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【祓魔師】アナザーワールド 2

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【祓魔師】アナザーワールド 2

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第18章 AfteWorld_10年後

 最前線での任務から一時離れ、今度は祓魔師を育成するため教える立場となった涼介は、イルミンスールの教壇の上に立っていた。
 ラスコットの部下として彼の代わりに、上級の魔性に対抗しえる者を育てるというものだった。
 理由の一つとして、彼が美羽たちと最前線へ赴くことになってからでもある。
 受け持つ生徒も何度か任務を行ってはいるものの、まだ足りない部分が山ほどある。
 再教育を兼ねて能力を引き出していこうというカリキュラムだ。
「今日から上級向けのカリキュラムとして、授業を行うことになった涼介・フォレストだ。皆、よろしく」
 祓魔師を目指す者なら彼を知らない者はおらず、生徒たちから拍手をもらい歓迎された。
「私の授業では、それぞれの特性を伸ばしていくものと考えている。だが、その性質を無視したことはできない。それはもう、分かっているからな?」
 基本的に、個々の魔道具はそのものの力のみしか引き出せない。
 ただし、それを理解しきった者だけが、さらに特性に特化したものを引き出せるようになる。
 涼介が離れた位置でも、呪術を行えるようになったのが、まさにそれにあたるのだ。
「アイデア術も、皆はもう知っているね?魔道具の性質を組み合わせたものであって、まったく異なることはできない。これも知ってるはずだな」
 生徒たちの顔見ながら、ゆっくりと説明していく。
「また修練によっては、少人数でもそれが行えるようになる。ただ、術者が多い方が成功率が高くなるものもあるんだけどね」
「涼介先生ーっ」
「うん、何かな?」
「上級の魔性の捕縛なんてできるんですか?」
 イルミンスールのどこかに牢獄があるのは知っているものの、強力な相手の力をずっと抑えているのは難しい。
 どうしたらうまく捕らえられるのかと効く。
「宝石、召喚、スペルブックの扱いに長けている者であれば可能だよ。ただ、召喚がキーかな。サモナーの証を持つ者じゃないと難しいからね」
「むー、私はまだテイマーです…」
「そう気落ちすることないよ。これから皆と学んでいこう」
 次なる項目を黒板に書き込んでいき、これから行ってもらう任務について書く。
「君たちには1週間後、獣の魔性を鎮めにいってもらう。実は、そこに非物質領域の歪があってね、瘴気を受けて人を襲うようになってしまったんだ」
 任務遂行の目的として歪の修復を行う者、魔性の相手をする者、歪の原因を調べる者の3つを黒板に書き込む。
「祓魔師の任務としては、Aプラスといったところかな。とても難しいものだから参加する者だけ1週間後、イルミンスールの正門に集合すること」
「先生!今、挙手してもよいですか?」
「うん、大丈夫だよ。リストを作らないといけないから、授業が終わったら私のところに来てもらいたい。以上、1時間目の授業はここまで!」
 終了ベルの合図と共に、涼介は教科書をパタンと閉じた。
「っと、ミリィからメールが…」
 生徒たちが受ける予定の現地の報告メールを開き、向こうの状況はどうだろうかと読む。
「ふむ…。即死に至る呪い使いはいそうにないけど、憑依される危険あり…ということだね」
「あ、先生。娘さんから?」
「うん、ミリィからだね」
「心配になったりしません?」
「クリストファーさんもいるからひとまず大丈夫だと思うよ」
「ふむふむ。お2人は今回、自分たちと同行してくれるんですか?」
 授業の一環としてだが任務の危険度を考え、彼らも一緒にいてくれるのかと聞く。
「いや。下調べだけを頼んでいるんだよ。実際に解決してもらうのは、君たちだからね」
「ひぇ〜、きっついなぁ〜」
「ははっ、そう言わないで頑張ってみようよ」
 厳しそうだと呻く生徒の肩をぽんぽんと叩き、チャレンジしてみてくれと言う。
「んー…じゃあ、一応参加…て書いておきますね」
「そのいきだ」
 万が一のことがあれば、自分たちが助けに入る準備も整えている。
 …だがそれは言わず、生徒自身で成長していけるように、見守ることに専念できるよう心がける必要もありそうだ。



 任務がひと段落したエリシアとノーンは、久々に御神楽邸を訪れた。
「2人とも、久しぶりですね。元気でした?」
 屋敷の亭主である御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が顔を出す。
「まぁ、一応は…ですわね」
「おにーちゃん。鉄道のお仕事、どう?」
「聞いてください、イルミンスールまで開通したんですよ!」
 そこそこ繁盛しているため、粗利の一部を使い着々と線路を延ばしているようだった。
「本当!?」
「えぇ、今度乗りにきてくださいね」
「うん、行きたい!」
「あ、ちょうど御飯の用意もできているので、一緒に食べましょう」
 そう言うと陽太は2人をリビングへと招く。
 テーブルにはすでに用意された料理が並び、スパイスのよい香りが食欲をそそる。
 皿にはチキンのから揚げや、香草を使ったシチューが盛られていた。
「全部、妻が作ったんですよ」
「それはまた…」
 のろけ話が始まりそうな予感がし、生暖かい目で料理を眺めた。
 しばらく待っていると陽太の妻、その娘が席についた。
「さて、食べましょうか」
「いただきますわ」
「わぁい、いただきますー!」
 ノーンはさっそく小皿に取り分け口に運ぶ。
「あつあつで美味しい♪あれ、ルルディちゃん食べないの?」
「いえ、何を食べてよいのか…」
「んと、食べたいものがあるならとってあげるよ」
「では…そのフルーツをいただきたいです」
 果実の炭酸水がかかっているフルーツポンチを指差す。
「分かった!」
「こら、ノーン。デザートより、食事のほうを先にとってあげなさい」
「ん〜だって、これも美味しいよ」
「わたくしのビバーチェをごらんなさい。食事からとっていますわよ」
 エリシアが率先して取り分けてやってるからであるが、召喚者の彼女が食べるものなら美味しいのかと思い、あえてそれを選んでいた。
「―…デザートも美味しいもん。はい、ルルディちゃん!」
「ありがとうござます…」
「あっ、もう…ノーンたら…」
 バランスよくあげなさい、と言っても聞く様子がなく呆れ顔をする。
「まぁいいじゃないですか、エリシア」
「いいえ、よくありませんわ」
 バンッと机を叩き、その衝撃で皿がガッタンと揺れた。
「不摂生でいるといざという時、活動できないんですのよ」
「ははっ、ずいぶんと仕事熱心ですね」
「―…!もういいですわっ」
 ムッとしたエリシアはチキンに八つ当たりするかのように、バリッとかぶりついた。