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月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

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月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

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 ■ 同じ月を見上げて ■



「ニルヴァーナでお月見?」
 聞き返した桐生 理知(きりゅう・りち)にクラスメイトはそうだよと教えてくれた。
「ほら、ニルヴァーナまで回廊で行けるようになったでしょ? だから向こうでのお月見……名前はなんてったっけ、ツキサエノマツリ? それに参加出来るんだって」
「いいね、お月見のお祭りか〜」
「友達誘って行こうと思ってるんだけど、理知もどう? ……って、理知は彼氏と行くのかな」
「うん、翔くんを誘ってみる! 教えてくれてありがとね〜」
「はいはい、頑張ってね」
 友達に笑って送り出され、理知は辻永 翔(つじなが・しょう)を探して走っていった。


 当日、創世学園近くの月冴祭会場に向かう理知の足取りは軽かった。
 翔との初めてのお月見となれば、ついついはりきってしまう。理知は準備万端整えて、お月見に臨んだ。
「荷物多いな」
 何を持ってきたのかと言う翔に、理知は持ってきた荷物を軽く掲げてみせた。
「せっかくだから、日本風のお月見を再現してみようかなって。あ、お月見の場所は小舟でも大丈夫だよね?」
「大丈夫だ」
「じゃあ、たいむちゃんからお餅をもらって、舟に乗ろう。お月見楽しみだねっ」
「ああ」
 理知はたいむちゃんの搗いた餅を貰ってくると、翔と一緒に小舟に乗り込んだ。

 小舟の操作は翔に任せ、理知は持ってきた荷物を広げてお月見の用意を調える。
 三方に白い紙を敷いてその上に団子を並べ、一番上にはたいむちゃんの搗いた餅を載せてみた。
 その隣にススキをお供えして、気分は本格的なお月見だ。
「このお餅を2人で分けて食べると、永久に結ばれるとか言われてるんだよ」
「ニルヴァーナの伝説か?」
「そうらしいよ」
 理知は一番上に載せておいた餅を取ると、半分にしてその片方を翔に差し出した。
「だから2人で食べよっ。ずっと一緒に楽しく過ごせたらいいよねっ!」
「そうだな。俺もそう思う」
 翔は理知から渡された餅を受け取ると、ぱくりと頬張った。

 一緒の舟に乗って、お月見が出来るだなんて、なんて素敵なことだろうと理知は思う。
 同じ場所にいて、同じものを見上げて、同じものを食べて。
 重ね合わせる思い出が、2人の間の絆を強固にしていってくれる気がするから。


 ゆっくりと舟の上での月見をした後、理知はお月見飾りを片づけ始めた。
「あ、そうだ。ススキは持って帰って家の軒に吊しておくと病気しないらしいよ。半分ずつ持って帰らない?」
 日本の言い伝えを思い出して理知が言うと、翔はいいぜと答えた。
 翔の手に理知はススキの束の半分を包んだものを渡す。
「じゃあ……はいっ。翔くんには元気でいて欲しいからねっ。私も元気でいたいから半分貰ってく」
 残りの半分のススキを理知は自分の為に包んだ。
「元気じゃないと色んなところに一緒に行けないから困るよね」
 またこうして2人で過ごす為にも元気でいなければと、理知は半束分のススキを胸に抱えて思うのだった。