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リアクション
外見4歳の藍澤 黎(あいざわ・れい)くんは、出身のブルガリアではスィンという名前だった。
体が子供になったショックで、記憶や感情も同時のものに変わってしまい、女の子の外見のスィンちゃんは心細くて、泣きそうになっていた。
そんな彼女を、きょんくんが声をかけて、手を引いてみんなとところに連れてきてくれた。
きょんくんを兄のように思って慕っていたけれど、かくれんぼが始まった途端、きょんくんとはぐれてしまって。
あわあわ周りを見回し、スィンちゃんは大きな木に目をとめた。
「ダ(うん)、スィン、高いトコにかくれるにするね」
一緒の方向に走ってきた外見5歳のあきらちゃん(獅子神 玲(ししがみ・あきら))に小さな声でそう言った後、スィンちゃんは木に小さな手をかけた。
「この木にのぼったら、へーきかな。ネ(いいえ)、上から見たらわかっちゃうかな……」
「……上の方なら……わからない、かも……きをつけて」
あきらちゃんが小さな声で答える。
「たかーくたかーくのぼれば、平気? 気をつけて気をつけてのぼる、ね」
「うん……また、ね。あたしはもっとおく、いってみるね……」
「うん、またずっとあとで、ね」
あきらちゃんにばいばいした後、スィンちゃんは木登りをしていく。
下の方には雪はほとんどついていなかった。
「上の方、ゆきたくさん……すべらないようにしないと……落っこちちゃう……」
一生懸命登って、スィンちゃんは木の枝の上に到着する。
枝の上の雪を払って、腰かけて、はあと息を吐く。
ここからでは、周りの木の枝しか見えなくて。雪が降り積もった木々の姿は綺麗だけれど、静かすぎて。
遊んでいる子の声は聞こえるのに、なんだか……寂しかった。
(かくれんぼ、だから……みつかりたくない。でも……みつかりたい……。ブラート(兄さん)……)
手に息を吹きかけて温めながら、スィンちゃんは鬼の子達を待っていた。
あきらちゃんは、木に登ることが出来ないので、森の奥の方に進んでいた。
おにごっこには参加したかったけれど、自分からは言い出せなくて。
メンバー集めをしている子達に声をかけられての参加だった。
「……きけんなどうぶつ、出るかもしれないから……見つからないところに、かくれなきゃ」
奥へ奥へ進んで、小さな洞を見つけてあきらちゃんはその中に入った。
洞は結構深くて、暗かった。
だけれど、あきらちゃんは暗くても平気だ。
小さな頃、父親にさんざん土蔵に押し込められてきたから、暗闇には慣れている。
「みつけられたら、あきら『鬼』になるのかな……」
そう考えて、あきらちゃんは首を左右に振った。
鬼にはなりたくない。
あきらちゃんは、父親に、鬼の先祖返りだと言われてきた。
(……あきらも大きくなったら、『絵本』の鬼さんのようになっちゃうのかな……いやだな、そんなの)
じわりと涙が浮かんでくる。
遊ぶ子供達の声も、ここまでは響いてこない。
何の物音もしない、闇の中。とても寒い闇の中に、あきらちゃんはひとりぼっちだった。
(……誰も見つけてくれなかったら……あきら、どうなっちゃうのかな)
外の方に目を向ける。淡い光が見えるけど……。
「でも、鬼になるのはやだから。あきら、このまま動かない方がいいのかな……」
膝を抱えて、あきらちゃんは俯いた――。
「うぐもぐもぐ。むしゃもぐもぐ〜。どこだーみんなぁ〜」
外見6歳のラルクくん(ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす))は、マシュマロハウス、ログハウスを探し終えて、森へと入ってきた。
「ましゅまろおいしー。おしょうがつりょうりさいこー。もぐもぐっ」
マシュマロハウスとログハウスでは、お菓子とおせち料理という収穫があったが、まだ隠れている子は見つけてはいない。だって、先に食べ物が目についてしまったから!
「けど、ここまでさがしてもみつからないこがいるってことは、おくのほういちゃったってことかー」
お菓子のついた手をぺろぺろ舐めながらラルクくんは歩き、小さな足跡を2つ発見する。
「お、ひとつここでなくなってるなー。ここかー。えいーっ」
ラルクくんは、大きな木に体当たりする。
「あっ」
小さな悲鳴と、雪がパラパラと落ちてきた。
上を見上げると、枝にしがみついている小さな女の子――スィンちゃん(黎)の姿があった。
「みーっつけたー!」
ラルクくんは大きな声を上げる。
「あ……みつかっちゃった……」
スィンちゃんはゆっくりと木から下りて、ラルクくんの傍に着地した。
おどおどしながら、ラルクくんを見上げると、ラルクくんは手を広げてスィンちゃんの頭を撫でてくれた。
「あんなうえのほうにのぼったら、あぶないぞー」
「ダ(うん)」
「もうひとりこもさがしにいくぞー。いっしょにいこー」
ラルクくんの言葉に、スィンちゃんは不安気に首を振って、あきらちゃんの足跡をたどることにした。
「みーっつけたー! オレのめはごまかせないんだぜー!」
上の方から降ってきた声に、あきらちゃんが顔を上げた。
木の中は外よりは温かかったけれど、ずっと動かずにいたから。体の感覚がなくなってきて、意識も遠くなってきていたところだった。
「ここ、やじゅうのいえかもしれないぜー! かえるぞー」
ラルクくんは両手をのばして、あきらちゃんを引き上げようとする。
あきらちゃんはほとんど感覚のない手を一生懸命伸ばして、ラルクくんの腕をつかんだ。
「スィンも、おてつだい……」
スィンちゃんもラルクくんを手伝って、一緒にあきらちゃんを外に引っ張り出した。
「やじゅうでるまえにかえるぞー。おんぶしてやるぞ!」
ラルクくんが背を向ける。本当はラルクくんも怖いけど、小さな子を守るために、強がっていた。
「でも……」
戸惑うあきらちゃんを、スィンちゃんがラルクくんの方へそっと押した。
「……あ、りがと……」
あきらちゃんは、ラルクくんに背負ってもらい、3人で皆の待つ集合場所まで戻ったのだった。
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