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こどもたちのおしょうがつ

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こどもたちのおしょうがつ
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リアクション

「ここはだいじょうぶだよね」
 子供向けブランドのワンピース、ペチコート、ドロワーズを着用した可愛らしい女の子が一人、お手洗いの中に潜んでいた。
「かぎかけたら、なかにはいれないから、かんぺきっ!!」
 外見4歳のネージュちゃん(ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう))だ。
 寒くて、お手洗いに行きたくなっても、かくれんぼの最中だと行きにくい。
 お嬢様として、そそうは絶対したくはないし。
 だったら、お手洗いにかくれてしまおうと、ネージュちゃんは小さな頭で考えたのだった。
「……まだこっちにはきてないし、すっきりしてもいいかな」
 ネージュちゃんは、おトイレに入ることにした。
 リーアの家のトイレは、子供にも使いやすい小さ目の水洗トイレだった。
 すっきりして、ネージュちゃんは水を流す。
 途端。
「おとがしたぞー。そうか、パンツをぬぐばしょにかくれてたか、くにがみー!」
 何かが突進してきて、どんどんドアが叩かれる。
「えっえっえっ!」
 ネージュちゃんはびっくりして、いったんドアから離れた。
「ここにいるの、わかってるぞー」
 でもその声が、鬼のたけるくんの声だとわかると、観念して鍵をあけた。
「そうか……だれもいないおてあらいから、みずがながれりゅおとがするのって、へんだもんね……」
 しゅんとしながら、ネージュちゃんはお手洗いの外に出る。
「おお、くにがみじゃなかったけど、ひとりみつけたぜ。よおし、おまえはこれをもってついてこい。くにがみほいほいだ」
 たけるくんはネージュちゃんにどさりと洗濯籠に入った大量のパンツを渡した。
「ん? なんだかわからないけど、ネーみつかっちゃったから、ついていくよ」
 ネージュは洗濯物を受け取って、ぎゃりぎゃり進むたけるくんの後を、ちょこちょことついていく。

「『小さな子供』って、独りぼっちがこんなにも不安に感じるんだ……」
 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)のパートナーのアインくん(アイン・ブラウ(あいん・ぶらう))は、大きな木の洞の中に隠れていた。
 アインくんは機晶姫だから、子供時代を経験していなかった。
 でも、薬の影響で、現在は6歳くらいの子供の姿に変わっていた。
 人間の子供も、動物の子供も、もちろん見たことがあるし、触れ合ったこともあるのだけれど……。
 いざ、自分が子供になってしまうと、どう過ごしたらいいのか解らない。
 同じように子供化した友人の五条 武(ごじょう・たける)がかくれんぼするという話を聞いて、皆についていけば、楽しく過ごせるのではないかと思い加わってみたのだ。
「朱里どうしてるかな……」
 パートナーの朱里は、かくれんぼに参加していない。
「朱里……」
 アインくんは孤独を感じてしまっていて、この遊びが終わったら、夜は朱里にだっこしてもらって、眠りたいと強く思っていく。
 かくれんぼ、だから見つかりたくない。
 だけれど、早く見つかりたいという気持ちもあった。
 声を上げたい。自分はここだと言いたくなる。誰かに迎えに来てもらいたく、なる。
 そんな時。
「ぎゃーっ」
 男の子の悲鳴が、アインくんの耳に入った。
 アインくんの中に、怖いという感情が湧き上がる。
 だけれど、ぎゅっと拳を握りしめ、アインくんは洞から飛び出したのだった。

 もう一人のたけるくんである、外見4歳のくにがみたけるくん(国頭 武尊(くにがみ・たける))は、パンツを目指していなかった。
 かくれんぼが始まってすぐに、昔兄から習った秘密の隠れ場所を目指したのだ。
 兄が教えてくれた、絶対見つからない場所。
 それは――『大きなお姉さんや、大人の女の人の長いスカートの中』だった。
(りゆうはわからないけど、そのなかにかくれれば、ぜったいにみつかることはないって、おにいちゃん、いってたよね……)
 走りながらきょろきょろ見回して、くにがみくんが目をつけたのは自分より大きなお姉さんだった。
「家にはいるですぅ〜。手を洗いなさーい!」
 ログハウスの前で、庭に向かってそう声を上げているお姉さんの後ろに、こっそり回り込んで、くにがみくんはそのスカートの中に隠れたのだった。
(これでぜったいみつからないよね。さすがぼく、かしこいねっ)
 くにがみくんは、暗いスカートの中で、にこにこ微笑んでいた。
 しかしっ。
「遊びはおしまいですぅ。ご飯にしますぅ〜!」
「あっ、いかないで」
 遊んでいる子供に歩み寄ろうとしたお姉さん――エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の足に、くにがみくんはしがみついた。
「ひいぃっ、冷たいですぅ」
 エリザベートが小さな悲鳴を上げる。
 そして、自分のスカートの中にいる、くにがみくんの存在に気付いた。
「な、な、な……にしてるんですかぁ〜〜〜〜〜〜!」
 べちんと跳ね飛ばし、ものすごい形相でエリザベートはくにがみくんを睨みつける。
「いたい、いたいよ……。ぼくなにかわるいことした?」
 不良猫のプリントされた服を纏った小さなくにがみくんは、転んだまま涙を浮かべながら怖いお姉さん……エリザベートを見ている。
「めくりましたねぇ、入りましたねぇ、触りましたねぇっ! お仕置きですぅ〜!」
 エリザベートがくにがみくんに手を向けて、炎の玉を発射。
 炎の玉は、くにがみくんの開いた股の間に落ちた。
「ぎゃーっ」
 くにがみくんは恐怖のあまり、悲鳴を上げる。
「お仕置きですぅ。下半身燃やすですぅ!」
「うぎゃーっ。ひどい、ひどいよー!」
 くにがみくんは逃げようとするけれど、足がすくんで立つことが出来なかった。
「大丈夫? にげよう、にげよっ!」
 悲鳴を聞きつけて、アインくんが駆け付ける。
「庇うのですかぁ? まとめてお仕置きですぅ〜!」
 エリザベートが大きな炎の玉を作り出す。
「にげ、にげない、と……っ」
「ふぎゃーっ」
 自分より大きな子による巨大な力に、アインくんもくにがみくんもすくみ上がってしまい、動けない。
 心の中で「朱里、朱里」とアインくんは、大切な人に名前を呼ぶ。
「こりゃ!」
「あうう……っ」
 ドスンと大きな音が響き、エリザベートが雪の中に倒れた。炎の玉は雪をじじじっと溶かして消滅した。
「何をしてるんじゃ。子供達に怪我をさせたら夕飯どころか当分食事抜きじゃぞ」
 アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が、窓から顔を出している。魔法でエリザベートを転ばせたらしい。
「ん? くにがみ、アイン、みーっけ。なにころんでんだよ〜。もぐもぐ」
 鬼のごじょうたけるくんが台所の窓から顔を出す。おせち料理をつまみ食いしながら。 
「たすけにくるの、おそいよごじょー!」
「見つかっちゃった……」
 くにがみくんと、アインくんは一緒にたけるくんのもとに駆け寄った。
「なにやってんだよ、くにがみ。ちゃんとパンツのなかにかくれてなきゃダメじゃないか!」
「ん? うん。そっか」
 純真なくにがみくんには、なんだかよくわからなかったが、隠れる場所を間違ったらしい。
「もういえのなかにはいないみたいだしな。これくったらしゅうごうばしょにいくぜ〜。ぎゃりぎゃりぎゃりいぃぃ!」
「あはははっ。あはははははっ。やめ、やめ、やめて……ははっ」
 たけるくんが、きょんくんを弾きならす。きょんくんは身をよじって大笑い。
 つられて、くにがみくんとアインくんの顔にも笑みが浮かんだ。
「なーかーにーはいりなさーーーい〜」
 そこに、むくりと起き上がったエリザベートがゆらゆらと近づいてくる。
「わ、わかったよぉ」
「はーい!」
 くにがみくんとアインくんは手をつないで、ログハウスの中に駆け込んだ。