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シャンバラ大荒野へ



「ふぁーあ、おはよー」
 シャンバラ大荒野にポツンと立てたテントの中から出てきた緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が、一緒にやってきたパートナーたちに挨拶しました。
 今日も今日とて、ドラゴン狩りの特訓中です。
 パラミタ大陸が平和になったとはいえ、いつまた事件が起こるか分かりませんし、未だに契約者以外の地球人が自由に歩けるわけでもありません。とりあえず、いきなり襲ってくるような悪い野良ドラゴンあたりは数を減らしておこうと、鍛錬も兼ねたドラゴン狩りなのでした。
 近くのオアシスで顔を洗ってしゃきっとすると、いよいよ狩りの開始です。
「一応、ラインは引いたから。その外で戦ってください。ふふっ」
 ちょっと楽しそうに、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が言いました。戦いで倒したドラゴンのアンデッド化の実験に、今から心をはせているようです。
 とはいえ、自分を含めて、仲間たちの攻撃は強力です。とばっちりでベースキャンプであるテントまで破壊しては元も子もありません。そのため、テントが巻き込まれる範囲を月美 芽美(つきみ・めいみ)と共に計って、境界線を書いたのでした。持ってきたザイルの端を緋柱陽子が持ってテント近くに立ち、もう一方の端を持った月美芽美が神速で外周を描くという方式です。この中では、広域破壊攻撃は厳禁でした。
「それじゃ、食事でもしながらドラゴンを待とー」
 そう言うと、緋柱透乃が朝食を作り始めました。
「まあ、気楽に待とうぜ」
 霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)が、連れてきた高知県民の背中をドンと叩いて言いました。とはいえ、契約者ではない高知県民の方は気が気ではありません。なにしろ、シャンバラ大荒野のど真ん中で携帯型小型結界装置のスイッチを切っているのですから。何が起こっても不思議ではない状況です。要するに、ドラゴンをおびきよせる餌でした。
「なあに、何があっても、私が守ってやるって」
 さすがに非人道的なことをしている自覚があるのか、霧雨泰宏が高知県民に約束しました。その言葉に嘘はありません。
 まあ、緋柱透乃たちは、ドラゴンが高知県民に指一本触れる前に、それこそ瞬殺する気満々なわけですが。
「まだかなー、まだかなー。ドラゴンまだかなー」
 ふんふんと身体をゆらしながら、緋柱透乃がドラゴンを待ちます。なるべくたくさんのドラゴンに、透破裏逝拳を完成に近づけるための生贄――もとい、協力者となってもらわなければなりません。
「来ましたよ。10時の方向です」
「待ってたよー!」
 ホークアイで周囲を警戒していた緋柱陽子の声に、緋柱透乃が待ってましたとばかりにバチンと両の拳を打ち合わせて気合いを入れました。そして、すぐさまそちらへとむかっていきます。なるべくテントから遠くで戦闘するのが望ましいと、緋柱陽子もすぐに後を追っていきました。
「じゃあ、後は頼みます」
 他の敵がテントにむかってきていないことを確認すると、ちょっと残念そうな顔をしてから月美芽美が緋柱透乃たちの後を追いました。
「よし、もう結界を発動させていいぞ」
 留守番役が、高知県民の簡易結界を作動させます。
 こちらへむかって飛来してきていたドラゴンが、高知県民の存在を見失って、一瞬止まりました。と、次の瞬間、何者かに弾かれたように吹っ飛びます。
「さあ、始めよっかぁ! まだまだ、楽しい時間はこれからよ!」
 地に伏して、ふらふらと鎌首をあげたドラゴンにむかって拳をむけながら、緋柱透乃が言いました。