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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ フシギの地 地球 ■ 
 
 
 
 パラミタに渡ってしまうと、長期休暇でもない限りなかなか地球の実家に戻って来られない。
 こんな時でもないと帰れないからと、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は何日か家に帰省することにしたのだが。
「あたしも地球に行ってみたいのですわ」
 近遠が帰省すると聞いて、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)がそう言い出した。
「地球か……どんな所なのだろうな?」
「アルティアも地球には興味がございます」
 イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)まで乗り気になって、近遠は思わぬ大所帯で実家に帰ることとなった。
 
 パートナーたちは初めて目にする地球に興奮しきり。
 見る物すべてを指さして。あれは何、これは何と言い続けて近遠の実家までやってきた。
 これどやっと一息つける……と思いきや、家に入ってからも皆の興味は尽きない。
「涼しいのだよ。地球でも氷術は使われているのであろうか?」
 快適な室内の温度に、イグナは辺りを見回した。
「エアコンが入っているからですよ」
「エアコン?」
「密閉した状態の空気に圧力をかけて気圧を高めたり低めたりすると温度が上下するんです。それの上がった温度、または下がった温度を使って、空気を暖めたり冷やしたりして部屋の温度調整をする機械ですよ。冷やす場合に関してはクーラーと言いますが」
 近遠に説明されても、イグナはよく理解できない様子だった。
 あれがその機械かとイグナはエアコンをひとしきり眺めていたが、ふと聞こえてきた音の方向に自然を移し、いきなり剣を振り上げる。
「人が箱の中に? 今助けるのだよ」
「イグナちゃん、待って」
 今にも剣を振り下ろしそうなイグナを、ユーリカが慌ててしがみついて止めた。地球からパラミタに流れ込んできた技術にかなり疎いイグナと違い、ユーリカは空京の街の近くで育ち、空京にも何度も行ったことがあるので地球の技術にはかなり慣れている。
「それはテレビですわ。映像を映しているだけで、中に人はいませんわ」
「そうなのか?」
 助けなくとも大丈夫だとユーリカに説得され、イグナは剣を下ろした。
 実家のテレビを破壊されずに済んだ近遠は、ほっと胸をなで下ろす。連れてきたバートナーがいきなりテレビを壊しました、というのはさすがに家族の手前、立場が無い。
 これ以上居間を危険にさらすまいと、近遠はパートナーたちを自分の部屋へと連れて行った。
 
 さきほどの居間もそうだったけれど、近遠の部屋にもまだ明るいというのにカーテンがぴっちりと閉められていた。
 それは近遠がここで暮らしていたときの名残だ。
 契約するまでは強い日差しは近遠にとって危険物だった為、家の窓すべてに遮光カーテンが取り付けられていた。それは近遠がパラミタに行ってからも変わっておらず、今も外光は遮断され家の中には電気がともされている。
「この部屋の光術は安定しているのだよ」
 ほっとした様子で天井の電灯を見上げるイグナに、近遠は違いますよと教えた。
「あれは光術ではなくLED電灯ですよ。電気を流すと光るようになっているんです。地球にパラミタとの接点が現れる少し前頃に流行ったんですよ。長持ちするので、今でもそのままですけれど」
「ここの灯りは平気であるが、先ほどの部屋の灯りはチラチラとしていて目が疲れたのだよ。あのような灯りで地球人は大丈夫なのであろうか?」
「さっきの部屋の灯りですか? あれは蛍光灯ですよ。あも、電気を流して光る仕組みになっているのは同じですけれど、周期的に電子ビームを通して、それにより発行する塗料が光るため、確かに点滅しているんですよね。でも、よく点滅が見えましたね。地球人にはあれは、ずっと光って見えるんですよ。前の光の残像と次の光の反射光が繋がって見える錯覚で」
 近遠が言えばユーリカも頷く。
「地球人は……と言いますか、あたしも蛍光灯は普通に見えてますわよ。慣れだと思いますわ。アルティアちゃんにはどう見えていますの?」
 アルティアは最近パラミタで封印から解かれたばかりだ。その為、地球、現在のパラミタの両方に疎い。しかし、パラミタ各地で学習し、地球から流れ込んだ技術に関しても、間接的にそれに触れる機会を上手く使っている為、イグナほどには戸惑っていない。電灯を観察していた目をユーリカに戻し、落ち着いた様子で答えた。
「アルティアも、少し違和感のようなものを感じたのでございます。あの電灯が点滅していた為だったのでございますか」
 そう答えるアルティアの言葉を聞きながら、近遠は部屋を見渡した。
 自分の目には見慣れたこの部屋も、パートナーの皆から見れば珍しく不思議なものが多いのだろう。自分がパラミタに行ったとき、様々なものが物珍しかったのと同じように。
「せっかく来たのですし、ご近所の散策もしてみたいと思うのでございます」
 アルティアの提案に、そうですねと近遠は答えた。地球にいる間に、たくさんのものを見せてあげたい。
「では行くのだよ」
「あ、外に出る時も帯剣は不要ですよ」
 乗り気になるイグナを、近遠は止めた。
「剣無しで出歩いたら、怪物が出てきたときに困るのだよ」
「ここには怪物はまずいませんし、蛮族を名乗るパラ実生もそうそういませんから丸腰で外出しても大丈夫なんですよ」
 外を歩いていても襲われる心配がほとんどない平和な日本。
 その雰囲気を味わってもらおうと、近遠はイグナの武装を解かせてから皆を連れて付近の散策に出掛けて行ったのだった。