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はっぴーめりーくりすます。

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はっぴーめりーくりすます。
はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。

リアクション



20.昔と今と。


 雪が、降り始めていた。
「ヴァイシャリーの街とかぜってー行かねーし」
 土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)は、窓の外を見ながらきっぱりと言い放つ。
 クリスマスイブの街並み。
 それはきっと、綺麗だろうし、クリスマスフェアやら何やらで楽しそうではあるけれど。
「今日とかどーせ、ばかっぷる共がイチャついてるだけだろ。……今年も結局、彼氏とかいねーし」
 ぼそぼそ、言い訳のように呟いていると。
「あー……なるほど、そういう事」
 耳聡く聞き付けたエルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)が、耳元で囁いた。
「んなっ、」
 ――気配なく背後に立つな!
 怒鳴ろうと口を開いた瞬間、
「何なら俺と付き合う?」
 睦言。
 変更変更、怒鳴る言葉の変更。
「ロリコンホストだけはお断りだこんちくしょおお!!」
 ついでとばかりにボディブローを一発決めて。
 ちょっとばかしすっきり。
「なぁなぁヒバリ、カップルて何?」
 したところで、はぐれ魔導書 『不滅の雷』(はぐれまどうしょ・ふめつのいかずち)――通称カグラ――が、きょとんとした目で問いかけて来た。
「あと今日が何か関係あるん? カップルでおらなあかん日か何かやの?」
「あんたがそれ聞くな」
 ――らぶいちゃする、ばかっぷるの片割れのくせにっ。
 内心でそう棘を吐きつつ、苦い顔で言ってやる。
「? なんでオレが訊いたらあかんのん」
「べーつにー」
「別になら教えてくれてもええやん。ディアー、今日ってなんなんー?」
 雲雀が教えないでいると、カグラはサラマンディア・ヴォルテール(さらまんでぃあ・う゛ぉるてーる)の許へ、とことこ向かう。
 サラマンディアは、そんなカグラの頭をぽんと叩きつつ、
「別に今日は相手がどうこう関係無く、普通に祭りを楽しんでいい日なんだろ?」
 確認するように、雲雀に問う。
「まぁ、世間一般じゃ誰でも楽しめる日なんだけどさ……」
 それでもきっと、街には今日にかこつけたカップル達で溢れかえっているのだろうなと思うと、ため息。
「祭り? 楽しい? ならオレ行きたいー。ヒバリ、連れてって?」
 カグラはきらきら、輝く瞳で見上げてくるし。
「せっかくの祭りだろ? 俺らも付き合ってやっから、行きゃいいじゃねえか」
 サラマンディアは後押しするし。
「……しょーがねーなぁー」
 渋々、雲雀は頷いた。
 ……内心、なんだかんだ楽しみで浮かれていたなんてことは、内緒である。


「やっぱこの時期の街って綺麗だよなー!」
「ね! ほんまに綺麗やねえ!」
 カグラと一緒に、装飾の施されたツリーを見て笑った。
 きらきら、きらきら。
 街が輝いている。
 誇張でも比喩でもなく、本当に。
 イルミネーションが灯り、人々の顔は幸せそうに輝いていて。
 積もり始めた雪で、地面も、
「っとと」
 きらきらしているけれど、おかげで滑り易くもなっている。
「転ぶんじゃねえぞお前ら」
 滑りかけた雲雀を見て、サラマンディアが軽い口調で言った。
「わかってるよ。……にしても本当足元滑るな……注意しなきゃ」
「滑りやすなっとってもだいじょぶやって。ちゃんと気ぃつけとるし!」
 カグラはにこにこ笑顔で雪を踏む。
 しゃく、しゃく、響く足音が、
 ずりっ、
 というものに変わった。滑っている。ものの見事に、カグラの身体が宙に浮いていた。
 ――言わんこっちゃねー!
「カグ、」
 雲雀は手を伸ばしかけるが、
「言ってる傍からカグラてめえは!」
 それよりも早く、サラマンディアがカグラを抱き留めた。
「…………」
 伸ばした手が、所在なさげにぴたりと止まる。
「ありがとーディア」
「お前な? 気をつけろって、言っただろうが。今。たった今。言っただろうが」
「いたたたた、わかったわかった、わかったから鼻つままんといてぇ!
 ……あれぇ、ディアの手、なんかあったかいなあ……オレ、寒いんよ。ぎゅってしてくれひん?」
「は? 寒いってお前風邪か?」
 そして、このラブラブイチャイチャ、甘い空気。
 ――や、やっぱりこいつらと来るんじゃなかった……。
 恥ずかしいような、イラッとするような。
 ああもう、とにかく見てられない。
 ぷい、と顔を背けたら、エルザルドと目が合った。
 にっこり、綺麗に微笑まれ。
「お二人さん。俺ら、雲雀と先行っとくから」
「は?」
「後はご自由に?」
「おいエルザルド!?」
 一方的に決めつけられて、手を引かれる。サラマンディアの声もお構いなしに、エルザルドはすたすた歩く。
 その手の暖かさより、足を取りそうになる雪のことより、先に行くってどこへ行くつもりなんだという疑問より、
 ――なんだか、これって。
 手を繋いで、二人で街を歩いている事実が、
 ――まるでこいつと付き合ってるみたいじゃん……。
 妙に意識してしまうじゃないか。
 カグラとサラマンディアの二人を見ていた雲雀の表情の変化に気付いてくれて、フォローをしてくれただけだとわかっていても。
 それでも、少なからずどきっとしてしまったのは、今日という日のせいもあるんだろう。
「なんだい雲雀。さっきからじっと俺の方を見て」
「な、なんでもねーよ。……いいとこも、あるんだなーって思って」
 精一杯、気持ちに素直になって言ってみたけど。
「何? まさか今頃俺の魅力に気付いたって? やだなあ雲雀、今まで俺のどこ見てたの?」
「そーゆー、ちゃらんぽらんなところだな」
 ――こうやって茶化すから、台無しになんだよ、バカ。
 心中で呟いてから、エルザルドを置いて一人、先を歩く。
「急ぐと転ぶよ?」
「知らねーよ、カグラじゃねーんだから転ばねーよ」
 ――それとも、あたしにもカグラみたいな可愛げがあったら。
 ――こんな……一人じゃなかったのかな。
 ひとりきり。
 カップルが、友達同士が、楽しそうな人がすれ違うたび、ちくちく、ちくちく、心が痛む。
 冷たい風が、肌を刺す。
 ――寒い。
 あまりに寒くて、足が止まってしまうくらい。
「さみーよ、バカ。ちくしょう……」
 誰にも聞こえないくらい、小さな声で弱音を吐いて。
 うっすら滲んだ世界を消そうと、目を閉じて。
 何も見たくないと、拒絶して。
「雲雀」
 かけられた声も無視し、頑なにそのままで居たけれど。
「『退屈そうな顔だね』」
 聞き覚えのあるセリフに、ぴくりと肩が揺れたのを自分で感じた。
「『毎日がつまらなくて。
 人生早々にドロップアウトしちゃいそうな顔。
 俺好みの可愛い顔が台無しだよ』」
 それは、地球で初めて彼に会った時の言葉。
「『どう? もっと刺激的で楽しい場所へ、君を連れて行ってあげようか』
「エル、」
 思わず目を開けて、その視界に広がったものは。
 他人の笑顔でもなく、雪の白でもない。
 紫の、光の翼。
 エルザルドの、翼。
 そして銀色に光るコサージュは、
「……これ、あんたの【禁猟区】……」
「俺は、雲雀の守護天使だよ」
 コサージュを雲雀の手に握らせて、エルザルドが微笑む。
「この【禁猟区】で、ずっと繋がってるから。
 ひとりじゃない」
「……うるせ、バーカ」
 口では憎まれ口を叩いたけれど。
 身体は正直に、動いてしまうもので。
 エルザルドに差し出すは、小さな赤い羽根。
「雲雀の【禁猟区】……?」
「お返し。……そんだけ!」
 ――ありがと、なんて言わねーし。
 言ってないのに、伝わってしまっていそうなのがちょっと癪だけど。


 一方、置いてけぼりにされたサラマンディアは。
「あいつらどこ行くつもりだよ……」
 カグラを抱き留めた姿勢のまま呟く。
 寒いというから、離すわけにもいかず。
 ――まあ、雲雀にはエルザルドが居るし……大丈夫か。
「カグラ、まだ寒いか?」
「んーん。でもこのままで居てぇな?」
「なんでよ? 動けねえだろ」
 問うと、カグラはえへへと笑って、
「オレねぇ、ディアにぎゅーてされるん、めっちゃ好きやの」
 きゅ、と控えめに抱きついてきた。
「おっきな手で頭撫でてくれたりするんも、ほんま好き」
 サラマンディアの手を取って。
 自分の頬に、宛てがって。
 そのまますりすり、擦りつけてきた。
 柔らかで滑らかな肌の感触。
「……どうしたよ、今日はやけに甘えてくるじゃねえか」
「ん。なんとなぁく」
 そうかい、と今度は自主的に頬を撫でて。
「なぁ、ディア? これからもずっと、一緒やよね?」
「ああ?」
「ずっと、一緒に居てくれるよ、ね?」
 期待と、不安の入り混じる瞳。
 ――まぁたこんな目、しやがって。
 ペシッ、とデコピンを一発。
「いたぁ!?」
「バーカ」
「なんでやのー……」
 じわぁ、とカグラが涙目になったのを見て、やりすぎか? と思いつつも意地悪く笑って。
「当り前のこと訊いてんじゃねえよ。
 ずっと一緒だ。百年でも千年でもな」
 ぽん、と頭を撫でた。
 途端にカグラはふにゃりと笑んで。
「ディア、大好きー」
 今度は力強く、抱き締めて来た。
 離さないという意味を込めて、サラマンディアも抱き返した。


*...***...*


「オリーヴェ、ちょっとヴァイシャリーの広場まで来い」
 篠宮 悠(しのみや・ゆう)が、有無を言わせぬ口調で言ってきた。
「……え?」
 思わず、オリーヴェ・クライス(おりーぶぇ・くらいす)は疑問符を浮かべてしまう。
「どうしてもお前に会わせなきゃならないヤツを待たせてるんだ」
 オリーヴェの疑問に答えることなく、悠はすたすたと歩いて行ってしまい。
 まさか放っておくこともできず、オリーヴェは悠の後を追いかけた。
 そして、到着した広場には。
「……どういう事だい?」
 武器関連書物を読む、真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)の姿。
「お前らいい加減元の鞘に納まるべきなんだよ」
 問い掛けに、悠が静かに答える。
 ふ、っとオリーヴェは自嘲的な笑みを浮かべ、
「俺は過去の人間だよ」
 思い出しながら、呟いた。
 昔のことを。
 真理奈を庇って死んだ、あの時のことを。
「……そんな俺が、今を生きる真理奈に関わる資格は無いよ」
 それは、自分なりに考えて、自分なりに出した答えだった。
 いくら、納得し辛くても。
 それでも、それが一番の選択なのだと。
「あーもうゴチャゴチャ言い訳してねぇで行って来い!」
 しかし、悠は焦れたように一蹴。
「真理奈が強い武器になろうとするのは、戦力的には有難いけどよ……だけどお前、本当は放っておけねぇだろ」
 自分を庇って死んだ相棒に誓いを立てて、強い武器になる方法を模索する真理奈。
 武器の資料を集め、改良を重ね、検証実験に没頭し。
 一人で頑張る、真理奈。
 華奢な身体に、色々な想いを詰め込んで。
 頑張る彼女を、放っておけるはずがないじゃないか。
「……やれやれ。最近お節介に拍車が掛かったね」
「お前の腰が重すぎるんだよ」
 オリーヴェが真理奈の許へと一歩踏み出すと、対照的に悠は踵を返した。
 振り返ると、ひらり、手を振る悠の背。
「これ以上野次馬する趣味はねぇし、外野は退散するさ」
「ありがとう」
 言って、手を振り返して。
 前を向き、もう一度、一歩。


 雪にはいい思い出がない。
 ――エルトラルが死んだ時も、雪だったわね。
 本が濡れないようにと、読書を中断して鞄の中にしまい込んだその時、
「『君は不器用すぎる。だから生き方を探して生きてほしい』」
「……!」
 かけられた言葉に、勢いよく顔を上げた。
「オリーヴェ……! 何であなたがその言葉を知っているの!?」
 驚き戸惑う真理奈に、オリーヴェは笑う。
 寂しそうで、辛そうで、……一体どうしてそんな顔をしているの。
「君は昔から、自分の事を武器だと割り切ろうとしてたね」
 質問に答えないまま、紡がれる言葉。
「……何を、言っているの。質問に答えなさい!」
「こんな長い間、頑なにその姿勢を貫いて……目つきも態度も凍えてしまった」
「……答えて……! 誰にも話していない遺言よ……!」
 まさか。
 ……まさか、オリーヴェは。
「一度死んだ人間が言えた義理はないけど……」
 浮かんだ疑問に、YESと答えるように、続く言葉。
「どうか、誰より優しかった、俺が愛した真理奈に戻って欲しい……!」
 あの言葉は、遺言は。
 この、気取ってそうでその実真摯な態度も。
 昔と変わらない笑みを浮かべた、その人は。
「エルトラル……?」
 名前を呼ぶと、抱き締められた。
「ただいま、真理奈」
「……おかえり、エルトラル」
 言葉一つを噛み締めながら。
 そっと、背中に手を回した。