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バカが並んでやってきた

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第20章


 一方、暗黒秋将軍との交戦は続いていた。

 シリウス・バイナリスタはパートナーのサビク・オルタナティヴと共に、どうにか暗黒秋将軍に接触しようとする。
 しかし、闇の衣を広げた暗黒秋将軍は自在に空中を飛び回り、なかなか接近することができないうえに、独立して動きまわる魔法陣がそれぞれ魔法攻撃を繰り出してくるのだから、厄介このうえない。

 他のコントラクターも同様で、現状を打破する手を打つことができないでいた。

「ほほほ……そろそろ、この戦いも終わりにいたしましょうか……他の将軍を打ち破ったという連中も片付けなければなりませんし……」

 暗黒秋将軍が呟く。シリウスはその言葉に苛立ちを隠さない。
「くそっ……ふざけんなよ。この場で倒せないまでも、他の連中のとこなんか行かせるかよ!!
 コイツはここで食い止めないと……!!」
 夏将軍と冬将軍を撃破できたのは、フューチャーXの『覇邪の紋章』による融合の力によるところが大きい。
 しかし、闇の結界の中心点である暗黒秋将軍の近くでは融合のちからが発揮できないのだ。
 つまり、暗黒秋将軍が街に出てコントラクター達に接近することで、せっかく融合によって得られた力を失う可能性が高い。
 融合の力を失うのはあくまで暗黒秋将軍の周囲という狭い範囲ではあるが、充分な脅威になりえることは明らかだった。


「ほほ……なら、どうするというのですか?」


 歯噛みしたシリウスをからかうように、暗黒秋将軍が眼前に迫った。
「この――!!」
 苛立ち紛れに武器を振るうも、闇の中に溶け込むような暗黒秋将軍相手には、虚しく空を切るばかりである。
「さあ、そろそろ終わりにいたしましょうね……!!」

 ゾクリとした寒気が背筋を走る。
 眼前の暗黒秋将軍に気を取られているうちに、闇の触手が背後から迫っているのを感じた。
 ――ヤバい。
 しかも遠巻きには四つの魔法陣がこちらに狙いを定めている。そして、当然のように目の前には暗黒秋将軍が近づいている。
 これは、ヤバい。

 状況把握のための思考は明晰だ。しかし、打開策が思いつかない。
 自らの実力を発揮できない状況が、シリウスから本来の戦闘力を奪っていた。
 絶望的な状況にどうすることもできずに、しかし視界にはクリアーに自分のピンチだけが映る。


「――チェックメイト、ですわね」


「シリウス――!!」
 闇の触手と暗黒秋将軍が同時に襲いかかる。シリウスの耳に、サビクの呼び声がやけに長く響いた。


                    ☆


「……あ……」

 闇の結界を街中に張り巡らせている中心、闇の柱の中にツァンダ付近の山 カメリア(つぁんだふきんのやま・かめりあ)はいた。

「カメリアさんっ、大丈夫ですかっ!?」
 柱をこじ空けて内部に侵入していた博季・アシュリングは声を掛けた。
「……博季にぃ……何をしておる……」
 その声に、弱々しく反応するカメリア。

「カメリア様……!!」
 続いて、カメリアの山に住む狐の獣人 カガミと狸の獣人 フトリも声を掛ける。カガミはカメリアの様子を見て、同行してきたアキラ・セイルーンと博季に告げた。
「……いけませんね……カメリア様は、眠りの状態から敵の将軍の無意識をコントロールしようとしているのでしょう……。
 ですが、時間がかかり過ぎています。このままでは、闇の柱に同化されてしまうかも……」
「そんな……このまま、カメリアさんを引き剥がして外に連れ出しては?」
 相談する博季たちに、カメリアが再び口を開いた。

「……何をしておる……早く逃げんか、儂がこちら側から結界を押さえているうちに、早く……」
 どうやらカメリアが内部から抵抗していたこともあり、外では『融合』の力が結界の中であるにも関わらず発現していたのだろう。
 カメリアの無意識に干渉する力と『覇邪の紋章』がひとつになる力が互いに交じり合い、秋将軍の結界の中でのみ融合の力が発揮されていたのである。しかし、秋将軍の本体の近くだけは、本来の結界の力が強く、異分子であるカメリアや覇邪の紋章の力は届かないのであろう。

「ばっかやろ……そんじゃ、結界を押さえ続けるカメリアはどんすんだよ」
 アキラはカメリアの眼前に顔を近づけて、静かに告げた。
「何じゃ……お主も来ておったのか……今、一番会いたくないヤツじゃの……」
 無意識と現実との間を行き来するカメリアの意識は霞がかかったようで、まるで夢うつつの状態である。
 そこにアキラは呼びかけを続ける。
「ああそうかよ……そのまま結界を封じ続けると、カメリアはそのまま目覚めないかもしれないんだぞ」
「……」
 カメリアは応えない。
「じゃあ、ちょっと昔話しをしようぜ、思い出してみろよ」
 アキラはカメリアとの出会いから、いくつもの出来事を話して聞かせた。

「そうか……現実にあった出来事を思い出させることで、カメリアさんの意識をこちら側に戻そうというのですね……」
 博季は周囲の闇が触手となって迫ってくるのを、どうにか魔力の放出で抑えていた。こちらもあまり時間はないことを視線でアキラに続ける。
 アキラもその様子を見て、こくりと頷いた。思い出話しを続ける。

「なぁ、カメリア……。
 初めてあった時のこと、覚えてるか?
 あの時は、ありもしなかった二人のムフフでイヤンな妄想を思い出として捏造して、巨大テレビで放送したんだったよな……」
「……」
「偽者騒動の時には、カメリアの偽者を増やしてツァンダ地祇戦隊カメリアンを作ったり……」
「……」
「ビーム騒ぎの時には、巨大化ビームでウルトラカメリアにしたりとか……」
「……」
「そんな風にいろいろ、俺達は日々を過ごして来たんじゃないか、なぁカメリア……」


「ちょっと待て、なんかいい話っぽく語っておるが儂の扱いかなりヒドくないか?」


 さすがのカメリアも突っ込んだ。

「あ、起きたデブ」
 フトリが安堵のため息を漏らした。

「大体、他にも儂の社を建ててくれたり、儂の本体を落下する宮殿から命がけで護ってくれたり、他にももう少しイイ思い出あったじゃろうっ!?」


「……あったけ、そんなこと」


 セイルーンさん真顔です。


「ま、いいや……カメリアが深い眠りについちまったら、そんなバカ騒ぎも二度とできなくなっちまうんだぜ……それでもいいのか?」
「あくまでバカ騒ぎの方が主体か……」
「なぁカメリア、大丈夫だ。ウチらは誰もひとりじゃない、みんないる。
 これまでもみんなで何とかしてきたじゃねーか、ひとりでなんとかしようとすんなよ。
 心配すんなって、あんな腕四本野郎すぐにブチのめして……あれ、でも良く見ると結構可愛くね……?
 あ、ヤベちょっと好みかも……でも性格悪そうだしな……」


「もういいわい、このスカタン!!!」


 全力で脱線を始めたアキラの語りに耐え切れなくなったカメリアは、自ら覚醒してアキラの頭部をひっぱたいた。
「いてて……ようやく起きたか」
「まったく……人の思惑を台無しにしおって……それで、無意識下の干渉を解いてしまったから、結界の力は強まるばかりじゃぞ……どうするんじゃ、何か策はあるのじゃろうな?」
 それでも、アキラをからかうようなカメリアの口調はいつものものだ。その様子を確認したアキラは、ニヤリと笑みを浮かべた。

「おお、もちろんだ……。秋将軍とやらは魔法のエキスパートらしいが、こっちにもいるじゃねぇか、黒魔法と儀式のスペシャリストが!!」


「……誰?」


 いたっけそんなメンバー、とカメリアは首をひねった。目をずらして博季に視線を投げるが、博季は首を横に振った。
「いえ、僕なにも言われてないですけど……」

 そんなカメリアを横目に、アキラはその頼りになる黒魔法のスペシャリストを自信満々に紹介した。
「何言ってるんだよカメリア、いつも一緒にいるだろ、ほら!!」


「めへー」


 山羊であった。

 山羊 メェは山羊である。いつもカメリアの山で草を食べて生活している。時折イベント時にはマスコットキャラとして借り出されたり戯れに背中に乗られたりと、こう見えて多忙な毎日を送っている。
 しかし実のところ、かつてはカメリアの山を乗っ取ろうとして魔界の方から侵攻してきた魔族の一味である。いろいろあって山羊の身体に封印されているが、正体はザナドゥの地祇 メェなのだ。
「封印されてるメェの無意識に干渉してメェを起こすんだ!! カメリアとなら相性も良さそうだし、無理矢理封じるのでなければカメリアに危険もないだろ?」
「めへー」
 呑気な鳴き声を上げるメェを眺めながら、カメリアはもう呆れ顔をするしかない。

「ああ……うん、分った」
「よし、分ってくれたか!!」
「お主アホじゃろ」
「さらっと暴言っ!?」

「アホで悪けりゃバカじゃこのすっとこどっこい!! ああもういい、やってやるわい、山羊でもジンギスカンでも持ってこい!!」
 やけくそ気味に叫んだカメリアは、それでもメェの意識に干渉しようと目を閉じた。
「……ああ、やってくれ」
 アキラはその様子を眺めながら、自らも潜在解放でメェの潜在能力へと干渉を試みる。

「……うまくいくでしょうか……?」
 集中に入ったカメリアとアキラを眺めつつ、博季は呟く。
 共に周囲の闇の触手を抑えながら、カガミは応えた。
「わかりませんが……今は待つしかありませんね……ところで、何か感じませんか」
「……え?」
 博季はその問いに何となく上方を見上げる。
 気のせいではなかった。博季自身も何となく感じていたのだ。


 柱の上のほうが騒がしい気がする、と。


                    ☆


『あれはっ!?』


 ライカ・フィーニスとレイコール・グランツは、融合した力で『破邪の花びら』ごと崩落する空を放ち、闇の柱の上空を割った。
 そして、そこから落ちてきたものは――。


「――わしと同じことを考えるヤツがいたとはなぁっ!!!」


 南部 ヒラニィであった。パートナーによって柱の上空へと高く打ち上げられたヒラニィは、そのままライカによって鋭く打ち出された『破邪の花びら』の一部をキャッチしたのである。
 『破邪の花びら』はヒラニィの手に収まる寸前にいくつもの花びらに分散し、まるで光の筋となって上空から街中に降り注いだ。

『キレイ……流星みたい……』

 その光景がライカの瞳に映りこむ。いくつもの光が降り注ぐ中、上空のヒラニィは更なる行動に出ていた。大声でライカとレイコールに呼びかける。
「おぬしの崩落する空、なかなかだったぞ――ここでもう一度、わしの崩落する空と共に――」
 ヒラニィの崩落する空がもう一度発動し、ライカが砕いた闇の空が完全に砕けた。
『――やった!!』
 そしてさらにヒラニィが握りこんだ右手には、スプリングが全てを込めた『破邪の花びら』の一部がある。
「ウィンター!! 激しい太陽のブースト!!!」
 ウィンターの分身に合図し、右手に纏った『天地鳴動拳』でしっかりと作った拳を太陽の力で強化する。
 そのまま、まさに力任せに闇の柱へと叩きつけた。


「これでもくらえええぇぇぇっ!!!」


 眩しい光が街を照らした。
 流星のように幾筋もの光が降り注ぐ中、街を暗く覆いつくしていた闇の空は崩壊し、その中心であった闇の柱が今、その頂点から崩れ去っていく。

『……すごい……』

 その、まるで夢のような光景を、ライカは立ち尽くしたまま眺めていた。


『ところで……このまま柱が崩れたら、我々は巻き込まれるのではないかね……?』


 と、レイコールが突っ込むまで。