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黄金色の散歩道

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日本の秋

 日本のとある山奥。
 付近には他に建物はなく、360度自然に囲まれた山荘――。
「いやー鈴子さん、遠路はるばる日本まで来てくれてありがと!」
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、その山荘に到着するなり、友人の桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)の腕を両手で掴んで、ぶんぶん振った。
「初めて来た場所ですけれど、何故だか懐かしさを感じます」
 鈴子が周囲を見回して微笑む。
 鳥の鳴き声や、秋の虫たちの鳴き声が、心地良く響いていた。
「それにしても、ここは一体……」
「うちの別荘。ほら私ママは日本人だから、仕事の関係で日本にも別荘とかそういう生活拠点があるの。……とはいっても、色々事情があって、地球の日本にはあんまり縁がないのよね」
「そういえば、年末年始やお盆に、リナさんは日本に帰るとは仰りませんよね」
「うん、まあそうですねー」
 リナリエッタの母親は日本の実家と縁を切っている。そのため、リナリエッタも母親の故郷に来る機会はほとんどないのだ。
「とはいえ、私も少しは大和撫子みたいな所を磨いて、これからのエリュシオンでのイケメンゲ……」
「リナさん……やはりそれが目的なのですね」
「いえ、違います。なんでもないです。ええっと、これからの活動の為に和の精神を学ぼうと思ってるんですよ」
 言い直すが、鈴子は疑いの目で見ている。
「そう、それで『紅葉狩り』を体験しに来たんです!」
 言ってリナリエッタはショルダーバッグの中から、縄とか罠を取り出していく。
「ふふ、縄や罠の使い方はばっちり。ただ銃刀法がどうとかで、銃は持ち込めなかったのよね」
「あの、リナさんリナさん。紅葉狩りって、『狩り』じゃないですよ……銃はいりません」
「えー?」
 不思議そうな顔をしているリナリエッタに、鈴子は紅葉観賞のことを、紅葉狩りというのだと、簡単に説明をした。
「そ、そうなんですかあ……和服を着たお嬢様たちが大暴れ、って思ってたのに……」
「和服姿で、銃振り回すつもりだったのですか?」
「斬新でしょう!?」
 リナリエッタも鈴子も、カジュアルな着物を纏っている。
「そうかもしれませんが、私は付き合えませんよ」
「えー、そんなこと言わないで、紅葉狩りしましょーよー。狩る方じゃなくて、本当の紅葉狩りに行きましょう!」
「本当の紅葉狩りでしたら喜んで」
 くすっと鈴子が笑い、リナリエッタはパッと顔を輝かせた。
「やった! 鈴子さん、この日のために用意した和服、似合ってますか?」
 リナリエッタは、鈴子の前でくるりと回って見せた。
「私にぴったりの派手派手! 路線もいいかなーと思ったんですけど、
 鈴子さんが普段着られているような穏やかな感じもいいと思ってチョイスしてみました!」
「そうですね、派手目な方がリナリエッタさんの容姿には似合うとは思いますが、こういうのも良いですね」
「ホントですかあ。良かった〜。それじゃ、いきましょ! 紅葉狩りに」
 リナリエッタは小さな山道を指差した。
「え? この格好で山道を歩くのですか?」
「登山みたいな急な道じゃないですから、大丈夫ですよお。とはいえ、たまには転んじゃいそうになってしまうかもしれないですけれど、私、山の中でのレンジャー活動ぐらいなら、簡単にできますから!」
「そうですね……でも、スニーカーというわけにはいきませんし」
 すぐ側まで、車で送ってもらったこともあり、2人とも草履をはいている。
「大丈夫。そう奥までは行きませんから。鈴子さんのおみ足が傷つかない程度、歩きましょう〜。万が一の時には、私が鈴子さんの足になりますよー!」
「……わかりました。ゆっくり歩きましょう。観賞目的ですしね」
「はい。狩じゃない、狩りじゃないんですよねー」
「では、行きましょう」
 鈴子はゆっくりと、山道へと歩き出す。
「あっちに、秘密の展望台が……あっ」
「リナさん……!」
 早速転びかけるリナリエッタを、鈴子が腕を引っ張って支える。
「うう、やっぱりちょっと動きにくいかもお」
「並んで歩きましょう。私と同じ歩幅で歩けば、頃びませんよ……ま、リナさんと私じゃ足の長さが違いますけれどね」
「鈴子さん、今なんだか言葉に棘があ。鈴子さんくらいの身長の方が、可愛らしいですよ! 和服も似合いますし」
「ありがとうございます」
 ゆっくりと、のんびり会話を楽しみながら、2人は山の中の道を歩いていき。
 鮮やかで美しい景色の見える場所へ向かうのだった。