのはまたおじいちゃんのペンダントを見つけた時にします」
「いいのか? 両親に愛された記憶を知ったミナホならまた『お母さん』って呼べるって思ってたんじゃないのか?」
「…………ノーコメントです」
 恥ずかしそうに穂波はそっぽを向いた。