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リアクション
第4章 まだまだ恋人未満
「いろんなアトラクションがあるのよね」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はマップを広げ、どれから乗ろうか嬉しそうに選ぶ。
「前にも来たことがあるんですか?」
「クリスマスの時にここでアルバイトしてたのよ」
「何かお勧めの場所とかあるんですか?」
「そうね、まずはやっぱりジェットコースターかな」
一般的なモンとはかけ離れた構造のレールを見上げたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、さーっと全身の血の気が引いた。
「早く乗ろうよ!」
「えぇ、そうですね。まずは列に並びましょうか」
元気にはしゃぐ美羽に手を引っ張られ、待っている人々の列に並ぶ。
「1時間ちょっとくらいね」
どれくらいいるのか彼の腕を支えに背伸びしてみる。
仲良しな2人の姿は端からみれば恋人同士のように見える。
「ふぅ、やっと乗れるね。1番後ろにしようよ」
ようやく乗れる順番が来た美羽は、最前列よりもスリルを感じられる後ろを選んで座る。
「前の方じゃなくていいんですか?」
「だってそっちの方が面白いからね」
「美羽さんがいいっていうなら、僕もそこにします」
彼女の隣に座ったコハクは肩に安全装置を落とした。
「スタートランプがついたわ」
ピッと1つグリーンのランプがつき、美羽がうきうきしながら待っていると、即残りの2つも点灯しジェットコースターがいきなり時速195km以上のジェットスタートする。
「ゴーーッ♪」
「えぇえぇえええ!すぐ走り出すんですかーっ!?」
その速度を体感したコハクは緑色の双眸を丸くして大声を上げる。
ひねりせんべいのように捻じ曲がったレールを走るだけじゃなく、大鎌の振り子が乗客たちの頭上すれすれを通過する。
きゃっきゃと喜ぶ美羽の傍ら、彼の涙は風に乗って遥か彼方へキラリと飛んでいく。
「(あぁ、もう意識が・・・っ)」
エス字フックのような形状のレールを急降下する瞬間、さらに引っ張られる強烈なマイナスGがかかり、あまりの恐怖に気絶しそうになってしまう。
その最高時速は250kmは超えているんじゃないかと思えるほど、全身の血の気が引きそうな恐ろしいスピードだ。
「もう終着点についちゃった。コハク、大丈夫・・・?」
「―・・・大丈夫ですよ!」
彼女に背を向けて袖で涙を拭い、爽やかな笑顔で振り返る。
「次はフードショックマンションよ!えっと、難易度・・・どっちにしようかな。強い・・・シュタルクにしてみようっと♪」
「メニューはどうするんですか?」
「和訳でアオスシュテルベンは滅亡っていう意味なんだって」
美羽はガイドブックをぺらりと開いて言葉の意味を読む。
「それじゃあそれにしよう!」
「美羽さんとコハクくん、楽しそうでよかった・・・・・・」
メニューを選んでいる2人を見てベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はニッコリと微笑んだ。
2人のデートの邪魔にならないように、少し離れたところから見守っている彼女は、ジェットコースターの時も最前列の方にいたようだ。
「今日はわらしちゃんも楽しんでくださいね」
座敷わらしの姿をした小さな人形を見下ろす。
「うん!」
「私たちは少し大人しそうなリイシューのシュレッケンにしましょうか」
しばらく2人だけにしてあげようと、別の部屋に入っていく。
席につくとメイド姿の従業員が料理を持った皿を抱え、ニコニコと営業的な微笑みを浮かべてテーブルへ並べると、さっと部屋から出て行った。
その後、“お待たせいたしました。ごゆっくりと無理やり召し上がってください”とアナウンスが流れた。
「無理やりって、どういうことなんでしょうね?」
皿に被せてある蓋をとってみると、ローストチキンがベアトリーチェを見上げるように立ち上がる。
「お食べよ〜食べてよ〜。食べられてよぉ〜っ」
「きゃぁあっ、お料理が喋りましたよ!?」
「うわぁん。わらしのところに来ないでぇえ」
バームクーヘンがゴロゴロと転がり、座敷わらしに擦り寄りながら食べられようとしている。
「ちょっとビックリしましたけど慣れれば平気ですね。でもわらしちゃんにはちょっと怖いのかもしれませんね」
小さなお友達を見つめてクスリと笑う。
一方、美羽たちはその数倍恐ろしい部屋の中にいる。
「いやぁああ食べられる!食べる前に食べてやるわ!!」
頭から食パンにサンドされた彼女はムシャムシャと食べ返す。
料理が客を食べても消化されるわけではなく害はないのだ。
実際に食べてしまっても、普通の食べ物と同じ栄養が取れる。
果敢に挑んでいる彼女の傍ら、コハクの方はシュトーレンに追いかけられて悲鳴を上げて逃げ回っている。
「こ、来ないでくださいっ」
「うるさい、大人しく喰われちまえぇえ!」
大人しそうな彼をターゲットにした料理たちは、じりじりと囲みバクッと食べてしまう。
「やだぁあ、お菓子に食べられるなんていやだぁああっ」
抵抗する間もなく喰われてしまい、その中から断末魔のように叫ぶ。
「コハク、そこから出るには食べるのよっ」
「(無理です美羽さん・・・僕には無理です・・・っ)」
心の中で呟きながらコハクの意識はプツッと落ちてしまった。
「もうシュトーレンもステーキも消えたから大丈夫よ、コハク。起きて!」
終了時間のベルが鳴ると料理たちは跡形もなくパッと消え、まだ気を失っているコハクを起こそうと、美羽が彼の肩を揺すって起こす。
「―・・・美羽さん?うっ・・・すみません」
「いいのよ。起きられる?」
「はい、大丈夫です!」
差し出された彼女の手を握り床から起き上がる。
「それじゃあ謎のアドベンチャーに行こう♪」
「今度のも面白そうですね」
絶叫が苦手だとは言い出せず、楽しそうに笑顔で言う美羽に付き合う。
部屋から出てきたベアトリーチェたちと合流して列に並び、50分ほど待ってゴンドラに乗る。
「パラミタ以外じゃ、こんなもの乗れないわよねっ」
緩やかな流れな川から突然、激流ゾーンへ突入しジェットバイク以上の速度で進む。
「落ちないように、私の手を掴んでいてね!」
安全装置の縄にしがみついているコハクへ片手を差し出してぎゅっと掴んだ。
落ちそうになったら漕ぎ手が助けてくれるのだが、記憶からスッと消えたかのように必死な形相で、落ちてたまるかと耐える。
「花の蔓が!うわぁあ〜っ」
ビシャァアッ、バシャァアアンッ。
草に生えている花たちが蔓をうねうねとさせ、ゴンドラを狙って水面を叩く。
その衝撃で天井につきそうなほど水柱が立ち昇る。
蔓の襲撃をものともせず、漕ぎ手はオールを手に川を滑るように全て避ける。
「もうすぐ出口だ。そこの2人、右か左か・・・真ん中。どれか選んでくれ!」
「真ん中よ、真っ直ぐ進んで!」
「それでいいんだな?」
漕ぎ手はニヤリと黒い笑みを浮かべ、選ばれたその道へ突き進んでいく。
「もしかして滝じゃないの!?」
「あ・・・、ありえないですよ!美羽さぁああんっ!!」
美羽とコハクは互いにしがみつき、耳を劈くような声を上げて絶叫する。
ゴンドラは大量の水が流れる滝の上を滑り落ち、美羽たちが着ているレインコートをびしょ濡れにする。
レインコートを従業員に返しアトラクションを出た4人は、他の絶叫ものも行ってみようと走る。
そこへ行くと冷たく冷えきった監獄の中に入れられる。
複雑にこんがからがった花の蔓に触れず、10秒以内で牢屋の鍵を取るようにアナウンスが流れ、美羽が必死に手を伸ばす。
「う〜ん、もうちょっとで届きそう・・・」
「頑張ってください、美羽さんっ。もうちょっとです!」
「後少し・・・っ。きゃぁあ!?あんな短時間じゃ無理ーっ」
ファンファンと時間切れのサイレンが鳴り引き、斜めに傾いた床に滑り落ちてしまう。
次のお題は壁際に生えた花が喋る言葉を聴き取り、天井にあるカゴの中から言葉に該当する花を、5分以内に選ぶというゲームだ。
花たちが“タポンジャー薔ピーマン薇ポポじゃじゃアでイなリいもスなないアいない・パヤメま早たンいアジザーレアツツもジで科なすい”と、同時に喋りだす。
「この言葉の中にカゴから取る花が何か隠されているの!?」
メモ帳に花たちの言葉を書き、美羽は唸りながら考える。
「えっと、該当するのは1つみたいですから他の花はトラップでしょうね。頭の方から考えると、ポピーじゃない・・・と言っていますね」
「そうすると2つ目は・・・ジャーマンアイリスはまだ早い・・・ってことね」
コハクと美羽はメモに書きながら間違いを潰してく。
「パンジーでもないっ・・・タンポポです・・・これでしょうか?」
「残りがよく分からないけど。コハクに任せるわ!」
「それじゃカゴの中から取ってきますね!」
背中の翼で飛んだコハクは、天井に吊るされているカゴの中にあるその花を手に取る。
取った瞬間、ブーーッと不正解のサイレンが響き、床が狭まってしまう。
その下を見ると地面の底に敷き詰められた野薔薇のトゲが、ギラリと輝いているように見えた。
「刺さったらどうなっちゃうの!?」
「―・・・っ!?」
落ちたとしたらコハクだけでは4人を支えきれない。
安全のため透明に見えるように加工を施したマットが敷かれている。
しかし4人からはそれが見えず顔を蒼白させる。
「うわぁん、ベアお姉ちゃんーっ。わらしちっくん刺されたくないよぉお」
「私も怖いですっ、わらしちゃん!」
ベアトリーチェと座敷わらしは互いに抱きつき、ぶるぶると身を震わせる。
「薔薇です・・・これでしょうか?―・・・すみませんっ、また間違えてしまいました!」
不正解の花を取ってしまい、床が狭まってしまう。
正解はアザレア・ツツジ科です、だ。
床と後ろの壁が回転し、次の牢獄へ移動させられる。
最後は1分間、その床の上から落ちずダーツを避けてください、というものだ。
鋭く尖った鏃がついたダーツを避けると、壁にガスッと突き刺さる。
「むっ、無理です。本当に無理すぎます!あぁあっ、何ですか!?突然、目の前が真っ暗にっ」
コハクは美羽を抱えて飛ぶが、彼に刺さる前に刃はキュウバンに変化して顔面に張りつき、飛ぶ力が限界に達して落ちてしまう。
「きゃぁあ、刺さる!!?」
眼前に迫る薔薇の棘にさすがの美羽も絶叫してしまった。
それに届く前に透明マットの上にポスンッと落下して2人同時に気絶する。
時間切れで外に出た頃に目を覚まし、美羽の方はまだ元気いっぱいだ。
しかしがコハクは叫び疲れてへとへとな状態になってしまい足をふらつかせる。
「ど、どうしたの!?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「ごめんねコハク・・・。そこで休もう」
絶叫系が苦手だとは知らず、明らかに顔色が悪くなってしまっているコハクをベンチへ連れて行く。
超ミニなスカートをはいているため恥ずかしかったが、倒れてしまった彼を介抱してあげようと、大切な人のためだからと自分の膝の上に頭を乗せてあげた。
「何だか・・・・・・美羽って、あったかいね」
「そう・・・かな」
「もしかしてカップル?可愛いね♪」
「―・・・っ。(そう見えるのかしら・・・)」
園内でバイトをしている藤井 つばめ(ふじい・つばめ)に声をかけられ、かっ顔を真っ赤にして美羽は黙ったまま顔を俯かせてしまった。
純真な彼の方は彼女が否定しないのを見て、恥ずかしさのあまり何も答えられなくなった。
「遊園地からのサービスだよ。甘い〜チョコをどうぞ」
バスケットの中にあるチョコを掴んだつばめがベアトリーチェに手渡す。
「ありがとうございます。わらしちゃんはお人形の姿ですから、食べられないんですよね。今度、美味しいお料理を作ってあげますね♪」
「うん♪」
チョコを食べられない変わりに作ってくれると約束してもらい、座敷わらしはニコニコと笑う。
「えーっと2人には・・・。あ〜っ、後1個しかないよ。半分こして食べてね」
本当はまだ残っているが、それしかないフリをしたつばめは片腕でバスケットの中が見えないようにする。
「じゃあね、熱々なカップルさんたち」
美羽とコハクの2人はつばめからはそう見えたようだ。
彼女は片手を振ってニヤニヤと笑いながら、他の客にチョコを配りに行った。
「分けようか、コハク」
「そうですね・・・。とても美味しいです」
膝に頭を乗せたまま、美羽に2つに割ったチョコを食べさせてもらった。
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