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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭!

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 お昼が近くなった頃、臨時保健室は混み合い始めた。
「お手伝いに来ました」
 教育実習生の宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)と一緒に、臨時保健室に顔を出す。
 保健室を担当している人達は、カウンセリングやマッサージ、給仕と、忙しなく動き回っていた。
「助かりますわ。ちょうどご相談に訪れた方がいますので、テーブルの片付けとお茶の準備をお願いできますか?」
 ティセラが振り向いて、2人に言った。
「ええ、任せて。紅茶なら大丈夫、淹れられるわ!」
「では、私はテーブルの片付けに行きます」
 祥子とテティスは紅茶やダスターを取りに、給湯室に向かう……その途中で。
「あら、田中……じゃなくて牙竜? あなたが相談事? ここにはラズィーヤ様はいないわよ」
 祥子が怪訝そうな顔をする。
 カウンセリング室の前で待っていたのは、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)だった。
「あ、宇都宮祥子さん……政治相談は祭りには持ち込まないよ。あ、これ差し入れ」
 牙竜は苦笑しながら紅茶の詰め合わせとドーナツの詰め合わせを祥子に渡した。
「ありがとう。早速使わせてもらうわ」
「テーブル、お拭きしますね」
 祥子は牙竜からの差し入れを持って給湯室に向かい、ダスターを持ってきたテティスがカウンセリング室に入って、カップを下げてテーブルを拭いた。
「お次は、あなたですのね」
 現れたティセラが、牙竜を準備が整ったカウンセリング室へと通す。
「カウンセリングといいますか、恋愛相談してもいいですか?」
 牙竜は真面目な顔でいい、席に着く。
「恋愛ですか。構いませんわ」
 微笑みながら、ティセラはそう答えた。
「失礼します」
 一旦退出したテティスが、祥子から受け取ったお茶とお茶菓子を持って現れ、テーブルに並べていく。
「どうぞ」
「あ、いただきます」
 牙竜は出された紅茶を一口飲んで、息をついてから話し始める。
「惚れてる女性のことですが……あ、ティセラさんがよく知ってる人です」
「はい」
「彼女は例えるなら……」
 牙竜は手を組んでセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)を思い浮かべながら、話していく。
「『騎士が捧げた剣をぶんどって、自分で戦場を先陣を切って「アタシに付いて来な!」と人を引っ張って行く勝ち気なタイプ』
 ……なんです。
 それで、俺も口説く時は結構、強気の押しで攻めてるんですが……」
「私の親友にもそういう方がおりますわ、奇遇ですわね」
 牙竜の言葉に、ティセラは軽く笑みを浮かべた。
「……彼女は貧乳を気にしすぎてる上に、恋愛方面に免疫のないツンデレで……。
 親友のためなら嫌われるとしても、間違った道を進んでるなら叩いてでも止める……心の優しい人……だからこそ、俺は彼女を『おとぎ話に出てくるようなお姫さま』のように守りたいと思ってしまうのです」
「大切な人を、大事に守りたいと思うのは自然な感情ですわ」
「はい……。彼女のその生き方が眩しくて、惚れてしまった俺も俺ですけれど……本当は抱きしめて、想いの限り『愛してる』と叫びたいのですが……どうなんでしょう? 女性からの立場としては?」
「お気持ちはわかります、けれど」
 ティセラはティーカップを置いて、話し始める。
「私の親友もそうですけど、そういう方に『守ってやる』『抱きしめる』は却って逆効果ですわよ? 殿方からすれば守って差し上げたいのだと思いますが、そういう時は『一緒に肩を並べる』のがいいのではないでしょうか? その上でこっそり背中を守ってあげるのですわ」
「そうですか。こっそり背中を……」
 そんなこともあった。
 心配に思いながらも、彼女を戦いの場に行かせたことも。
「ありがとうございました。参考になりました」
 言って、牙竜は立ち上がる。
 この後、彼女――セイニィを誘って、学園祭を見て回りたいとも思うが。
 セイニィが大切に思う人、ティセラにパッフェルが、今日はここに集っているから。
「さて、失礼させてもらう」
 彼女には会わなくてもいいと牙竜は考えた。
 ただ、先ほど渡した差し入れの他に、学園祭終了後に軽食の差し入れが届くように、手配だけはさせてもらった。
 皆で談笑する時に食べてもらえればと思いながら、一輪の薔薇を添えて。

「恋愛に関しては人それぞれだからね」
 回収したティーカップを洗いながら、祥子が呟いた。
 先生としては、生徒の悩みを聞いて導く義務があると思うとかなんとかそういう理由(こじつけ)で、祥子はテティスと共に、牙竜達とティセラの会話を聞いていた。
「あのバカ……」
 それともう一人。
 牙竜が来ていると聞いて、部屋を訪れようとしたセイニィも。結局部屋には入らずに、外で2人の話を聞いていたのだ。
「気付かないわけないでしょ。でも、シャンバラや女王がこんな状態だもん……あたしだけ幸せになんかなれないよ」
 給湯室の入口付近で、軽く俯きながらセイニィは呟く。
(だから、これはあたしのワガママかも知れないけど、もう少し、シャンバラや女王が落ち着くまで待って欲しいんだ)
 そっと、顔を出して。
 合宿所から離れていく牙竜の後ろ姿を、見た。
「ところでテティスさん。契約相手のカレとは進んでるんですか?」
 がっしゃーん。
 祥子が尋ねた途端、テティスがトレーを落とす。
「そんなに驚くことじゃないでしょ……。あなた達、傍目にはこれ以上ないくらいの相思相愛なのに、熱い話をとんと聞かないのよね」
「……」
 テティスはちょっと赤くなりながら、落ちたトレーを拾い上げる。
「ここだけの話。聞いてるのは私や十二星華の仲間くらい。カレとどうなりたい? カレにどうして欲しい?」
「最近は、手を繋いで歩くこともあって……それだけで、嬉しいから」
 本当?
 と、祥子が問いかけると、テティスは俯いてしまう。
「目と目が合って手が触れて顔が近づき唇が重なりせめて抱きたい抱かれたい。男女の仲はそんなもの。思ってるだけじゃ自分の行動には結びつかないわよ。声に出して決意しなきゃ」
「……」
「テティス、覚悟完了?」
「む……無理。お、お菓子片付けなきゃ!」
 彼方のことを想像してか、テティスは真っ赤になって、出て行ってしまった。
「『もっと』幸せになってほしいんだけどね」
 祥子はため息を一つ、ついた。
 セイニィも、テティスも、恋愛方面の進展は、直ぐには難しいようだった。