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チョコレートの日

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チョコレートの日

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 開けられた扉から案内されてきた人物を見ると、それはルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)の知った顔だった。
「おや、いらっしゃい」
「こんにちは。校長のホストぶりが気になりまして」
 と、笑うリア・レオニス(りあ・れおにす)に、ルドルフも微笑んでテーブルへ案内した。
「なかなか馴染んでいるだろう?」
「まさか、転職する気じゃないでしょうね?」
「副業としてはどうかな?」
「ばれないようにしてくださいよ」
「それならもう無理だな。ここにこうしているのだから」
 など軽い会話をしながら、ルドルフはバレンタイン用のワインボトルをあけた。
 ワインが注がれたグラスを置かれたリアは、複雑な表情でそれを見つめる。
「ノンアルコールのワインだ」
「ありがとうございます。ですが、その前に……」
 リアは上品な包装の箱を差し出した。
「いつもお世話になっている校長へ、親愛のチョコです」
「これはこれは。今日はサービスしないといけないね。ところで、あの人への贈り物とどちらが本命なのかな……? なんて、聞くまでもないか」
 少しの間、ルドルフの言う内容がわからずまばたきを繰り返すリアだったが、すぐにハッと思い至ったとたん、わずかに頬を赤くして焦り始めた。
「い、いや、あの人へは祈祷があけたら……いや、そうではなく! 校長、それはあまりに意地悪な質問ではありませんか? 想いの種類は違っても、重さまで違うわけではないんですよ」
「フフフ。これは悪いことを言ってしまったね。けれど、指名された以上は自分が一番だと思いたいものだろう?」
「まさか、本当に副業にするつもりじゃ……」
「おや、いつの間にかグラスがからだ。これに気づかないとは、僕もまだまだだな」
 ルドルフは穏やかな笑みと口調でごまかすと、リアのグラスにワインを継ぎ足した。
 先ほど感じた居心地の悪さがリアに再び沸き起こる。
 薔薇の学舎の生徒としては校長にもてなされるのは、何やら心苦しいのだ。
 気づけばリアはルドルフの手からボトルをもぎ取っていた。
「校長の分は俺が」
「ありがとう」
 ルドルフが差し出したグラスに注がれていく液体を見ているうちに、リアの居心地の悪さも消えていった。
「つまみも追加しよう。チョコとチーズがお勧めだ」
 しかし、その心の安定もこの一言でまた揺らいでしまう。
 リアはルドルフとゆっくりと話をする機会を持てたが、同時に彼のもてなしに振り回されるという体験もしたのだった。