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 第37章 まだ見ぬ居場所を探して

「……宮ちゃん」
 ツァンダにある大きな公園、レストゥーアトロの近くを流れる川。その土手の上で、杜守 柚(ともり・ゆず)高月 宮と再会した。宮は柚が地球にいた頃の友達で、“様々な経験を共にした”、大切な人だ。
 シャンバラに来てからは、会ってないけれど――
「柚ちゃん」
 数メートル先に立つ宮に、柚は走り寄って抱きしめた。思いを込めて、ぎゅっ、と強く。
 黒い髪をショートカットにした宮は、柚の知っている彼女そのままだった。どことなく柚に似ているところも。
「久しぶり……、変わってないです。あの頃のまま……」
「……会えて嬉しいよ……」
 別れてから、またこうして会えたことがとても嬉しい。抱きしめ返しながら、宮は柚の髪を優しく撫でる。
「髪、青いままなんだね……黒く染めてると思った……。もう、終わったんだよ……、何もかも……」

 2人で土手に並んで座り、川の流れを静かに見詰める。
 柚は、パラミタに来る前の事を思い出す。シャンバラで暮らすと決めてからなかなか言い出せずに、結局、宮に伝えられたのは出発前日だった。その事を、彼女はよく憶えている。『居場所を見つける』という理由を付けて逃げていただけだったから、余計に言い難かったのだ。
 うしろめたさも、あったのだと思う。
(宮ちゃんを1人にするのは辛かったけど……)
 その時の事を思い出すと、自然と涙が溢れてくる。それを手で拭う彼女を、その横顔を見て、宮は
「どうして泣くの? 私に会うと思い出す……?」
 柚はふるふると首を横に振った。違う、そういう意味の涙じゃない。でも、うまく言葉に出来なかった。
「違います、そうじゃないんです……」
 ただ、否定する為に、首を降る。けれど、宮にはそれが肯定に映ったようだ。少し沈んだ表情で、膝を抱える。
「ごめん……。会わないほうがいいって思ったけど、どうしても会いたくて……」
「私も会いたかったです。……でも、嫌われてるかもって思うと会えなくて……」
 会いたかったという言葉に力が込もる。本当にそう思っているのだと伝えたくて。
「嫌われてなくて、凄くホッとしてます」
「そんな、嫌うなんて、そんなことあるわけないよ……」
 柚の方を向いた宮は、微かに笑顔を取り戻していた。その彼女に、柚はシャンバラに来てからの事を色々と話す。人の多さと見慣れぬ光景にビックリした事、好きな人が出来た事、大切な友達がたくさん出来た事――
 新しく出来た思い出の数々を話しているうちに、自然と、柚は明るい笑顔になった。そんな柚の様子を見て、楽しそうな思い出話を聞いて、宮は優しげに、儚げに微笑む。
「柚ちゃんはここで見つけたんだね……。居場所を……」
 そして、柚を横から抱きしめた。おめでとうと言うように。
「…………」
 柚はまた、首を振る。少し考えたけれど、まだ、見つけたとは言えない。
「まだ探し中です。でも、ここで見つけたいです。そう強く思えるんです」
 そう言う柚の瞳には、揺ぎ無い強い想いが、意志が宿っていた。だが、それはすぐに、気掛かりを含んだものになる。
「宮ちゃんは……」
 気掛かりだけではなく、申し訳なさも入っていたかもしれない。その彼女に、宮は笑ってみせた。
「私も見つけるから……。心配しないで……大丈夫……」
 それは、柚に心配をかけないためのその場限りの言葉ではなく。
 ――彼女の本心から出たもののように思えた。

「また、来てもいい……?」
 夕暮れの中、2人は立ち上がって川べりを歩く。
「はい、宮ちゃんが来てくれるのを楽しみにしてます」
「ありがとう……」
 迷わずに答えた柚に、宮は嬉しそうに言った。その笑顔を見て、柚も温かい、幸せな気持ちになる。
「今日は会えて、本当に良かった……」
 そして宮の手を取り、そっと握る。
「今度は、私も遊びに行きたいです。……その時は、居場所を紹介してくださいね」
「うん。きっと、紹介するよ」
 にっこりと、この1日で一番の笑顔を浮かべた柚に、宮はこくりと頷いた。

 また、2人で喜び合えるように。