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【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

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【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

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第二章 レースの準備は怠りなく

 男女の学生グループが、顔をつき合わせてひそひそ話しをしている。
「ダーク」とか「親衛隊」などの言葉が聞こえたかと思えば、「狼」や「プラシーボ」などと物騒な単語が漏れてくる。
 仕切っているのは、ひと際体格の良い男。オールバックで整えた髪に鋭い視線が、周囲にいる物を威圧……しなかった。
「ジンジャエール、お替わり!」
 ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が突き出したコップを受け取ると、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)が「これで12杯目だよ」と渋々ドリンクバーに行った。
「ビール腹でしたら見聞きしたことありましたけど、エール腹を見るのは初めてですわ」
「ええ、わたくしも」
 サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)が左右からジャジラッドの腹をタプタプする。
 ジャジラッドはくすぐったそうな表情を見せたが、何も言わない。
 ここ空京のファミリーレストランでは、ダークサイズとして出場する2つのチームが打ち合わせをしていた。
「極秘の打ち合わせ」と聞いていたジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)千種みすみ(ちだね・みすみ)には肩透かしだったが、冬季ろくりんピックの競技に参加するためであり、ジャジラッド・ボゴルにとっては当然の場所だった。
 2つのソリの位置取り、引き手となるペット交代のタイミング、乗員役割分担など、当たり前の打ち合わせが延々と続いた。
 ジャジラッドのお替わりが20杯を越えた頃、ようやく打ち合わせも終盤にたどり着いた。
「他のチームもいろいろ考えてくるだろうが、要は引き手と乗員の士気の高さが肝心だ。その点、我が親衛隊員は問題ない」
 満足そうに大笑いした。慌てて駆けつけた店員が「他のお客様もいらっしゃいますので……」と恐る恐る注意に来る。
 ジャジラッドは「お、これは申し訳ない」と大きな体を小さくして周囲に頭を下げた。
「ボクらも引っ張るだけ引っ張るからね」
 ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)の言葉にも、ジャジラッドは大きくうなずいて応える。
「ケンタウロスやペンギン、賢狼にも期待しているからな。何ならオレ達でワンツーフィニッシュを見せてやろうじゃないか」
 大声で笑おうとして、視界の片隅にこっちを見ている店員を認めると、ジャジラッドは自らの手で口を塞いで肩を揺すらせた。
 打ち合わせが終わったとして、みすみとジークリンデが席を立つ。
 ドリンクバーの代金を払おうとしたが、ジャジラッドが「心配いらん。これも経費の内だ」と受け取りを断る。
 背後ではサルガタナスとステンノーラが「経費なんてあったかしら?」「ポケットマネーってことかも」とヒソヒソ話をする。
 2人が去った後で、再び顔を突き合わせての話し合いが再開する。
「ペットやフードバーも良いですけど、土の用意はできてますの?」
 サルガタナスに聞かれたゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)が「無論」とOKサインを見せた。
「それならわたくしの愚者の黄金も大丈夫ですわ」
 サルガタナスがニンマリ笑う。
「みすみとジークリンデが良い仕事をしてくれれば……ですわね」
 スノーが言うと、ジャジラッドを含めて全員がうなずいた。
 ファミリーレストランの別のテーブルでは、酒杜 陽一(さかもり・よういち)がウーロン茶をがぶ飲みしている。
 その一方で、パートナーの酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)は、美味しそうにチョコレートパフェを食べていた。
「俺が減量してるってのに、良く食べられるぜ」
「目的はレースと理子様でしょう。あなたが頑張るのは自由よ。私が食べるのも自由なように」
 陽一はソリレースの出場を決めてから、なるべくペットの負担を減らそうと減量に励んできた。努力のかいあってか、30キロ半ばまで体重を落としている。この調子であればレース当日には30キロ前後には持っていけるだろう。
「もっともダイエットするなら健康的にした方が良いと思うけど」
 美由子はチョコレートのかかったクリームを口へと運ぶ。それでも『レースで補給できるように、食べやすいものを用意しておこうかな』と考えてはいた。

 ソリレースの会場では、生徒の一部がコースの下見をしていた。
「なるほど、これは面白いことになりそうだ」
 眼鏡を押し上げたのは蒼空学園のドクター・ハデス(どくたー・はです)。目立たないようにコースを見て回っているが、常に誰がしかが見つけていた。と言うのは、着ているのが迷彩防護服だからである。
 一面の銀世界では、むしろいつもの白衣の方がカモフラージュになるはずだが、「極秘行動は迷彩服だ」と、オリュンポスの仲間を振り切って出かけてきた。
 そのためか、今回の作戦は失敗必至だろうと思ったメンバーは、誰もついてこない。
「フハハハ! レースには障害が付き物! 秘密結社オリュンポスの天才科学者であるこの俺が、このレースをよりスリリングでエキサイティングなものにしてやろう!」
 迷彩服を着てきた意味を忘れて叫ぶ。
 小さい子供をつれたお母さんがいれば、「見ちゃいけません!」とでも言うところだろう。
 ハデスはゴロゴロと雪玉を作り始める。
「ククク、さて、どこにトラップを仕掛けるか……」