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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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 家族の絆
 
 
 
 上野駅で新幹線を降りて移動すること30分。
 文京区本郷に本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)の生家はあった。
 江戸時代からの開業医である本郷家は、純和風の平屋の母屋に診療所が併設されている。診療所の診察時間外でも、急患が母屋の方に駆け込んでくることがあったり、往診を頼まれたりと、いつも両親は忙しそうにしていた。
 パラミタに上がってから初めての帰郷、とはいえ、両親はまだ仕事をしている時間だ。
 邪魔をするのも何だから、荷解きをしてゆっくりと待とうか。
 そう思って涼介はトランク片手に自室に向かったのだが、部屋につく前に妹の本郷 涼子に廊下で出迎えられる。
「兄さん、お帰りなさい」
「涼子、ただいま。元気だったかい」
「兄さんこそ。ずっと帰ってこなかったからどうしてるかと思ったわ」
 元気そうで良かった、と笑う涼子はクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)とよく似ている。髪と目の色は違うけれど、面差しにも雰囲気にも共通するものがあった。
「ああ。こっちもみんな元気でやってる。色々なことはあるけどな」
「向こうの話、聞かせて欲しいな。あ、そうだ。まだ父さんたちは仕事中だから、その間ゲームでもしながらお喋りしない?」
「久しぶりに涼子と対戦か。いいな」
「じゃあ兄さんの部屋にゲーム持っていくわね」
 ポニーテールを弾ませて、涼子は自分の部屋へと戻っていった。
 
 涼介が荷物を置いて一息いれた頃、涼子がゲームを持ってやってきた。何を持ってきたのかと見れば、スクラブル。手持ちのアルファベットを使って英単語を作成して得点を競うボードゲームだ。やったことのない人に英単語と言うと引かれてしまいがちだが、これが結構はまるゲームだったりする。
 より高い得点が取れるようにと手持ちのコマとボードを見比べながら、英単語を作ってゆく。その間に、涼子は涼介にパラミタでの暮らしのことや、パートナーのことを尋ねたり、自身の近況を話したりした。
「先生には、折角だから剣道の強豪校に進んだらどうかって言われてるの。強豪校には良い指導者がいるから、もっと腕を磨けるだろうからって」
 涼子の目下の悩みは今後の進路らしい。
 中学3年生の涼子は高校受験中。将来の為に自分の進路を決めなければならない時期に来ているのだ。
「涼子はどう思うんだ?」
「私は……地元の友だちと離れちゃうのは寂しいな。地元の共学に進みたいと思うんだけど……でも、担任の先生も部活の顧問の先生も、強豪校に行かないのはもったいないって言うのよね……」
「たとえ他の人から見たらどれだけもったいないことであっても、涼子自身が考えて選択した学校が一番なんじゃないかな。私はそう思う」
 そんなことを話しながら、最初の1戦は涼介が、その後涼子が続けて2戦勝ったところで両親が仕事を終えて家に帰ってきた。
「お帰り涼介。遅くなって悪かったな。最近この辺りでは胃腸風邪が流行っていて毎日患者さんがひっきりなしなんだ」
 涼介の父、本郷 涼太郎は評判の良い開業医で、近所の人から先生と呼ばれて親しまれている。体調を崩す人の多いこの時期は、いつも以上に診察を受けに来る人の数が多いのだろう。
「親父もお疲れ様。お袋は?」
「涼介の為に腕によりをかけるとはりきって台所に行ったぞ。今日は何だろうな」
「今日は寒かったから鍋物かな。それもきっと鶏の水炊き」
 そう言った涼介の読み通り、夕食は温かな湯気をあげる鶏の水炊きだった。
 
 
 鍋を囲んで久しぶりの家族団らん。
 母の作る水炊きの鶏は、ほろほろふわふわでとても美味しい。そう涼介が褒めると、母の本郷 恵美は満足そうに微笑んだ。
「向こうでは自分で作ってるみたいだけど、家に帰ってきたときくらいは私の料理を味わってもらわなきゃ。せっかくだから教えておきたい料理もあるのよ」
 こっちにいる時は覚悟をしておくように、と言う母は、開業医の父を看護士として支えながら家庭もしっかり守る良妻賢母のお手本のような人だ。
「それは願ったりだな」
 仲良い家族なので、自然と笑顔の食卓になる。けれどその和やかさの中で涼介は、両親に言わなければならないことがあるのを忘れまいと、しっかりと心に留め置いていた。
 
 そして和やかな夕食が終わると、涼介は両親の前できっちりと姿勢を正した。
「親父、お袋。これからのことだけど、私はイルミンスールを卒業したら空京大学に進学しようと思ってる。まだ先のことだけど、私は自分の力を助けを求める人の為に使いたいと思ってるんだ。ノブレスオブリージュじゃないけど、契約によって私は人を助ける為に使える力を手に入れた。助けを求める声を見て見ぬふりは出来ないんだ。――これが今の私の気持ちかな」
 それは涼介がこの先何年もパラミタ大陸に留まることを示している。
 安定しているとは言えないかの地に息子を置いておくことは、親としてはさぞ心配なことだろう。
 涼介の話を静かに聞き終えた恵美は、そう、と小さく頷いた。
「あなたがそうしたいと思うのであれば、母さんはそれを尊重します。ただし、無理だけはしないこと。あなたに何かあると悲しむ人がいることだけは忘れないようにね」
 そして父からの答えはこうだった。
「私はお前の決意に反対することはしない。お前の自分のことは自分で決められる年齢だ。確かに私から見れば、いつまでもお前が子供であることは否定できないが、それとこれとは話が別だ。ただし、これだけ言っておく。自分の選択を投げ出すな。男なら決めたからにはやり切れ。私から言えるのはそれだけだ」
 両親からの言葉を受けながら涼介は、自分はやはりこの父に似ているのだと気づいた。
「本当に辛くなったら相談くらいはしろ、少しは力を貸せるからな」
 そう言ってくれる涼太郎の気持ちが分かるだけに、有り難くも嬉しくて。
「うん。――ありがとう」
 頑張ると言わずとも両親には分かるはず。
 ただはっきりと礼のみを口にして、涼介は父と母に頭を下げたのだった。