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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 部屋でワインを
 
 
 
 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が実家に研究成果を送りに行くのは、定期的に強制される義務だ。
 里帰りの日が近づくとイーオンの表情が優れなくなってゆくのを、彼のパートナーは皆知っていた。といっても、イーオンが嫌っているのは実家の親ではない。親に対しては敬意を持っているものの、その取り巻きがどうしても受け入れがたいのだ。
 けれど、義務を放り出すのはイーオンの性に合わない。
 気は進まないながらも、研究成果を持ったイーオンはフィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)を伴って、今回もまた実家に帰省するのだった。
 
 
「ふぅ……」
 顔なじみの老執事と侍従たちのお辞儀を傍目に、イーオンは精神的に折った疲れをため息で吐き出した。ため息はストレスを軽減させようとする身体の反応だと聞くが、この重苦しいもやもやを解消するには一体どのくらいのため息を吐き出せば良いのだろう。
「お部屋にご案内致します」
 専属の執事が先行し、離れの自室へと案内される。これもいつもの形式だ。
 そしてまたその途中ずっと、そろそろ嫁を、だの、次のテーマは誰の指定を優先して、だのと注文や文句がとめどなく流れるのもいつものこと。
 そういう一家に生まれ、そういう立場に自分がいるのは理解している。それについて抵抗しようと思うほど、与えられてきたものの価値が解らない歳でもない。
 ただそれでも……。
 また1つ、イーオンの口から深いため息が漏れた。
 
 
 ようやく自室に入ると、イーオンはどっと疲れた気分になった。
 身体の疲れは心地よいこともあるが、精神の疲れは往々にして人を疲弊させる。
「お帰り」
 どこに雲隠れしていたのか、途中で姿が見えなくなっていたフィーネが部屋で待ち伏せしていて、疲労困憊といった様子のイーオンをニヤニヤしながら迎えると、テーブルにワインを置いた。
「これは?」
「せっかくの地球だ。イーオンがパラミタに持ってきていない種類のワインをいただくとしようかと」
 良さそうなワインを勝手に物色してきた、とフィーネは答える。どうやら、姿を消していた間にワインセラーからワインを盗ってきたらしい。
 全く……とも思うが、こんな時は酒もありがたい。陽も沈んだ頃合いだが、ディナーにはまだ早い。ワインで食前酒としゃれ込もうか。
「ふん、付き合ってやる……夕は追々運ばせよう」
 ワイングラスに注がれる極上のワイン。
 光を映して心のように揺れるそれを、何杯も重ねるうち、堅くなっていたイーオンの口もほぐれてくる。
「まったく……何故父はあんな蛆虫のような連中とのコネクションばかり持っているのだ。嘆かわしい」
 契約もできず、表だって動くこともせず、なのに利益だけはどん欲に啜ろうとする取り巻き。そのために好きでもない研究までも押しつけられるのはたまらない。
 そんな愚痴を吐き出していると少しずつ、イーオンの心にわだかまったものが排出されてゆく。
 イーオンが部屋に来た時よりも幾分晴れた顔つきになった頃、ディナーの時間になり、侍従が料理を運んで来た。
 ワインのおかわりをまたイーオンのグラスに注ぎながら、フィーネは喉で笑う。
「青臭い愚痴をずいぶんと抱え込んでいたものだな。しかし刺激してやらなければ出せないとは……まだまだ子供だな」
「フィーネ、下品だぞ」
 イーオンに叱られながら、フィーネは運ばれてきた料理に舌鼓を打った。
「何はともあれここのワインも食事も最高だな」
「ああ、そうだな」
 それに関しては同意だとフィーネに頷きながら、イーオンは思う。
 ――いい女を拾ったものだ。
 こんな時、共にワインと料理を楽しんでくれる、楽しむ気持ちを取り戻させてくれる、そんな女といられるのだから。