薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭!

リアクション公開中!

【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭!
【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭! 【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭! 【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭!

リアクション

 美緒が教室に入っていくその通り過ぎた脇に、教室の前、どこか思い悩むような表情で、廊下の角を見つめる一人の少年がいた。
 薔薇の学舎の新制服を着た、褐色の肌の細身の少年──箱岩 清治(はこいわ・せいじ)が待っているのは、校長のルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)
 以前、タシガンにとある笛の音が流れた時、彼はルドルフに「失礼なこと」を言ってしまったことがある。
 それはルドルフに対しての明確な敵意、というより、自分自身への苛立ちや劣等感などがないまぜになった感情からの言葉だったが──。
「手紙……読んでくれてるよね……」
 礼儀正しい校長のことだから、読んではくれてるだろう。けれど、読んだからって来る保証なんて、ない。
「きっと来てなんてくれないんだろうな……」
 廊下の先に向けていた視線を床に落として、彼は呟く。
 校長だから。多忙だから。他の人にも誘われていたみたいだから。いろいろ理由は思いつくけれど……、
(だって僕と校長は仲良くなんてないし、それどころか僕のこと扱いづらい奴だって思ってるかもしれない)
 でも。
(……でも、もし来てくれるなら、あの時のことを一言でいいから謝りたいんだ。 だから……お願いだから来て欲しい)
 もし来てくれたら、そしてもし校長が許してくれたら、その時は素直になれるような、今の自分から変われるような、そんな気がしていた。
 祈るような気持ちで一点を見つめていると、
「待たせて悪かったね」
 聞き覚えのある声に顔を上げれば、そこには“彼”がいた。
「ル、ドルフ……校長」
 拙く呼ぶ彼に、ルドルフは普段のように、余裕のある笑みを返した。
「どうしたのかな、意外そうな顔をして。『学園祭があるから、一緒にどうですか』って誘ってくれたのは君だろう」
「……そうです」
 清治は頷くと。ぎこちなく頭を下げた。
「来てくれて……ありがとう、ございます」
「いや。……君はお化け屋敷に興味があるんだね。早速入ろうか」
 装いだけでなく雰囲気まで華やかなルドルフの背に若干の気おくれを感じて三歩ほど遅れて付いて行った清治だが、暗い教室内に入ると、勇気を出してその横に並んだ。
 予想通り、中はカーテンが閉められており、薄暗くお互いの顔も良く見えなかった。安全のため足元を照らす非常灯や、演出の提灯や行燈がぽつんぽつんとあるくらいだ。
 ルドルフは彼の言葉を待っているのか、時折足元に気を付けて、とかあれは何かな、などと言っていたが、それはごく自然な姿のようだった。別に見下しているとか、そういうことじゃなくて。
「……前に、酷いこと言って、ごめんなさい」
 清治は、ぽつりと、言った。
「ずっとひっかかってて、いつか言わなきゃって思ってた」
(これを言えないと、きっと僕はずっと先に進めないままだと思うから)
 ルドルフは歩みを止めぬまま、だがゆっくりとスピードを落として、清治の顔を見る。
「謝る必要は何もない。薔薇の学舎の入学基準は知っているだろう。ジェイダス様や僕が選んで、学舎に君はいる。
 許すも許さないもない。薔薇の学舎で君なりの美しさを追求してもらえれば、私は満足だ」
「で、でもそれじゃ……」
「君の気持ちは分かった。こうしてこの場所を選んだということは、僕のことを考えてくれたからじゃないかな?」
 意外な言葉に、清治の口調が早くなる。言い訳がましくなってしまいそうで、でも本当のことだ。
「それは、薔薇学のジェイダス理事長が日本の文化を好きだっていうし。ジェイダス理事長のことを尊敬してるみたいだから……日本文化や、お化け横丁も、もしかしたら好きかなって。
 来てくれるかなって……」
 ルドルフはそんな年下の少年に、優しい微笑を浮かべる。
「君は自分の中にある美しさにまだ気づいていないだけだよ」
 それからルドルフは、お化け屋敷と日本の文化について、彼に幾つか質問しながら、ゆっくりと見て回っていった。