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リアクション
■□刻限――死いずる時
闇だ。
この村に立ちこめているのは、暗闇と、死臭だった。
掌から、指の合間から、肉片がこぼれ落ちていく。
――ぬちゃり。
しめった水音が、床で潰れた内蔵の音色が、暗い周囲に響き渡った。
「――あ……」
呟き、跪き、こぼれ落ちた臓物を両手で掴み挙げる。散らばっている腸をかき集め、貪りつくように、口を宛がう。
じゅるじゅると、グチャグチャと、音を立て啜る。
――何をしているのだろう、何が起きたのだろう、此処は、コレは。
錆ついた鉄じみた匂いが、床を汚した黒にしか見えない血溜まりから薫ってくる。
裂けて汚れてしまった自身の衣服の事にも、気が回らない。
何故頬が熱を帯びた水で濡れているのかも分からない。
眼窩から零れる雫の名前が、涙である事を思い出せない。
切り開かれた、既に生きてはいない愛しい相手の体。その中央では、今にも脈動を再開しそうな心臓が、艶めかしく光っている。利き手をのばし、触れれば、すぐに潰れてしまいそうな心臓。伸びる血管、傷口に溜まっていく赤とも黒ともつかない血。
「おい、しっかりしろ――おい」
誰かの声が響いてくる。
けれどその声が誰のものなのか分からない。確かに知っているはずの声だというのに。
□■当日――開始直前――朝方
「みんな、秘祭を楽しみにしているようね」
未だ朝日が昇る直前の、山場本家宅。
日の入らないよう隙間が遮蔽された和室で、山場弥美が寝間着である和装に着替え、布団の上に座っていた。畳の良い香りに混じり、側には血の臭いをまき散らし、横たわっている村人の姿がある。弥美は、赤く染まった口元を、側にあった白い布で拭くと、微笑して横になった。
「私も、永遠になる瞬間が本当に楽しみなの。それには、涼司ちゃんに頑張ってもらわないと……それまで涼司ちゃん達には、山場本家の別宅に滞在して貰おうかな。今あちらには人が住んでいないし」
それから日の出と同時に、弥美は睡魔に身を預けたのだった。
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