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神楽崎春のパン…まつり

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神楽崎春のパン…まつり
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「ヴァイシャリーは水路が多いですから、遠回りになってしまいますね」
 沢渡 真言(さわたり・まこと)は、パートナーのティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)と一緒に、馬車で荷物を運んでいた。
「青い鳥様は、もう着いたかもしれませんわね。パンパーティ楽しみですわ!」
 ティティナは大事そうにダンボールを抱きしめる。
 友人のメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)と、パートナーの志位 大地(しい・だいち)とは最初の橋まで一緒だった。
 大地はそのまま付近の警備を努め、青い鳥は大地からの差し入れを持って、最短距離で宿舎へと向かったのだ。
「僅かな休息時間だというのに、神楽崎隊長は大変ですね……。少しでも負担を軽くしてあげませんと」
 真言は大人びた女性の外見をしているけれど、服装は執事服だった。
 だから、穿いているものは狙われないと思っていた。
「ティー、気をつけてくださいね。青い鳥さんも大丈夫かしら」
 2人が運んでいる2つのダンボールのうち、1つは本物。もう1つは偽物だ。
 橋が混んでいたため、更に遠回りをして宿舎へ向かっていく。
 それが幸いし、2人は狙われることなく宿舎近くまでたどり着いたのだが……。
「待てそこの女ーーーー!」
 突如、声が響いたかと思うと、真言とティティナはおぞましい感覚に襲われる。
「オレのトレジャーセンスによると、そっちが宝だ!」
 声の先にあったのは百合園の制服を纏った女性の姿。
 だけれど、声は男性のものだ。
「なんですか、あなたは!」
「お宝なんてありませんわ」
 真言が馬を止め、ティティナは箱を体で覆って守る。
「いただくぜ!」
 その人物――天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)は、ダッシュローラーで一気にこちらへと近づいてくる。
「させません」
 真言は刀を抜いてティティナを背に庇う。
 鬼羅はミラージュで幻影を作り出して、真言の攻撃を避けたかと思うと、突如全裸になった。
 女装をしていたが、鬼羅の体は立派な男性だ。
「パンツじゃないから恥ずかしくないぜ!! むしろ恍惚!! しかも空気抵抗削減といいこと尽くめ!! 風が気持ちぃいいいい!!」
 恍惚の笑みを浮かべ、レビテートで浮いた彼が、むしろ股間がっ、真言とティティナの顔に迫る。
「さぁ、その履いているパンツください!」
 口をあけてぽかんとしている2人の服を、鬼羅はサイコキネシスで脱がしていく。
「……か、刀の前に出してくるとは……そんなに斬り落として欲しいのなら……お望み通り、より本物の女性に近づけて差し上げましょう!」
 真言は、片手で服を抑えてサイコキネスから抗いながら、もう片方の手で刀を一閃。
「ひぎっ」
 ぱらぱらと、あたりに黒い何かが舞った。
「ああっ。ひどいですわ。ひどいですわっ」
 ティティナはめくれ上がるスカート、ずりおちそうなショーツを必死に抑えながら、えいっと光術を放つ。
 ぴかっと、あたりが光り、鬼羅の全裸が照らされた。
 周囲から女性達の絶叫が響いてくる。
「逆効果でしたわ……っ。ううっ」
 より鮮明に浮かび上がった全裸に、ティティナは涙ぐみながらも箱を守り続ける。
「次は、外しませんよ……そのブツ、神楽崎隊長への土産とします!」
 真言の刀が怪しい光を放つ、馬車から飛び降りて、真言は鬼羅に刀を振り下ろした。
「ふぎぃっ。待ったー!」
 無防備な股間を押さえ、鬼羅は後ろにジャンプしたかと思うと、足を折って正座をし、両手を地面についた。
「ありがとうございまぁあああす!!」
 物凄く整った土下座だった。全裸のままの。
 度重なるメンタルアサルトに混乱する真言とティティナ。次の瞬間には鬼羅は繁華街の方へと走っていった。全裸のまま。
「な、なんだったんでしょう……」
 真言は額を抑えながら、ティティナの元に戻る。
「ダンボール、無事ですわ。このお仕事……甘くみていましたわ……。早く青い鳥様と合流したいです……っ」
 ティティナは鬼羅の存在を脳裏から消そうとした。だけど、彼の体の中心だけは鮮明にまぶたに焼き付いてしまっていた。
「そうですね。甘く見ていたかもしれません。ロイヤルガードとして、神楽崎隊長と共にまだまだ学ばねばならないことが、沢山あるようです……。一撃で切り落とす方法とか!」
 次はメンタルアサルトなんかに負けないぞと真言は意気込むのだった。

「何事もなく、到着できましたね」
「ご主人小さいから、俺様しか見えなかったのかもな! ……ん?」
 ソレは、宿舎側に到着をしたソアと、ベアにも向かってきた。
「パンツは脱ぐもの脱がすもの!! ロックオンしたぁ! 狙い奪うぜぇ!!」
 どどどどどどっと駆けてくるのは、全裸の鬼羅。
「え、えええええっ、えええっ」
 ソアは驚いて、逃げることも忘れる。
「俺様の服を脱がすってことは……解ってるんだろうな! 爆発するぜ」
「てめえに用はない!」
「俺様も、おまえに用はない。だが、そんなに欲しいっていうんなら、くれてやるぜ」
 ベアは鬼羅に向かっていき、パン…チをプレゼント!
「ぐはっ、しかし、ただでは倒れんぞ、ただではっ」
 吹っ飛んだ鬼羅は、反動を利用してソアの元にダイビング。
「ううううっ、そ、そ、そうでした。ロープで結んでしまいましょう。きつくぐるぐる巻きに、千切れない程度に、あ、いえ、体をですね、体を……」
 ソアは混乱しながら後ずさり。
「まだ足りないようだな!」
 ベアが向かっていく。
「てめえのパン…は遠慮するッ! ふふ、ははは、貰ったー! 穿きたて、むきたてじゃないのは残念だがなッ」
「あっ」
 ダッシュローラーでソア達の飛空艇に急接近した鬼羅は『ショーツ』と書かれていたダンボールを抱えて、そのまま全裸で走り去った。
「……盗られてしまいましたね」
「惜しいことをしたな。けど、ご主人に怪我がなくてよかった」
 ベアはソアに近づいて、彼女をいたわる。
「宿舎で試着しようかなとも思っていたんですけれど……仕方ないですね。じゃ、残りのものを運んじゃいましょうか」
「そうだな!」
 ソアとベアはあまり気にせず、寧ろ忘れることにして荷物を宿舎の中に運んでいく。
 ちなみに、鬼羅が盗んだその箱にはソアが購入しておいたショートパンツが大量に入れられていた。
 トパンのあたりが、ガムテープで隠れていただけで、中身に嘘偽りはない。