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リアクション
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夜の街を、冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)は冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)と共に歩いていた。
コートを着て、マフラーを巻いて。
繋ぐ手にはふわふわのミトン。
防寒対策をしていても、夜の空気は冷たく頬に突き刺さる。
「寒いです、ねぇ……」
「あ。辛い?」
不意に零した呟きで、心配させてしまったらしい。日奈々は慌てて首を振った。
「いいえ。……千百合ちゃんと一緒なら……平気、ですぅ〜」
隣にいるだけで、ぽかぽか暖かな気持ちになれるから。
そういうわけで、寒くても日奈々は全然平気だけれども。
「千百合ちゃんこそ……平気、ですかぁ……?」
「うん。あたしは平気」
「なら、良かった……ですぅ」
足音が、静かな街に響く。
昼間とは、様相も雰囲気も違う街。
「夜のデートもいいね。照明とかがすごくきらきらしてる」
「きらきら……ですか?」
「うん。きらきらの光が、日奈々を照らしてるの。とっても綺麗」
日奈々にその景色は見えないけれど。
千百合の声が弾んでいたから、とても幸せな気持ちになった。
と、頬に何かが触れた。冷たかった。なんだろう、と思う間に、「あ」と千百合が声を上げる。
「日奈々。雪だよ」
雪。どうりで気温も低かったわけだ。
「積もりそう」
「…………」
「どうしたの? 嫌?」
「えと……実は、あんまり……好きじゃ、ないんですよねぇ……」
目が見えない日奈々にとって、足元を隠してしまう雪はくせものだ。
「大丈夫。あたしがついてるから」
力強い、声。
「……はい」
頷き、千百合に寄り添い日奈々は歩く。
雪は、不安なものだった。
過去形だ。
今は、千百合が隣にいる。
不安なことなんて、何もない。
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