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第46章 グレートキャッツ

(結構いい家で暮らしてるんだな。けど……これって、軟禁状態みたいなもん?)
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)を誘うために、彼女が暮らす家を訪れていた。
 セイニィは現在ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)と一緒に、ツァンダ家の別邸で暮らしている。
 つまり、監視をされているようだった。
「どうぞお座りになって」
 ティセラがティーセットを持って現れる。
 彼女に勧められ、牙竜とパートナーの龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)はソファーに腰かけた。
 そして、茶請けとして、牙竜はセイニィにもらったクッキーをテーブルの上に出した。
「美味しそうなクッキーですわね」
 茶を淹れた後、ティセラも向かいに腰かける。
「勿論、最高に美味いぞ」
 そのクッキーの見た目ばボロボロだった。
 だけれど、ティセラもそれがセイニィが作ったものだと理解していたし、味も本当は美味しくはないことも解っていた。
 だけれど、クッキーと同じようにセイニィの手もボロボロになっていることも知っていたから。
 そんなクッキーを、セイニィを好きな2人が、美味しいと感じないはずはなかった。
「……ところで、ティセラにちょっと聞きたいことがあるんだが」
 牙竜の表情が真剣になる。
 セイニィは現在、衝立の奥でお出かけの準備をしているところだ。
「何でしょうか?」
 優雅に紅茶を飲むティセラに、牙竜は以前から疑問に思っていたことを、尋ねてみることにする。
「セイニィの星剣、グレートキャッツのことなんだが……」
 剣の花嫁の光条兵器といえば、非殺のONとOFFが出来る優れもの。
 星剣ともなれば、山も砕くほどの力がある。
 使い手によっては、威力故に使うのを躊躇う者もいると聞く。
 そんな風に、牙竜は星剣のことを解釈していた。
「で、疑問に思っているのは、セイニィの星剣グレートキャッツはティセラを初めとした他の十二星華の星剣と違って『水に濡れる弱くなる』と言う明確な弱点があるよな? これって、おかしくないか?何か理由があるのか?」
「私もその疑問に同感です」
 灯が牙竜の言葉に付け足すように、自分の考えを述べる。
 星剣に別の使用方法がある可能性があるのではないか。
「一つは、その本来の使い方に厳しい使用条件が課せられている場合、もう一つはセイニィ様自身も星剣の正しい使用方法を知らない場合です」
「う、うるさいわね! あたしだって完璧じゃないんだから、弱点の1つや2つくらい、あってもしょうがないじゃない!!」
 衝立の向こうから、セイニィに声が響いてくる。
「そうですか……無論、これは私の憶測でしかありませんでしたが、セイニィ様の星剣は他の星剣と違い弱点が明確な事が気になっていました」
「確かに、セイニィの星剣には弱点がありますが、それも武器の特徴なのですわ。わたくしやパッフェルの星剣には、貴方がおっしゃられたような、山をも砕くほどのパワーがあります。しかし」
「あたしのグレートキャッツは素早さ重視だからそこまでの威力はないわね」
 ティセラの言葉に、セイニィが続けた。
 星剣といっても、武器によって千差万別なようだ。
 威力や能力にも大きな違いがある。
「杞憂ならそれでいいんだ……」
 牙竜はほっと息をついた。
 セイニィを守り、共に戦い、歩む為にも疑問を解消しておきたかったのだ。
「今後、新たな発見があっても、セイニィと手を取り合い、歩き、添い遂げる。その心に一切の偽りはない!」
 言って、牙竜はテーブルに両手をついた。
「ところで、親への挨拶をしてませんでした! ティセラ……娘さんをお嫁にください!」
 がばっと頭を下げたところ。
 ドカッ、バキッ、ゲシッ!
 と、灯にどつかれ、殴られ、蹴られた。
「げふん……」
「真面目な話してるのに色ボケを言いますか? ……ティセラ様もどうぞ」
 灯が牙竜を踏みつつ、ティセラに目を向ける。
 ティセラはくすりと笑みを浮かべて首を左右に振り、持っていたカップをテーブルに下した。
「いってぇ……」
 体をさすりながら、牙竜は起き上がりソファーへと戻る。
 そんな彼に、ティセラは優雅に微笑んで。
 「セイニィが決めた相手であれば、わたくしがとやかく言うことはございませんわ」
 そう、答えた。
 怪我を治療しながら、牙竜は強く頷く。
「ティセラ、セイニィ」
 ティセラと、着替えて出てきたセイニィに目を向けて。
 強い口調で牙竜は、はっきりと言う。
「ちょっと暴走した……最低でもカンテミールの奴を倒さないと……お互いのやるべき事を果たしたら……その時は、本当にセイニィを嫁として貰っていく!」
 灯は息をついたが、今度は手を出さなかった。
 ティセラはただ、微笑を浮かべている。
 セイニィは――。
「そ、そんな約束して、果たせなかったらどうするのよ、バカ」
「大丈夫だ、行こう――」
 牙竜は、赤くなって俯いているセイニィに、手を差し出した。
 セイニィはゆっくりと、彼の側へと歩いていく。