リアクション
* * * (一キロ圏内までは近付けるということは、それ以上進めなかったら缶の近くにいる、ということです。おかげで、ある程度の見当はつきました) 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は岩場の陰からフィールドを窺っていた。 これまでと違い身を隠す場所が少ないため、缶に近付くのは容易ではない。攻め方を間違えれば守備側に一網打尽、なんてことも十分あり得る。 加えて今回はエリア指定もないために、いきなり味方と協力して一つの缶を攻める、というのも難しい。 そこで守備の陣形を崩すことを念頭に、作戦を立てることにした。 「最初に場を乱す必要がありますからね。瑠璃には、それをやってもらいます」 紫桜 瑠璃(しざくら・るり)にその内容を伝えた。 「人に直接当てないように気をつけつつ、爆風で相手を飛ばす感じで」 「でも、それって結構難しいの」 守備の人数を減らすという点では戦闘不能にした方がいいのだが、事故に見せ掛けるのは容易ではない。 「まぁ……それだったら適当に撃ってくれればそれでいいですよ」 「分かったの。瑠璃頑張るの〜♪」 適当に撃ったところで、着弾地点に人がいない場所に撃ってればそれほど問題ではない。 (あそこのトラック……コンテナに何か書いてありますね) ホークアイでそれを読むと、『この缶蹴るべからず(はぁと)』という文字だった。その上には、守備の者――鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が武器を構えた状態で仁王立ちしている。 あのトラックの後ろに缶がある可能性は極めて高い。 (結界内に全参加者の反応を確認。試合開始とする!) 女性の声が、遙遠ら参加者の頭に直接響いてくる。 (さあ、瑠璃。派手にお願いしますよ) 開始の合図が発せられた直後、爆発による砂埃が上がった。機晶ロケットランチャーによる砲撃である。 それも一発ではない。 「『どーん』なのー!」 一キロ圏内から、トラックへ向かって瑠璃が駆け出していく。ロケットランチャーを担いだ状態で。 なお、機晶ロケットランチャーは対イコン武装である。輸送用トラックの下を狙い、車両を引っくり返すことだって可能だ。 遙遠が「適当でいい」と言ったこともあり、スプレーショットで無差別にフィールドの地面をえぐっていく。 「え、ちょっと、最初からそんなのは……」 これには、守備側の睡蓮も驚かざるを得ない。 確かに告知用のビラには『ロケットランチャーの爆風に巻き込まれても仕方ないよね』 と書かれていたが、まさかの開幕直後にロケットランチャーをぶっ放してくるとは。 「缶蹴りが戦争である」という言葉の意味を、自分が真っ先に体現することとなった。 スズカ上の九頭切丸にトラップ解除、罠の破壊を狙った攻撃を警戒させているが、当の砲撃を行っている攻撃側の者は特に罠破壊を意識しているわけではないらしいから始末が悪い。 (おそらく、あれは陽動。どこかから缶へ回り込もうとしているはず……) トラック自体は超電導バリアーやビームシールドを備えているため、機晶ロケットランチャーの攻撃をある程度防ぐことが出来る。直接狙われると不味いが、爆風程度で動じるほどではない。 (むしろ、その方がこちらとしてもありがたいですね) 九頭切丸が遠当てでロケットランチャーの砲撃を逸らしている。罠の近くに着弾しないようにするためだ。 しかし、それだけではない。実際には罠の近く出なかったとしても、「着弾地点周辺に罠がある」と思い込ませるためにそうしている側面もある。 (ロイさん。もし、罠を突破する者がいたらその時は……お願いしますね) 睡蓮はロイにテレパシーを送り、周囲の警戒に専念した。 * * * 「……あぁ、今日は死ぬにはいい日だ」 明らかに殺る気に満ち溢れたフィールドの空気にあてられ、燕馬はそんなことを思った。 迷彩防護服とブラックコートを纏い、さらに迷彩塗装をサツキに施してもらい、フィールドの結界ギリギリのラインを周回していた。 爆撃の様子が見えたため、その時点から十秒カウントを行う。 (あの辺りか) トレジャーセンスで缶の位置をアバウトにではあるが感じ取り、フレアライダーに乗った。 「燕馬、ミラージュを展開します」 サツキの幻影が投影された。実際の彼女は燕馬にしがみつき、ロケットシューズで自分も浮遊することによって、燕馬の飛行速度を落とさないようにしている。 「守りの人達は、地上よりも上空からの攻撃を警戒しているようです。地上は、確実に至る所に罠が仕掛けられてますね」 行動予測と歴戦の生存術によって、サツキが缶へ到達するまでの安全なルートを導き出していた。 あとはそれに従ってレッツゴー、である。 しかし、むしろ気をつけるべきは守備側の動きではなく、同じ攻撃側の動きだった。 (砲撃、前方約三十メートル地点に着弾します。進路の変更を) 指示を受け、ルートを変更する。 飛んでいる以上、油断すると爆風でバランスを崩してしまうため、早め早めで対応するしかない。しかも、自分の姿が察知されにくいため、余計に気を配らなくてはならないのだ。 (見えた!) なお、視界に缶の姿が入ったとしても、それが本物かどうかを考える必要がある。缶そのものに細工は出来ないが、ダミー缶を用意してはいけないというルールはない。 なお、本物の缶と同じデザインの缶は使用出来ないらしく、攻撃側の参加者には事前に示されている。『ドクターヒャッハー空京万博記念ver.』が、今回使用されているものだ。 トレジャーセンスの示す方角に見えているのだから、おそらく本物だろう。派手に動いている人がいるおかげで、まだ二人は気付かれていない。 そう思っていたが……。 「――――ッ!!」 地面が爆ぜた。 そこに仕掛けられていたコロージョン・グレネードが起爆させられたのである。 咄嗟に乗っていたフレアライダーを盾にすることでダメージを最小限に抑えることが出来たものの、地に足を着ける結果となってしまった。 幻影で誤魔化すことが出来ていても、その近くにいる限り範囲攻撃に巻き込まれるリスクはついて回る。 (気付かれましたね……) 罠の爆発に巻き込まれて幻影がかき消され、二人の隠れ身の効果も切れてしまった。 「冷たっ……水?」 燕馬は足元に冷たいものを感じたが、直後、その水が凍りついた。 「氷術で『水の温度を下げて凍らせた』だけじゃ。これは『直接攻撃』にはならんじゃろう?」 守備側の、「捕獲者」――ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が二人の前まで接近していた。 足を固定されたばかりか、彼女の持つ蒼き水晶の杖の力で、能力が使えなくされている。 「んふ、まずは二人、じゃな」 ファタがいやらしく微笑む。 (燕馬、今です!) 燕馬は、機晶爆弾を自分の前に放り投げ、銃で撃ち抜いた。 「爆風で氷を吹き飛ばすじゃと!? まったく無茶をしおる」 もちろん、多少のダメージは覚悟の上だ。 爆煙の中を、燕馬とサツキは駆け抜けていく。 だが、 「煙が!」 荒れ狂う念力――カタクリズムによって煙が払われ、さらに二人の周囲に炎が展開されていた。 「さて、これでチェックメイトでございますね」 ローザ・オ・ンブラ(ろーざ・おんぶら)であった。 「こりゃ参ったな」 身につけた技能も封じられた以上、なす術はない。 こうして二人は捕まった。 |
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