薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

リアクション公開中!

【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

リアクション

「さすがツワモノ揃いだぜ! 雪玉くらい軽くよけてくれるね!」
 司会のヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)が軽く口笛を吹く。
「面白い仕掛けだったが……、おい、待てよ! 誰かそいつを止めろ!」

 雪玉に真っ直ぐ向かっていくソリがあった。スパルトイに引かせた馬超である。スパルトイを止めると、ソリから降りた馬超は彼らの前に立つ。転がってくる雪玉を前に構えを取り、鼻息を荒くすると軽やかにそして力強く、浴びせ蹴りを繰り出した。
 雪玉は中央から真っ二つに割れると、半球のまま左右に分かれて転がっていく。馬超は悠然とソリに戻って、スパルトイを走らせた。

「ボンバー!」
 ヴィゼントが目いっぱい叫ぶ。観客席からも大きな拍手が起こる。
「お見事! むさくるしい野郎じゃなければ、抱きしめてキスしたくなっちまうぜ。え? 蒼空学園の馬超って言うのか。そこの彼女、あんなのと付き合ってみちゃどうだ」
 ヴィゼントに指された女の子は、恥ずかしそうに顔を隠した。
 
 観客席はそれで良かったが、レースの出場者は終わっていなかった。中央を転がると思って左右に避けていたソリに向かって、半球となった雪の塊が転がっていく。そこで急ぎ避けようとして、ソリ同士が接触したり、転倒しそうになったりする。

「ブルタ、どけい!」
 ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は先行させたブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)のソリをどかせる。
「親衛隊!」
 それだけ言って、ジャジラッドは人差し指をチョイと動かす。
「はっ」
 ここまでジャジラッドのソリを引いてきた4人の親衛隊員は、たすき掛けしていたロープを外す。転がってくる雪の塊に並んで正対する。
「やれい!」
 ジャジラッドの号令一閃、先の馬超ほどの華麗さはないものの、雪の固まりを瞬く間に粉々にした。
 ひと仕事終えた4人の親衛隊員は、もう一度、体にロープを掛ける。
「前進!」
 ジャジラッドの命に従って、再びソリを引っ張り始めた。

 シンと静まり返った観客席が、またも拍手喝さいに包まれる。
「よーし」
「ちょっと、セレン!」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に止められたが、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は飛空挺で近づくと、ジャジラッドにマイクを突き出した。
「さすがのコンビネーションね。今の気持ちは?」
「この程度、赤子の手を捻るよりたやすいぞ」
「親衛隊にやらせたのは?」
「オレ自身が手をくだすまでもない」
「レースはまだ序盤だけど、勝つ自信はある?」
 ジャジラッドはフンと鼻で笑って「無論」と答えた。
 威勢の良いインタビューに観客席が盛り上がる。 
「今のジャジラッド・ボゴルさんネ。彼も夏季ろくりんピックに出場してるヨ」
 キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)が資料をイーオンに見せる。 
「ふむ、水球にビーチバレーに…………テロぉ?」
 もちろんろくりんピックに“テロ”などと言う競技はない。
 交代ポイントで待つゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)は皮肉っぽい笑みを浮かべた。
 セレンフィリティのインタビューに刺激された卜部 泪(うらべ・るい)がせっついて、火村 加夜(ひむら・かや)は馬超のソリへと近づく。
「い、インタンビュー、良いですか?」
 なんとかマイクを伸ばすが、馬超は見向きもしない。
「あの…………凄かったです」
 かろうじて加夜が言うと、馬超は視線を動かして、わずかにあごを下げた。
「逃げる気はなかったんですか?」
 今度は首を横に振る。
「ちょっと貸して」と泪がマイクを握る。
「彼女はいますか?」
 馬超は何も答えなかった。
「いないってことで良いのかな? じゃあ、私とこの娘だったら、どちらがお好み?」
 泪は自分と加夜を交互に指差した。馬超の視線が、わずかに加夜に動く。
「加夜ちゃんかぁ。じゃあ、加夜ちゃん、馬超君と涼司君とだったら、どっち?」
「どうして私が、…………涼司くんです」
 小さなつぶやきでも見ている観客を沸かすには十分だった。
「以上、卜部泪でしたー」
 ヴィゼントが「ありがとう!」と受ける。
「なかなかボンバーなインタビューだったぜ。馬超はフリーのようだ。ツバを付けるなら早いうちにな」
 加夜は泪にダメだしを受ける。
「あんな時は『どっちも素敵です』とか答えなくちゃ」
「はい…………でも、やっぱり涼司君が……」
 
 さて雪玉のもう半分は、他の参加者に避けられ続けた後、コースを外れて立ち木に激突した。
 雪の塊から出てきた男性をヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)が見つけて、スノーモービルで救護班へと運び込む。
「観戦者でしょうか?」
「まぁ、そうだろうな。気を失ってるし、病院に送っておこう」
 男性は「オリュンポスに……栄光あれ」とうわ言を口にした。