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ジューンブライダル2021。

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ジューンブライダル2021。
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リアクション



6


 アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)
 白瀬家を力不足で追われた白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)とは――自分とは違って、賢者の石という家の試練に果敢に立ち向かっている子。
 またある時、彼女を一生懸命守ろうとした歩夢を気遣う優しさを見せたり、助けられたままはイヤだと言って助けられるようになると言ってみせた、強さを秘めた素敵な子。
 いつからだろう?
 アゾートと一緒に居る、それだけで幸せな気持ちになるようになったのは。
 いつからだろう?
 彼女に強く惹かれるようになったのは。
 そんな折、ジューンブライダルキャンペーンのことを知って。
 アゾートと一緒に参加したい。そう思った。
「ねえアゾートちゃん。模擬結婚式、してみない?」
「結婚式……?」
「あまり興味ないかもだけど……秘密のサプライズがあるから」
 会いに行って誘って、返事を待つ間のどきどきを必死で抑える。
 アゾートが、思案気に視線を宙に向けた。数秒後、小さく頷く。
「いいよ」
「じゃあ、一緒に行こうっ」
 歩夢はアゾートの手を取って歩き出した。


 二人の花嫁、ということで。
 お互いに着るのはウェディングドレス。
 だが――。
「歩夢〜花嫁衣裳あと二着しかないって〜」
「えっ?」
 白瀬 みこ(しらせ・みこ)の一言に、愕然。
「しかも片方は…足元とかこんなに大胆っ!」
 みこが持ってきたウェディングドレスを広げて見せる。
「う、わぁ……」
 あのドレスはひざ上何センチなのだろう? ウェディングドレスらしからぬミニ丈である。
 もう一着はピンク色の普通のウェディングドレスで、片方が普通であるがゆえに対比がはっきりとしていた。
「こ、これだけ?」
「そう、これだけ。どうする〜? この短くて恥ずかしいの…自分で着る?」
「や、えぇと……だって私……」
 視線を下げて、自身の身体を見つめ。
「む、無理だよっ……」
 とてもじゃない、と首を横に振った。
「じゃあ……アゾートに着せちゃう? 彼女に着せたら色っぽいだろうねえ〜☆」
「これをアゾートちゃんが着たら……?」
 短いドレスから、アゾートのすらりとした脚が伸びているのを想像して――
「はうう」
 くらりとした。
 だめだ。絶対、だめだ。
「……ダメ。こんなの着せたら、失礼だよ」
「えー、そんなことないと思うけど〜……」
「ダメ。これは、恥ずかしいけど私が着るっ……!」
 決意の言葉に、みこが目を瞬かせた。
「だからアゾートちゃんにはこっちのドレスを渡してね。じゃあ私、着替えるから」
 はあいと間延びした声で返事をして、部屋を出るためドアに向かったみこが途中で振り返った。
「どうしたの? 忘れ物?」
「ううん。歩夢ってば本当、アゾートのこと気遣うねえ〜って思ってさ」
「そういうわけじゃ、」
「わかってるよ〜、アゾートのことが、」
「みこちゃんっ」
「はいはい、それじゃね〜」
 真っ赤な顔でみこの名前を呼ぶと、逃げるようにみこが部屋を出て行った。


「アゾートちゃん……すごく綺麗」
 お互いに着替えてからの初顔合わせで、歩夢は正直に気持ちを伝えた。言う際にちょこっと照れたけど。
「歩夢の格好は……」
「う、あ。へ、変……だよね?」
 模擬とはいえ結婚式でこんな格好。
 変な子だと思われてしまうだろうか。思われる、気がする。
 あう、と顔を俯かせていると、
「ねえアゾート。歩夢の格好、恥ずかしい衣装だけど……実はこれとアゾートが着てるドレスしかなくてさ。それでアゾートにこんなの着せられないって、自分から着たんだよ〜」
「そうなの?」
「そうなの。フフッ、健気だねえ〜」
「歩夢、ボクのこと考えてくれてありがとう」
 みこからの助け舟を聞いて、アゾートが微笑んだ。
 変な子だと思われずには済んだけれど、気遣いがバレたのは恥ずかしくてまた顔を俯けた。真っ赤になった顔を見られたくなかったのだ。
「歩夢、なんで俯くの?」
「顔、赤いから……」
「顔赤いといけないの? 歩夢の顔が見えないの、ボク嫌なんだけど」
 そう言われたので、顔を上げた。
「あ、のねアゾートちゃん」
「?」
「サプライズのことなんだけど」
「あ。言ってたね、そういえば」
「うん。これ……」
 歩夢は、包みをアゾートに差し出す。
「少し遅れちゃったけど……六月二日はアゾートちゃんの誕生日だよね。これ、プレゼント」
「え」
「お守りだよ。賢者の石を巡る冒険で、お互い頑張っていけたらいいと思うけれど……いつも一緒にいられるとは限らないから」
 だから、もしピンチになってしまっても、このお守りが心の支えになるように、と。
 今はまだ友達止まりだけれど。
 いつか、彼女が心から信頼してくれる人になれるように、と。
 ――その日がきたら、私……アゾートちゃんに、秘密を打ち明けよう。
 ――私の想いも、一緒に。
「ありがとう歩夢。大切にするよ」
 今は、こうして隣に居るだけで。
「行こう。式が始まる」
「うんっ」
 アゾートに手を引かれ、式場に入っていく。


*...***...*


 用事があって出掛けた際、結婚式場の前を通りかかった。
 時期が時期だからか、丁度式が行われているらしい。
「きれいなおねえさんやかっこいいおにいさんがいっぱいだねっ」
「結婚式をしているからね」
 柚木 郁(ゆのき・いく)の言葉に、柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)は微笑んだ。
「けっこんしきって、なーに?」
 と、興味を持ったらしい。くりくりと目を丸くさせて問うてきた。
「大好きなひとと、ずーっと一緒の約束をすることだよ」
「だいすきなひとと、ずーっといっしょ……」
 貴瀬の言葉を郁が繰り返す。反芻しているようだった。しばらく黙っていた郁が、
「じゃあね、いくね、クロエちゃんと、貴瀬おにいちゃんと、瀬伊おにいちゃんとけっこんするのー」
 にぱー、と笑顔で言い放った。
「郁。結婚とは一番愛しい相手と共に生きていくという誓いのことだ」
 その言葉を、柚木 瀬伊(ゆのき・せい)が柔らかに訂正した。郁はよくわかっていないらしく、きょとんとした目を瀬伊に向けている。
「いちばんをきめるの?」
「まだ郁には早いかもしれないけどな。覚えておけ、いつかわかる時がくるまで」
「うんっ」
「とはいえ、模擬結婚式ならそこまで深く考えなくとも良さそうだ。気になるならやってみるといい」
 式場のパンフレットに、ジューンブライドキャンペーンと書かれているのを瀬伊が指差す。
 模擬結婚式、承ります。
「もぎ?」
「予行演習みたいなものだよ。やってみる?」
「やるっ。クロエちゃん、さそったらきてくれるかなぁ?」
「どうかな? 誘ってみようか」
「うんっ」
 他にもいろいろ準備しないとね、と話しながら、手を繋いで帰った。


 数日後。
 クロエを誘うことに成功した貴瀬は、郁を連れて式場に来ていた。
「瀬伊も来るなんて……ショタ疑惑」
「どうしてそうなる」
「や、郁には甘いなぁと。間違ってな……」
 ごん、と殴られた。痛い。手加減されてなかった。
「いいから支度を進めろ。クロエ嬢を待たせることになる」
「はーい」
 その発言から、ショタ疑惑というより小さい子が好きなのかな、と邪推しつつ。
 貴瀬は、実家から送ってもらったタキシードを郁に着せた。
「うん、可愛い」
 自分のお古なのが少し申し訳ないけれど。
「俺の小さい頃によく似てる」
「いく、貴瀬おにいちゃんにそっくり?」
「うん、そっくり」
「貴瀬にしては可愛すぎるだろう」
 瀬伊に揶揄されつつ、貴瀬は用意していたブーケを郁に手渡した。
 オレンジローズを中心とした可愛らしいミニブーケだ。
「クロエちゃんに渡しておいで?」
「うんっ」
「郁がきちんとリードするんだぞ。男の子だからな。いいな?」
「はいっ。いく、がんばる!」
 ぱたぱたと走っていく後姿を見送り。
「参列者の席に行こうか」
「ああ」
 貴瀬と瀬伊は、一足先に式場に向かう。
「あれ? 紺侍」
 途中、丁度良く紺侍を見つけた。フォーマルな格好をしてカメラを持っているあたりカメラマンとして式場に呼ばれたのかもしれない。
「貴瀬さん。ちわ」
 ぺこりと軽く頭を下げる紺侍に近付いて、
「今大丈夫?」
 時間はあるか聞いてみた。はい、と頷かれたのでにこりと微笑んだ。
 貴瀬が写真を撮るようになって数ヶ月経つ。最初の頃と比べればずいぶん上達したとは思うけれど、まだわからないことの方が多い。
 なのでざっくりと現状を説明し、師事を仰ぐことにした。
「こんな時どうやって写真を撮ればいいか、わからないんだよね」
 折角の機会なのだから、出来る限り綺麗に思い出に残るようなものを撮ってあげたいし。
「郁さんとクロエさんが? そりゃおめでたいっスね、いいモン残してやらなきゃ」
「教えてくれる?」
「もちろん。てェかオレも撮りたいっス。絶対可愛いっしょ」
「うん。すごい可愛い。あとね、郁が俺の小さい頃に似てるんだ」
「へェ。是非とも見に行かないと」
 そう言われると妙に気恥ずかしいけれど。
 可愛い郁の晴れ舞台だから見に来てもらいたい気持ちの方が大きい。それに、紺侍が傍に居るなら撮り方で困っても随時教えてもらえそうだし。
「どうぞ」
 式場へと案内した。


 おとこのこがきちんとリード。
 瀬伊から教わったことを守り、郁はクロエの手をきゅっと握った。クロエが万一にでも転ばないようにである。
「このみち、バージンロードっていうのよ」
「ばーじんろーど?」
「いみはわからないけどっ」
 純白のウェディングドレスを着たクロエが、くすくすっと微笑んだ。花が咲いたような、明るくて可愛らしい笑顔。
「ブーケ、とってもきれい」
 それから、郁が渡したブーケを抱きしめる。
「うれしい」
「クロエちゃんがうれしいと、いくもうれしいの」
「えへ。それなら、みんなうれしいのね」
「うん。みんなうれしいから、みんなしあわせだよっ」
 くるり、参列者席を見渡す。
 見守ってくれている貴瀬も瀬伊も、優しい顔をしていた。
 ――おにいちゃんたちも、しあわせなんだ。
 幸せじゃないと、あんな顔はできないもの。
「クロエちゃんも、しあわせ?」
「うん! ドレス、かわいいし。おはな、きれいだし。みんな、たのしそうだし。すごくしあわせ」
 にぱー、と笑顔でクロエが言った。
「いくもとってもたのしくてしあわせだよっ」
 郁もにぱーと笑顔で返す。
「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
 神父さまの読み上げた誓いの言葉は難しくて頭を悩ませたけれど、
「ちかいます」
 真心を尽くす、というのはなんとなくわかったので頷く。
「ちかうわ」
 クロエも頷いた。
 なんだかそれが楽しくて嬉しくて、また笑顔。
 隣でクロエも笑っていた。
 きっと同じ気持ちなんだろう、と思ったら、もっと嬉しくなった。


 郁とクロエが退場していく。退場が終われば模擬結婚式は完了だ。
 貴瀬はカメラをおろし、式の最中に撮った写真を見た。よく撮れている。二人の笑顔がきちんと収められていて、見ているほうも幸せになれそうな写真たち。
「どう?」
「お上手。さすがっスね」
「ありがと。紺侍のおかげだよ」
 データを見せて、ぽつりぽつりと話していると、
「貴瀬おにいちゃん、紺侍おにいちゃん!」
「たのしかったわ!」
 本日の主役たちが戻ってきた。着替えさせてもらったらしく、私服姿だ。
「私服の二人も撮っておきましょっか。記念ってことで」
 紺侍がカメラを構える。
 貴瀬は、紺侍が写真を撮る姿が好きだ。
 普段の人懐っこい姿とはまた違って、声をかける隙も見せないくらい真剣で。
「……カッコいいよね」
 つい、見惚れてしまうくらい。
 つい、言葉にしてしまうくらい。
「はい?」
 貴瀬の声に反応して、紺侍が振り返った。
「ん……なんでもないよ」
 見惚れていたことを誤魔化すように、そっと視線を外す。
「顔、赤いぞ」
 外した視線の先に居た瀬伊に言われた。
 気のせいだよ、と小声で言って、頬を手で押さえた。


*...***...*


 若松 未散(わかまつ・みちる)は落語以外の全ての物事を遠ざけがちである。
 が、年頃の女の子であることに変わりはない。
 なので、街中に張られたジューンブライドキャンペーンのポスターを見て足を止めてしまったのは、いわば必然で。
「してみませんか?」
 ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)に言われてぎょっとした。する? 何を? 結婚を?
「ほら、こんなサービスもあるみたいですぞ」
 指差されて、その文字に気付いた。
 模擬結婚式。
 ドレスに目を奪われていたから気付けなかったが、どうやらそんなものもあるらしい。
 が。
 ――ハルと二人で行ったら、恋人同士みたいじゃないか。
 現にポスターの謳い文句には『恋人同士の予行演習に』と書いてある。
 けれど、結婚式は気になるし。
 頭を働かせた結果、リンス・レイス(りんす・れいす)を誘ってみようという結論に至った。
「する。けど、リンスも誘う。変に勘違いされても嫌だからな」
 前置きしてから、工房に電話をかける。


「わざわざすみませんな、リンス君」
「いいよ、別に。若松は?」
「今ドレスを着ている最中ですぞ。リンス君もどうです? あ、リンス君と模擬結婚式してもいいかもですな」
「いや俺男だし」
「リンス君って冗談言うタイプだったんですか? 意外ですな」
「冗談じゃないんだけど」
 試着室の外から、ハルとリンスの会話が聞こえてくる。
 それなりに打ち解けた様子で、楽しそうな声。
「…………」
 一方で未散の表情は曇っていた。
 原因は、鏡に映った自分の身体。
 幼い身体じゃドレスに着られているみたいでいまいち似合わない。
「……成長の止まった身体、か」
 嘲るような笑みを浮かべて鏡に拳をくっつけた。自分自身を殴るように。
 パラミタに来て、楽しいことがたくさんあった。友達だってできた。
 だけど。
 ――私はまだ、姉さんの死を引きずっている。
 ――何も変わってない……あのときから、何も……。
 自分に対する怒りが沸いた。情けなさも同時に浮かんでくる。一拍遅れて不安がやってきた。
 鏡の中の自分を見上げると、酷い顔をしていた。
 ――こんな顔……。
 ハルにもリンスにも、いや誰にも見られたくない。思って蹲る。
「未散くん」
 試着室の扉が叩かれた。ハルの声だ。
「大丈夫ですか?」
 どうしよう、と思った。
 このまま試着室に居れば、酷い顔は見られずに済む。けれど、心配をかけてしまう。それは嫌だ。心配ばかりかけるなんてごめんだ。
 試着室の扉を開けて出た。
「未散く、」
 ハルの表情が困惑に変わる。
 さっと顔を背けて、
「ちょっとごめん、散歩してくる」
 自分でもずさんな言い訳だなと思いつつ、その場を去った。


 良かれと思って、したことだった。
 未散が喜んでくれれば。楽しんでくれれば。
 そう思って誘ってみたのに、
「空回り、してしまったようです」
 辛いことを思い出させてしまったらしい。あの表情を見れば、言われなくとも理解はできる。
 追いかけなければ。
 けれどどこへ行った? 未散は走っていってしまったようだ。もう姿は見当たらない。
「リンス君すみません。未散くんを探すの、手伝ってもらえませんか?」
 いくらやることが空回りしても。
「未散くんを支えられるのは、わたくしだけなんです」
 常に傍にいて、苦しい時は支えてあげられる。
 そんな存在に、なりたいと。
「最初から探すつもり。気にしないで」
「すみません、ありがとうございます」
 廊下で二手に別れて、ハルは未散を探しに走る。


「若松」
 リンスの声に、未散は肩を震わせた。
 追いかけてきてくれた、らしい。
「なんで来てんだよ」
 嬉しいのに、口から出るのはつっけんどんな言葉。
「心配だから」
「……あっそ」
「帰れって言うなら帰るけど」
「いいよ、居ろよ」
「わかった」
 未散の座るソファに、人一人分スペースを開けてリンスが座った。
「……私さ、リンスに隠してることがあるんだ」
 本意ではないけれど、隠してしまったこと。
「……聞いてくれるか?」
 だけど、友達に隠し事なんてしたくないから。
 うん、とリンスが頷いた。意を決して、話す。
「私って何歳に見える?」
「十五とかそれくらい?」
「はずれ。十九なんだ」
「年下とばかり」
「だよなぁ」
 こんな見た目だもんなぁ、と空笑い。
「姉が死んだショックでさ。成長止まっちゃったんだ」
 笑いが引きつるのが、わかる。
 ああ、こんなにもまだ引きずっているんだ。
「性格も面倒だし、身体も面倒なんて本っ当最悪だよな……なぁリンス、こんな奴でもおまえはまだ友達で居てくれる?」
 答えが怖い。
 でも、縋るように相手を見つめた。
 リンスは表情ひとつ変えぬまま、
「うん」
 と頷いた。
「……いいの?」
「いいよ」
「……なんで?」
「だって俺別に面倒だなんて思ってないし」
「……それだけ?」
「面倒だから最悪だっていうなら、面倒じゃなきゃ最高でしょ」
 返答に、ぷっと笑った。
「いや、それはおかしいだろ」
「そう?」
「てか馬鹿だろ」
「うん」
 話していたら、少し気がまぎれてきた。
「オールストロームが心配してるよ」
「ハルが?」
「うん。百面相してた。心配したり、焦ったり」
 自分のために、心配してくれる人がいる。
 我儘を言っても、迷惑をかけても。
「……そっか」
 会ったら、心配かけてごめんなさいと言わなくちゃ。
 それから、心配してくれてありがとうと言わなくちゃ。


*...***...*


 未散がハルと一緒に式場へ向かうのを見送ると、リンスはクロエを探しに式場を歩き回った。
 たしか模擬結婚式に誘われたと言っていた。どの辺でやっているのかはわからないが、まあ適当に探せば見つかるだろうとうろついていたところ、
「リンぷーめーっけ☆」
 日下部 社(くさかべ・やしろ)に鉢合わせた。とても良い笑顔をしている。反対に、嫌な予感がした。
「こんにちはそしてさようなら」
「ちょ待ちぃや! 帰ろうとせぇへんで! ちょリンぷーにお願いごとあるんよークロエちゃんはもう了承してくれてるんよー!」
 クロエの名前が出たので、ぴたりと足を止める。
「嫌な予感しかしない」
「楽しいことやで? 幸せなことやー」
「それでも嫌な予感しかしない」
 けど、クロエが居るなら無視して帰るわけにもいかないし。
「話し聞いたら帰る」
「来てくれるんやな、さすがリンぷー♪」
「聞くだけだってば」
「はいはーいっ。ほなこっちやでー」
 経験上、聞くだけで済むことなんて滅多にないけど(特に社の場合は)。