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空を観ようよ

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空を観ようよ
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天気がいいから

 キマクの外れ。シャンバラ大荒野の、サルヴィン川の近に若葉分校というパラ実の分校がある。
 パラ実の分校とはパラ実生を名乗る学生たちのたまり場であった。
 若葉分校は少し違い、パラ実生が中心であるものの、各地の若者たちが集う私塾……いやサークルの拠点のような場所となっていた。
 若葉分校が出来て、20年ほど時が流れた頃――。

「いてぇーー、いてぇよぉ……っ」
「誰か魔法使える奴いるか! コイツ、川原で事故りやがった」
 血だらけの少年に肩を貸し、モヒカン少年が喫茶店に入ってきた。
「大変! 早くこちらに運んでください。今、手を洗ってきますから」
 三角巾を被り、掃除をしていた30代くらいの女性が、箒を置いて急いで手を洗って、救急箱を手に、少年たちの元に駆けよった。
「せんせー……いてぇよ……」
「大丈夫、出血は酷いけれど、殆ど擦り傷のようですよ」
 言いながら、女性は止血をすると、救急箱から取り出した薬で、応急手当をする。
「せんせー、魔法の先生なのに、魔法で治してくれねーのかよー!」
「魔法で治したら、また無茶をしますよね? 少しは痛い思いをして反省する必要があります。あと、もっと真剣に魔法を学ぶ気にもなるでしょうから」
 はい、おしまいです、と。
 くすっと笑って、女性は立ち上がり、喫茶店の掃除へと戻っていく。
「これが終わったら、ハーブティーを淹れてあげますね」
 その女性は、若葉分校で治療の魔法や応急手当の講師をしている。
 学生がいない時には、こうして掃除をしたり、喫茶店の仕込みを手伝ったり、畑で薬草やハーブを栽培したり、収穫したりしていた。
 講義の時はもちろん、掃除をしている今も、栽培をしている時も、きっちりとした服装で、基本柔和な笑顔を浮かべ、丁寧な口調で対応してくれる。優しくも、時には厳しい、しっかりしたみんなのお姉さん的な存在だった。
「たくさん血出たあとだから……少し、休んだ方がいい」
 金髪で金色の目の精霊の少女が、休憩室から現れて。
 怪我をした少年に近づき、付き添っている少年と共に抱え上げて、休憩室へ運んでいく。
「かたづけて、マット、しいといたから」
「サンキュー……ううっ」
 怪我をした少年がごろんと横になると、少女は竪琴を取出して歌を歌い始める。
 やさいうた。
 やさしいことば。
 眠りへと誘う歌を……。

「あー、壊れちまってる。こりゃしばらくは乗れねぇな」
 ホールで分校生と遊んで……もとい、分校生を指導していたゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)が、話を聞いて、事故現場を訪れていた。
 転んでいたバイクを回収して、喫茶店の駐輪場に運び入れたその時。
「ぜすたーん」
 バーバ・ヤーガの小屋が近づいてきて、分校の前に下りてきた。
「リン? なんだそんな大きな乗り物に乗って」
「今日、天気がいいよね!」
「うん」
 その日は雲一つない、快晴だった。
「ついでだから『世界中のスイーツ食べ放題』いこー」
 窓から顔を出し、リン・リーファ(りん・りーふぁ)はいつもの笑顔で言った。ちょっとそこまで散歩しよう、とでもいうように。
「……え?」
「だから、世界中のスイーツ食べ放題だよ。約束したよね」
「お、おお……いやしかし、準備ってもんがあるだろ。散策みたいなノリで言うなよ」
 苦笑しながらゼスタが答えた。
「でもぜすたん、いつ遠出してもいいようにくらいは準備してるんじゃない?
 あたしはこのバーバ・ヤーガの小屋があれば、荷物とか気にならない。居住空間としても使用可能!」
 きりっとした表情でリンは言った。
「はははは、便利そうだよな、これ。……けど、目立つだろ」
「あ、やっぱり? じゃあ身ひとつでいいかー」
 少しして、魔女の箒とピクニックに行くようなリュックサックだけ背負って、リンは小屋から出てきた。
「朝、みゆうが作ってくれたお弁当は持っていかないとね!」
「……俺の分もある?」
「もちろん」
 リンが笑顔で答えると、ゼスタは軽く、迷って。
 後ろを振り向いて、分校を眺めた後。
「それじゃ、行こうか」
 ふっと笑顔を浮かべ、リンに近づいた。
「うん。家出とか駆け落ちみたいにするなら変装とかしてく?」
 笑いながらリンが尋ねる。
「そうだなー。天気がいいからこのままで」
「そうだね、天気がいいから、とおくまで行ってみよー」
「了解」
 ゼスタはそう言うと、リンを抱きかかえて翼を広げる。

 天気がいいからとりあえず
 青い青い空の彼方を旅しよう――。