薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

東カナンへ行こう! 4

リアクション公開中!

東カナンへ行こう! 4
東カナンへ行こう! 4 東カナンへ行こう! 4 東カナンへ行こう! 4

リアクション

「くそったれがああ!!」
 恭也が咆哮した。イーグルアイを抜き、飛来する穴目がけて撃ち込む。まるでブラックホールに吸い込まれるように何の手応えもなかったが、この1発が散らす、あるいは速度を緩めさせる結果につながると信じて、彼は連射した。
 それを見て、ほかの者たちも魔法や銃を撃ち込む。
 数秒後、さまざまなことが起きた。
 まず翠。
「翠をこちらに!!」
 まだ距離があったが、ミリアが両手を伸ばした。彼女の意図を察して、ジャファルは翠をミリアの腕のなか目がけて放る。
 時空の穴は速度はともかく消える気配がないのを見て、リカインが突っ込む。
 ジャファルにタックルをかけることしか見えてなかった彼女が時空の穴を下から追い抜こうとしたとき、突然何かが降ってきて、彼女を押しつぶした。
「どわっ!」
「きゃあっ!」
 なぜか悲鳴は男女2人分だった。
 そしてジャファルだが。
 時空の穴は翠をミリアに投げて立ち上がったとき、すでにジャファルの眼前へと迫っていた。
「どけぇっ! ジャファル!!」
 しかしジャファルがまるで車のライトを前にした小動物のように硬直してしまっているのだと気づいた恭也は、自ら穴へ飛び込んだ。
 これはジャファルをねらって作られたものだから、きっと人1人を飲み込めば条件を満たし、消滅するに違いないと。
「ハディーブ!! 覚悟!!」
 最後のアンデッドモンスターの頭上を飛び越え、ついに間合いへ捉えたララは渾身の力で聖騎士槍グランツをハディーブへと突き込む。ドッと肉を突く重い感触がララの手に伝わった瞬間、ハディーブの傷口からライトブリンガーの光が漏れた。光はハディーブのまとっていた闇の瘴気を駆逐していく。それはまるで闇に染まった彼を浄化していく光のように見えた。
 光が消失したとき、ぱさりと床に彼の着ていたカフタンが舞い落ちた。
「これは……彼は人間ではなかったのか?」
「きっと、本当のハディーブはとうに命を終えていたのだよ」
 ハディーブの消失と同時にアンデッドモンスターも消え、戦いを終えたリリが横に並ぶ。
「執着。妄執がハディーブを支配し、動かしていたのだ。彼は自分で生み出した闇の虜囚であったのだよ」
「リリ」
「終わったのだ。これでもうジャファルも二度と過去に落ちることはないのだ」
 シャディヤと抱き合い、静かに涙を流している2人を見守るリリ。
「しかしリリ。ハディーブが消失したということは、ハディーブの魔力によって生み出されて維持されてきたここは、どうなるんだ?」
「それはもちろん、魔力の供給がなくなったのだから、今のアンデッドモンスターのようにほどけて――」
 ララが言いたいことが分かって、さーっとリリの顔から血の気が引いた。
「みんな、早くこの塔から出るのだよ!!」
「えっ?」
「この塔は消滅するのだ!!」

「えーーーーーーーーーーっ!?」




 彼らは大急ぎ、来た道を戻り、アンデッドの大群を始末し終えてひと休みしていたグラキエスたちと合流すると、塔から脱出した。
 最後の1人が塔の扉をくぐった次の瞬間、塔やその他、オアシスそのものが彼らの目の前から消えていく。
「みんな無事か!?」
 アルクラントが振り返り、この場にいる人数を数えだす。
「……柊さん、どうなったんでしょうか…」
 弾が不安を口にしたが、それに答えられる者はこの場にはいなかった。
 過去に飛ばされたのはたしかだが、はたしていつの時代のどこなのか……。
 そのことにみんなが思いを馳せていたが、リカインと、あともう1人だけはそれどころじゃなかった。
「つい引っ掴んで出てきちゃったけど、あなただれよ!? どうしてあんな所に現れたの!?」
 振り返り、まじまじと相手の男を見る。
 男は息を整えようと大きく息を吐き出し、口元をぬぐう動作をし――片手がまだリカインに握られていることに気づいて、振り払った。
「っせーな。こっちだってわけ分かんねーよ! ここどこだよ!? あんただれ!?」
「……リカイン。ここはカナンよ」
「あーっそ。りょーかい。リカインね。カナンか。分かった。じゃあバイバイ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 何それ!?」
 その場にごろんと寝転がろうとする男の姿に、あせったリカインが前へ一歩踏み出す。つま先が、男の服に引っかかった。
「!? ――ちょ!?」
 驚きに目を見開いた男の上に、ドサッと倒れ込むリカイン。
「いたたた……」
「痛いのはこっちだ! なんだよ!? これ以上何の用があるって――」
 上に乗っているリカインを振り払おうと、男が邪険に手を振った、まさにそのとき。
 何のはずみか因果か。触れ合った2人の手のひらから契約の光が生まれた。
「……うそ?」
 何かの見間違い、と思いたかったが、感じる絆はパートナーのものだった。
(うわ……あ)
 2人してあらぬ方向に顔をそらし、おおった口元で「面倒が増えた」とぼそっとつぶやく。
 でも契約は契約だ。こうなってしまっては腹をくくるしかない。
「あなた、名前は?」
「……………………ウェイン・エヴァーアージェ(うぇいん・えう゛ぁーあーじぇ)……」
 名乗ると、ウェインはあきらめたように天を仰いだ。