リアクション
29)
薔薇の学舎にて。
ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)は、
ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)の書類仕事を黙々と手伝い、
それが終わった後、ある提案を申し出た。
「よろしければ、手合せしてもらえないかな」
「手合せ?」
「ああ。実は、まだ、奥さんに一撃も入れられないんだ」
ヴィナが、肩をすくめてみせる。
「……奥さんは契約者じゃないんだろう?」
「……契約者じゃないのが不思議なくらいさ」
その後、2人は、フェンシングの訓練場へとやってきた。
剣を用いるルドルフに対し、
ヴィナは、両手にティアマトの鱗を構える。
「では、よろしく」
「よろしく、ルドルフさん」
2人は一礼し、勝負が始まった。
(リーチの差から考えて、相手の懐にまずは入らないとね)
ヴィナが、間合いを計算しつつ、
ルドルフの攻撃を待つ。
それを見越しているかのように、ルドルフが軽く剣劇を放つ。
それはダンスのステップのように優雅だった。
ヴィナは、バックステップはせずに、
なるべく前に向かってティアマトの鱗を繰り出そうとする。
風を斬る鋭い音がして、ルドルフがすばやく避ける。
再び、ルドルフの剣が、ヴィナに迫る。
(今しかない!)
ヴィナは迷いなく、前進し、再び、ティアマトの鱗を、
ルドルフの白い首元へとつきつけた。
もちろん、怪我をさせないよう、最大限の配慮をしている。
「強くなったね、ヴィナ」
ルドルフが、ふっと、口元を緩めた。
ルドルフの剣も、同時に、ヴィナの首元へと迫っている。
「……ルドルフさんこそ」
ヴィナは、改めて、ルドルフの研鑽に感嘆した。
いったい、いつ、このように腕をあげたのだろう。
(改めて、本当にすごいな、この人は)
「今日はどうもありがとう。
ひさしぶりに、緊張感のある戦いができたよ」
「こちらこそ」
ヴィナとルドルフは微笑を交わした。
そして、ヴィナは、手紙をルドルフに渡す。
「ありがとう。
……じゃあ、素適なバレンタインを」
「うん、ルドルフさんも」