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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−15

 時刻は既に、深夜0時を回ろうとしている。
 デスティニーランドの灯していた幻想的な灯りも消え、ホテルの窓も、煌々と光る部屋よりも暗く沈黙している部屋の方が多い。
 ――とはいえ、暗い部屋の下にいる誰もが眠っているかといえば――
「さあ、何度でも、いつまでも相手するぜ」
 そうとも限らない訳で、唯斗はバスローブ姿でホテルのベッドに仰臥していた。勿論、バスローブの下には何も身に着けていない。生まれたままの姿が、そこにはある。そして、ベッドの前に立つエクスリーズプラチナムも同様だ。
 もっとも、彼女達の表情は三者三様で、特にリーズなどは、表現として余裕という言葉が使えるエクスとプラチナムに比べて顔が真っ赤になっている。ぴんと立った尻尾の、その毛が少し逆立っていた。
 ちなみに、この部屋には1人用のベッドより少し大きなベッドが1つあるだけだ。つまり、唯斗が寝ているこのベッド1つだけだ。
「4人で泊まるのに、な、何かおかしいと思ってたのよ……」
 そして、もしかして、とも。
 思ってたけど。思ってた上で一緒に来たのだけれど。
 まさか――
「4Pですね」
「4Pっていうの!?」
 さらりと言ったプラチナムの言葉に、リーズは過剰に反応する。新たな知識を得た瞬間であった。……否、ではなく――まさか、4Pだとは思ってはいなかった。
「ああ。今日はいつも世話になってる分も込めて、幾らでもリクエストに応えよう」
 唯斗は、片手にワイングラスでも持っているかのような陶酔の入った表情で彼女達に、4Pの単語に驚いたリーズに流し目を送る。
 受け入れ態勢はばっちりであり、受け入れられる態勢はもっとばっちりである。
「では、わらわから行くとするかの」
 エクスは躊躇いなくローブを脱いだ。慣れた動作でベッドの上に乗る。伊達に最初のパートナーはやっていない。
「え、え、え……?」
 ベッドサイドあるテーブルランプの下、暗がりの中の光景にリーズはますます顔を真っ赤にする。赤みが差す、などという程度ではない、部屋が暗いことが残念な程に真っ赤である。
「よろしくお願いします、唯斗様。リードしてくださいね」
 プラチナムも抵抗の「て」の字も感じられない動きでベッドに乗る。知識は豊富だが経験は無いので、このクリスマスイブが大人としての成長の階段を駆け上がる記念日だ。
「え、え、ちょっと待ってよ……ほ、本当に?」
「ほら、リーズ、お前も来い。夜はまだ始まったばかりだ」
 エクスとプラチナムの隙間から、唯斗が手を伸ばしてくる。その目と目がばっちりと合って。
「う、うん……」
 唯斗の瞳に魅入られたかのように、リーズはふらふらとローブを脱いでまず、片膝をベッドに乗せる。それから、おっかなびっくりというように彼に接近した。

              ◇◇◇◇◇◇

「ここだよ、プリム君」
 そこは、デスティニーランドとの一体感に溢れるホテルだった。さりげなく、または目に見える形でシンボルキャラクターの縁取りが取り込まれていて、落ち着いた色調で遊園地の世界感が再現されている。敷居の高さを感じさせないデザインのせいか、大人の世界に踏み込んでしまった、と過剰にどきどきすることもない。
 何となく、自分達の背丈に合った部屋のような気もする。
「か、可愛い部屋だね。そっか、花琳ちゃん、こういう部屋に泊まりたか……」
 ただ、別の意味でどきどきしていたプリムは、健全を主張するように殊更に明るい声を出した。だが、背後で鍵が掛かる音が聞こえて皆を言う事は出来なかった。耳に響いたその音は普通ではなくて、静かに底に凝った何かが彼の緊張を誘発する。だって、この音は明らかに――
 外部を遮断する為の決意の音だ。
 ――間を空けず、衣擦れの音が耳に届く。
 花琳が何をやっているのかはもう見なくても分かって、でも、プリムは振り向かずにはいられなかった。確実に“そう”だと思っているのに、確認せずにはいられない。
「……か、花琳ちゃん……?」
 花琳は可愛らしいデザインのパンティー1枚の姿になって、プリムの前に佇んでいた。子供だと思っていたけれど、彼女も完全な子供という訳ではなくて。
 下着だけになると、微妙に女の子らしい部分があることも分かってしまって。
「……今日の私達ってすごいカップルぽかったよね?」
 花琳は口元に笑みを形作り、硬直して動けない彼に近付いてくる。
 笑っている。笑っている。だけど――
 目が、笑っていない。
「……このまま付き合っちゃおうか? 私達」
「……え……」
 どこまでも挑発的で、そしてどこか寂しそうで。彼女に圧されて後退っていたプリムは、ベッドに膝裏をぶつけて立ち止まる。その彼の首に、花琳は腕を回した。耳元に頬を寄せて、小さな声で言う。
「……プリム君、私を慰めてよ」
 それは、この部屋に入ってからの――否、今日1日を通した中での、一番真実の声に聞こえた。
 ――求められている。求められている。
 女の子がここまでしているのに、オレが断るなんて、出来るわけない。
 彼女の言葉から解る。これはまだ仮初めだ。彼女が本当に求めているのはもっと曖昧な、どこか別のところにある何かであってオレ自身じゃない。
 でも……でも。
「それで花琳ちゃんは……満たされるの?」
 刹那でもそれで、彼女が今夜眠れるのなら。
「うん……満たされるよ。きっと……」
「…………」
 そっと、抱き返す。
『……本当に君はお人よしだよね〜……人に構いすぎて損してるタイプだ♪』
 いつか言われた、彼女の台詞を思い出す。
 ――それでもいいや、と、プリムは思った。

 ――簡単に服を着て、ゴスロリ服を着なおす花琳を手伝う。背中のチャックを上げたところで、花琳は明るめの口調で話しかけてくる。
「……プリム君ってなんでむきプリさんと契約したの? 教えてよ」
「え? なんでって……」
 改めて、契約当時の事を思い返してみる。この姿になって、意識を得て、初めてむきプリ君と対面して。
『おおっ! 出た、出たぞ! 何か出た!』
『……何か……?』
『よし! お前の名前はプリム! プリム・リリムだ! 決定だ!』
 自分を見て歓喜するむきプリ君に一発目から半目を向け、その間に自分の名前が決まった。ものすごくあっさりだった。
「ムッキーは契約者になりたかったんだよ。でも、誰も契約してくれなかったし、契約出来なかったしでそれで、自分でパートナーを生み出すことにしたんだ」
 やりかたは、ただひたすらに念じる。『ぬおおおおおお!!』と気合いを入れて念じる。それだけ。何故契約者になりたかったかといえば何か深い理由が在ったわけではなく。
「『俺には不可能はない!』とか思ってるから、契約者になれないのが納得いかなかっただけだと思うよ」
 この姿はむきプリ君の子供の頃の姿だとついこの間判明して、それが偶然なのか彼の願望だったのかは知らないが。
「そうやって出会って。もちろん、生み出してくれてありがとうと言って別れてもよかったんだ。でも……そのまま置いていくのは何か、忍びなくて。別にイヤじゃなかったしね」
 すぐに名前を思いつかれたのも、何かの縁のような気がした。
「それで、そのまま契約したんだ」
 少しだけ、話が長くなった。途中からベッドに座って話し終えて。
 足をぶらぶらさせながらそれを聞いていた花琳は、束の間黙ってから視線を天井に向けてのんびりと言った。
「ふ〜ん、そうなんだ……そういう絆もいいなあって思うよ」
 それから、花琳はベッドから立ち上がる。ドアまで行って一度足を止めて俯いて。
「……私はやっぱり、1人になるのが怖かっただけなのかな」
 呟いて、部屋を出る。追いかけられても掴まらないように、逃げるように、廊下を走って階段を駆け下りる。だから、後からあの部屋のドアが開いたかどうかは判らない。
 ……満たされると思ったけど、でも、足りなかった。
 自分はの実の妹で。一度は、この世から消えた存在だ。今までは、姉にある意味で依存気味だった。だが、その姉が結婚して、妊娠して。
 一緒に住めなくなったことで、花琳は落ち着かない思いを抱いていた。
 皆が朔の結婚を祝福して喜んでいるのに、それを家族に打ち明けられる筈もなく―― だから、今のところ一番気になる異性であるプリムに彼女は癒しを求めてきた。
 もしくは、新しい依存先を求めてきたのかもしれないが……
(……あ、メール……)
 何の気なしに携帯を見る。画面に出たアイコンは、何通ものメールが届いていることを示していた。開いてみると、それはカリンからのもので。
『花琳、ケーキ屋しまっちまうぞ。誘ってきたのはお前だろ?』
『まだデスティニーランドにいるんだろ? ボク達も来てんだよ』
『……偶然だけどな』
「……そうだった」
 忘れていた。今日はクリスマスで、カリンとスカサハとケーキを食べようと店に予約を入れていたのだ。他のメールには、今日の報告が書かれていて。スカサハに引っ張られてジェットコースター巡りをさせられて、パレードの最中には休めたが、またその後に乗っていないコースターに付き合わされたらしい。乗り物酔いで気持ち悪い、とか書いてある。
「早く行かなくちゃ」
 早足でホテルを離れる。2人と会う頃には、いつもの元気な自分に戻れるように。
(あたし……これからどうしよう……)

(明日は、チッチーさんのお手伝いかあ……)
 暫く待ってみたけれど花琳が戻ってくる気配はなく、プリムは彼女と居た部屋を出て、むきプリ君達が泊まる部屋に向けて歩いていた。何となく、もう戻って来ないんだなということは、彼にも解った。
 不思議と遊ばれたという気にはならず、故にこの結果を拒否する感情も芽生えなかった。花琳が、切実に誰かを求めていたのは多分確かで、それが自分であったことに多少の意味はあったのだろうと思うから。
『1人になるのが怖かっただけなのかな』
 彼女は最後にこう言った。
 理由は分からない。けれど何らかの事情で彼女は寂しさを抱えていて、寂しさを埋める為に異性を誘う。それが遊びだというのなら、そうなのかもしれないけれど。
 それは、あの時から理解していたから。
 1度きりの関係であっても、その先に待つものが無くても、構わないと思っていたから。
 そして全てが終わって、廊下を歩く彼の中に残ったのは一抹の寂しさと気掛かりだけだった。
 埋められなかったのは明白だった。恋とも愛とも違う気持ちで不器用な行為の中、完全に満たすことは出来なかった。少しは繋がったと感じることが出来ても、それは一方的な感覚だったかもしれないし彼女にはそれでは足りなかったのかもしれない。恐らく、お互いの心が見ている方向が違って上手く交わらなかったのだろう。
 思えば、
 彼女はこれから、答えを見つけていけるのだろうか。自分を満たす何かに出会えるのだろうか。
 携帯電話を出して軽く操作する。個人名が並ぶ着信履歴の画面に、11桁の番号が混じっている。左上にはむきプリ君に今日の手伝いの断りを入れた日が表示されていて、プリムは静かにその番号を選択した。発信ボタンは押さずに、新規登録画面を開く。操作が終わった頃には、伝えられていたプリンプト親子の部屋に辿り着いていて、その扉を彼は静かにノックした。迎えに出てきたのは、入口の全てを塞ぐ程の巨体を持つチッチーだった。
「おお、我が孫よ、愛多きクリスマスから帰還したか!」
「……。だから、孫じゃないよ……。? 何か、美味しそうな匂いがするね」
「うむ、我が息子がすっかりいい色になっているぞ!」
「いい色……? って、うわあ、ムッキー!?」
 室内に入ったプリムは、がははと笑うチッチーを背後にむきプリ君の丸焼きを発見した。自分の状態からみても今のところ問題は無いようだが、プリムは慌てて回復スキルをかけまくり始める。後々問題が出ては大変だ。
「SP足りるかな、これ……」
 まあ、朝までまだ時間はあるし一気に全回復させなくてもいいだろう。そうして聖夜から日常に戻る最中で、彼は思う。
 糸はまだ切れていない。いつか、もうしばらくしたらその糸を繋げてみよう。