薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

一緒に歩こう

リアクション公開中!

一緒に歩こう
一緒に歩こう 一緒に歩こう 一緒に歩こう 一緒に歩こう 一緒に歩こう 一緒に歩こう 一緒に歩こう 一緒に歩こう

リアクション


第20章 思い切りスイーツ!

「バレンタインデー一色ですわね。今頃あの駄目人間も浮かれていることでしょう」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は、窓の外を見ながら、呟いた。
 駄目人間とは、パートナーの影野 陽太(かげの・ようた)のことだ。
 陽太が御神楽環菜と2人きりでイチャイチャできるようにと、エリシアなりに気を使って、最近は他の陽太のパートナー達と出歩いて過ごすことが多い。
 バレンタイン用に飾り付けられたお洒落な高級カフェで、今日はノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)と、もう一人ゲストを呼んでスイーツを楽しんでいた。
「美味しいですぅ〜。お菓子だけの食事ですぅ〜」
 一緒にテーブルを囲んでいる人物は、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)だ。
「今日は遠慮なく食べていただいて問題ありませんわ」
 そうエリシアが微笑みかけると、目を輝かせてエリザベートはあれこれスイーツを選んでいく。
「おねーちゃん、わたしもこのケーキもう1個食べてもいい?」
「ええ、お腹を壊さないように気を付けて下さいね」
 エリシアがノーンにそう答えると、ノーンもすごくうれしそうな顔で「すみませーん」と手を上げて、ウエイトレスを呼ぶ。
「御神楽環菜はまだ、蒼空学園に復帰できないのでしょうかねぇ」
 エリシアの紅茶を飲みながらの言葉に。
「まだ戻らなくていいですぅ。その方が平和ですぅ」
 甘いケーキに、甘いジュースを飲みながら、エリザベートはそう答えた。
「御神楽環菜自身も、その方が平和でしょうけれどね。……あの駄目人間も」
 エリシアはふうと息をつく。
「エリシアのパートナーは駄目人間なんですかぁ」
 もぐもぐケーキを頬張りながら、エリザベートが問う。
「そうですわね。救いようのない駄目人間ですわ」
 エリシアは陽太が先日まで死ぬほど落ち込んでいたことや、ナラカでも悲壮な状態であったことなどをエリザベートに話していく。
「でも、最近は幸せそうですわね。ま……パートナーとしては安心しないでもないといったところでしょうか」
「苦労してるんですねぇ〜。何せ、あのカンナにくっついてる男ですからねぇ。パートナーは契約前に、ちゃんと選ばなきゃだめですぅ〜」
 しみじみと言い、ごくごくエリザベートはオレンジジュースを飲む。
「エリザベート・ワルプルギスは、パートナーと上手くいっていますの?」
「ん……」
 エリザベートは次のイチゴのスイーツにフォークを伸ばしながら、ちょっと考える。
「大ババ様は、パートナーといいますか〜、口うるさい大ババ様ですぅ。ミーミルはまだまだ子供ですぅ」
 そんな言い方をしたエリザベートだけれど……。
 エリザベートは、アーデルハイトのことを両親以上に両親と思っているところがある。
 また、ミーミルのことは、ちびと呼んで自分の子供の用に接してはいるが、よく立場は逆転していた。
 二人とも、エリザベートにとって大切な存在だった。
「お待たせいたしました」
「チョコレートケーキきたきたっ!」
 運ばれてきたチョコレートケーキを前に、ノーンがはしゃぎだす。
 そのケーキは、小さなハート型のケーキだ。ケーキの上にも、ホワイトチョコのハートがちょんちょんと乗っている。
「可愛い〜。美味しそーっ」
「バレンタイン期間の限定メニューですねぇ〜。私も食べたいですぅ」
「それじゃ、半分どうぞっ!」
 ノーンはフォークでケーキを半分にすると、「はいっ」と、微笑んでエリザベートに皿を差し出した。
「いただきますぅ〜。代わりにこっちを上げますぅ」
 エリザベートはチョコレートケーキを自分の皿に移して、頼んであったプチケーキの1つ、オレンジケーキをノーンの皿に乗せた。
「ありがとー」
 ノーンは嬉しそうな笑みを浮かべて、順番にケーキを口の中に入れていく。
「そういえば、エリザベート・ワルプルギスは、どんなバレンタインを過ごしますの?」
 2人を微笑ましげに見ながら、エリシアが問いかけた。
「生徒と会う約束してますぅ。何をするかは決めてないですけど〜、今みたいに美味しい物を食べたいですぅ〜。エリシアももっと食べなさい〜。エリシアの為に頼むですぅ」
 エリザベートはそう言うと、追加で次々にスイーツを頼んでいくのだった。

「ふう、お腹いっぱい……」
 ノーンがフォークを置いた時、エリザベートは先にギブアップしていて、椅子にもたれてお腹をさすっていた。
「苦しいですぅ……」
「残り、頂きますわね」
 2人が残すだろうと思って、自分の分はほとんど頼まなかったエリシアが、残ったスイーツを引き寄せて、戴いていく。
「それじゃ、ちょっと休憩だね」
 ノーンはケースの中から、竪琴を取り出した。
 そして、くつろぐエリザベートと、いつも優しくしてくれるエリシアに、労りや感謝をこめて、曲を静かに、奏でていく。
 ぽろん、ぽろん
 優しく響くその曲は、シャンバラ独立記念紅白歌合戦で演奏した『貴女のために』だ。
 エリザベートは満足そうな顔で、目を閉じてノーンの生み出す心地よい音を、聞いていた。