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リアクション
●波打ち際
ビーチの柔らかな砂地を、銀色の車輪が踏んでゆく。車椅子の車輪は、ほぼ直線となる二本の轍を残していった。
「今回は水着パーカーで来るべきだったのですかね……? 普通の服装で来てしまいましたが………まぁ聞きそびれてた事はしょうがないですね」
車椅子を押す青年はそうやってずっと車椅子に座る少女に話しかけているのだが、少女はほとんど無言だ。
二人は会場に向かっている。
青年は、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)。
車椅子に据わる美しい少女はカーネリアン・パークスという。
「どうですか。海京の空気はシャンバラと違うように思えません? 気持ちいいでしょう?」
「……」
やはりカーネは何も応えない。
「どうして連れてきたのかと、思ってませんか?」
少女は黙ったまま海に目を向けた。否定しないと言うことは図星だったのだろう、そう決めて遙遠は続けた。
「いつまでも引き篭もってばかりもいられないでしょう? それに、外界に出ることがいい刺激になるのではないかと思うのです。カーネの心の傷を癒すには……やはり何かのきっかけあった方がいいでしょう。そのためにも、色々な体験をさせてあげたいと思ったから………」
「……押しつけるな」
「え?」
「そうやって善意を、押しつけるな!」
少女は、その視線だけで人を刺し殺せそうな目をして彼を見上げた。
「その善意……まるで拷問だ。もともと縁もゆかりもない自分が、貴様から善意という施しを与え続けられることに耐えられない!」
「施しなんかじゃ……」
「五月蝿い! 行きたいなら一人で行けばいいだろう! 自分は……戻る!」
身を捩ってカーネは車椅子から立ち上がろうとした。だが両脚はその身を支えることができず、結果、彼女は砂浜に突っ伏したのである。
少女が呻き声を発しているのを遙遠は聞いた。
泣いているのだ――それを認めることは、カーネ自身にとって何より辛いことだろう。
だから彼は彼女をすぐ助け起こさず、傍らにしゃがみ込んで告げた。
「聞いて下さい。縁もゆかりもない、とは思っていません。塵殺寺院の暗殺者だった機晶姫はそうではなかったかもしれませんが、少なくとも今ここにいるカーネは……遙遠の家族です。……家族は守るもの、助け合うもの。……順序は逆でしたが結局遙遠は家族を助けたいです」
差し出された手を払って、カーネは自力で身を起こした。
顔を上げぬまま這って、一切助けを借りず、砂を噛みながら荒い息を立て車椅子に戻った。
「……とんだ戯れ言だ」
砂にまみれた頬を、カーネは手の甲で拭った。
「どうします?」
「…………取り乱して迷惑をかけた。今日は、戯れ言に付き合う」
遙遠は安堵の吐息を隠して、そっと白いハンカチを彼女に手渡した。
「ではそのように」
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