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【四州島記 外伝 ニ】 ~四州島の未来~

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【四州島記 外伝 ニ】 ~四州島の未来~
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【西暦2028年 9月下旬】  〜最後の災い〜

「た、大変です兄さん!四州各地で、テロリストが暗殺されてるそうです!」
「テロリストが暗殺?」
「ハイ。ニュースによると暗殺されたテロリストというのは、、統一選挙を妨害しようした鏖殺寺院のメンバーとみられると言ってます。暗殺した側については良くわからないそうですけど……」
「ふ……、フハハハハ!」
「ど、どうしたんですか、兄さん?」

 高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)からニュース速報を聞いたドクター・ハデス(どくたー・はです)の口から、またいつもの高笑いが起こる。
『兄がこの笑い方をする時は、ろくでもないコトを思いついた時だ』と学習している咲耶は、露骨にイヤそうな顔をした・
「テロリスト共を暗殺したのは、紛れも無く連邦政府の契約者達!ヤツらが四州の各地に分散している、今が好機!!」
「エエッ!そうなんですか!?そんなコト、ニュースじゃ言ってませんでしたけど……」
「政府の関係者が暗殺の犯人だなどと、ニュースで報道されるはずがあるまい?」
「そっ、それもそうですね……」

 珍しく正論を吐くハデスに、思わず納得してしまう咲耶。

「フハハハ!今こそ、この悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデスの名の下に、再び四州征服計画を実行に移すチャンス!!以前とは異なり、今回は6年前から準備を進めているのだ!今度こそ、我等オリュンポスが四州を征服してくれよう!我等オリュンポスの幹部、奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)を呼び出せっ!」
「ちょっと、兄さんっ!ナニまた四州島征服なんて言ってるんですか?!しかも神奈さんは幹部なんかじゃなくて、兄さんの許嫁ですよっ!」

 などという咲耶の叫びもいつも通りスルーされ、ここに再び四州征服計画が実行に移されたのだった。


「了解じゃ、ハデス殿。………あ、あくまで任務なのであって、別にハデス殿のためではないからなっ!」

 言わずもがなのコトを口走りながら、ハデスの命令を了承する神奈。
 神奈は6年前に、四州島に派遣され、情報収集と征服活動の準備を進めてきた。
 新政府の改革で職を失った元武士などをオリュンポスの戦闘員として雇い、地道に戦力強化に努めてきた。
 そしてなりより、神奈の手には「切り札」がある。

「この四州島征服が完了すれば、わらわもようやくハデス殿の側に戻るコトが出来る!さあ、者共!一気に四州を制圧するのじゃ!」
 戦闘員を引き連れ、神奈は勇躍、ハデスの元へと急いだ。


「神奈よ、今回の作戦計画を説明するのだ!」

 ハデスは、6年前から潜入させておきながら、作戦は全て神奈に丸投げで、しかもこれまで作戦について、一度も訊ねたコトがない。

「今回の作戦には、この二つを使うのじゃ!」

 神奈は懐から御札と、巻物のようなモノを取り出す。
 どちらも、随分と古い物のようだ。

「これは、東野の知泉書院(ちせんしょいん)で見つけた、異界の魔神を召喚する方法について記した巻物じゃ」
「エエッ!魔神!?」
「な、なんと!魔神だと!?あの、炎の魔神を喚び出せるというのか!!」

 神奈の『魔神』という言葉に、全く異なる反応をみせるハデスと咲耶。
 咲耶は正直イヤな予感しかしないが、ハデスは喜色を満面に表わしている。

「いや、ハデス殿。今回喚び出すのは炎の魔神ではない。南濘の火山は地祇の手の中にあって、手出し出来んからの。じゃから今回は、この太湖(たいこ)の水を使って、水の魔神を喚び出すのじゃ」
「で、でも神奈さん、魔神なんか喚んでも、私達に制御できるんですか?」

 咲耶の脳裏に、魔神の封印を解いた挙句、まるで制御出来ずに四州のピンチを巻き起こしてしまった、暗い記憶が蘇る。

「そこで、この式符じゃ!この式符には、5000前にわらわの先祖が退治し式神とした、ヤマタノオロチが封じてある。このヤマタノオロチを依り代にして、そこに魔神を宿らせる!コレで魔神を自在に制御出来るのじゃ!」
「すご〜い!まさに完璧な計画ですね!さすがは神奈さん!」

 純朴なペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が、賞賛の眼差しを送る。

「えっ?そ、そう……?ま、まぁそれほどでもあるけど――って、べ、別に褒められて嬉しくなんか無いんだからねっ!」

 どうやら神奈は、非常にわかりやすいツンデレのようだった。

「フハハハ!もはや四州は征服したも同然!早速、作戦を実行に移すのだ!!」


 号令一下、魔神の召喚を始めるハデス達。
 神奈は、魔神が召喚されたタイミングで式神を召喚しないといけないため、魔神の召喚を取り仕切るのはハデスの役目である。
 魔神の召喚に必要な魔力は膨大となるため、戦闘員も一人残らず召喚に駆り出されている。
 呪文の唱和が、湖畔に長く尾を引き――。

 ちゃぷん。

 湖面に、変化が現れた。
 小さなさざ波が湖面に立ったかと思うと、見る間に大きくなり、やがて大きく渦を巻く巨大な竜巻となる。

「今じゃ!我が命に従い、いでよ、【『式神』ヤマタノオロチ】!!」

 神奈が投げ込んだ式符が、渦に巻き込まれ、中心へと呑み込まれていく。
 そして、次の瞬間。

「おおっ!こ、コレは――!」

 そこには、身の丈数十メートルはあろうかという、全身が逆巻く波濤で覆われた、ヤマタノオロチが鎮座していた。

「ようし、手始めに、西湘の王城を占領するのだ!行け、ヤマタノオロチ!」

 高らかに、ヤマタノオロチに命令を下すハデス。
 だが――。

 シーーン。

「どうした、何故動かぬヤマタノオロチ!」

 ヤマタノオロチは、ハデスの命が聞こえているのかいないのか、ただジッと、ハデスを見つめている。

「もしや、神奈の命しか聞かぬのか?命令してみよ、神奈」
「ヤマタノオロチ!ハデス殿の命令を聞くのじゃ、西湘の王城を破壊せよ!」

 大声で、命を下す神奈。
 ヤマタノオロチの巨体が、ゆらり、と動いた。

「おおっ!動いた!!」

 と喜んだのもつかの間――。

「神奈さん、危ないっ!」
「兄さんっ!」

「ペルセポネ殿!?」
「咲耶!!」

 突如、襲ってきたヤマタノオロチから、ハデスと神奈を庇った咲耶とペルセポネが、ヤマタノオロチの10本ある首の内2本に咥え込まれてしまった。

「な、ナニをするのじゃ、ヤマタノオロチ!咲耶殿とペルセポネ殿を離すのじゃ!」
「お前の敵は俺達ではない、あそこにある街だ!!」

 必死に、ヤマタノオロチに命令する神奈とハデス。
 だが――。

「た、助けてくだされ、ハデス殿ーー!」
「は、離せっ!離せこのっ!!」
 
 結局、ハデスと神奈を捕まってしまった。

「は、ハデス様っ!!」

 戦闘員もハデス達を助けようとはするのだが、ヤマタノオロチの巨体を前にしてどうするコトも出来ず、ただオロオロするばかりだ。
 ハデス達4人を捕えたヤマタノオロチは、そんな戦闘員達には目もくれず、ゆっくりと移動を始めた。
 その行く手には、西湘共和国の首都、央津(おうつ)がある。
 

「なんだって!太湖に水の魔神が!!こっちに向かってる!?」

 軍からの報告を受けた南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は、信じられないという顔をした。
 四州開発銀行総裁としての6年間の実績を引っさげて、四州連邦の次期大統領に立候補した光一郎は、遊説のため、央津に来ているのた。
 前大統領の広城 豊信(こうじょう・とよのぶ)が勇退を公表しており、対立候補もこれといった実績の無い人物ばかりのため、大方の予測では、光一郎が勝つとされている。
 だが、選挙後の政権運営を考えれば、少しでも多くの票を集めて当選しておきたい所である。
 光一郎は、遊説に力を注いでいた。

(太湖にも魔神が封印されてるなんて話、聞いたコトねぇぞ……。一体、どういうコトだ……?)

 光一郎のその疑問は、すぐに氷解した。

「ナニ!オリュンポスの戦闘員が?ハデスを助けてくれ!?」

 救急と警察に、オリュンポスの戦闘員から通報があったと聞いて、光一郎は思わず頭を抱えた。

「今、ハデスって言ってたみたいだけど、何があったの?」

『ハデス』の名を聞いて、一人の女性が光一郎に駆け寄った。
 高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)博士だ。
 彼女は、光一郎の応援演説のため、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)と共に、この四州に来ていたのだ。

 往年のロボットアニメの再放送から火が着いた巨大ロボットブームに目をつけた光一郎が、呼ぴよせたのである。
 もちろん子供達に選挙権は無いが、そこは「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」というヤツだ。

 怪訝そうな顔をする鈿女に、光一郎は状況を説明した。

「あんのバカ弟……。炎の魔神だけじゃ飽き足らず、今度は水の魔神って訳?」

 怒りのあまり、鈿女のこめかみに青筋が走る。
 ハデスは、鈿女の実の弟なのだ。

「状況は把握したわ。ここは、私達にまかせて頂戴」
「そうしてくれると助かる。ウチの空軍じゃ、おそらく歯が立たない」
「ハーティオン、聞こえる?」
『どうした、鈿女?』

 鈿女は、ヒーローショーに引き続いて握手会中のハーティオンに、無線で呼びかけると、仔細を話した。

『――了解だ。すぐに、出撃する』

 ハーティオンはそう言うと、すっくと立ち上がった。
 しゃがまないと、背の小さな良い子のお友達とは、握手出来ないのだ。

「済まない、みんな。握手会は、一旦中断だ。私はこれから、この街を襲おうとしているヒドラを倒しに行かねばならない。だが、心配はいらない。私は必ずやヒドラを倒して、ココに戻ってくる。だからみんな、ここで大人しく待っていてくれ――握手会の列を、乱してはダメだぞ。約束できるかな?」
「「「ハーーーイ!」」」

 敢えて、ヒーローショーの続きのような言い回しをするハーティオン。
 いや、これが素なのかもしれないが。

「いい返事だ――よし、いくぞ!龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)!」
『ガオオオン!!』
「龍心合体!――完成!蒼空勇者ドラゴ・ハーティオン!!」
「「「おおーっ!!」」」


 目の前で繰り広げられた合体変形に、見ていた良い子のお友達やお父さんお母さんから、どよめきと拍手が巻き起こる。

「みんなの思い、確かに受け取った!これで私は無敵だ!!」

 空中で決めポーズを取ると、颯爽と飛び去っていくハーティオン。
 その後ろ姿を見送りながら、光一郎は、一人ほくそ笑んだ。

「喜べ、鯉。この選挙戦、オレの勝ちだ」
「確かにハーティオンが勝てば、この選挙はもらったようなモノだ。しかし、もしハーティオンが負けたら――」
「いや、前みたいに封印されてたヤツじゃなくて、今回はハデスが自分で喚び出したヤツらしいから。それなら、ぜってー負けねーって」
「なるほど。大勝利間違いなしだな」

 オットーは、あっさり納得した。 

 
 果たして、戦いはハーティオンがヤマタノオロチを圧倒し、咲耶、神奈、ペルセポネの3人は、あっと言う間に助けだされた。
 しかし――。

「マズイぞ鈿女!ヤマタノオロチが、ハデスを呑み込んでしまった!」

 ハーティオンは歯噛みした。
 このままヤマタノオロチを倒しては、ハデスがどうなるかわからないし、かといって手をこまねいて見ていては、後数分もしない内にハデスは窒息死してしまう。

『構わないわ、ハーティオン。ヤマタノオロチを倒して』
「う、鈿女――!」
『大丈夫。御雷は、そんなにヤワじゃないわ。それに放っておけばいずれ、御雷は死んでしまう。なら、賭けに出るしかないわ』

 御雷というのが、ハデスの本当の名である。

「……分かった」

 鈿女の苦渋の決断を、ハーティオンは受け入れた。

『それに、万が一御雷が死んだ所で、所詮はあいつの自業自得。こっちは散々迷惑を掛けられたんだし、恨みこそすれ、恨まれる筋合いは無いわ』
「そ、そうか」

 怒気をはらんだ鈿女の口調に、ハーティオンは頷くしかなった。


「グレート勇心剣!――彗星!一刀両断斬りーっ!!」

 水の魔神は、ハデスと共に散った。


「ハーティオーーン!」
「ありがとう、ハーティオーーン!!」
「さらばだ、良い子のみんな!そしてお父さんお母さん!!だが、四州島に危機が迫った時には、またいつでも私を呼んでくれ。そして大統領選挙では、南光一郎をヨロシク!!」

 そう言い残し、空の彼方へと飛んで行くハーティオン。
 きっちり、光一郎の応援をするコトも忘れない。
 もちろん、握手会も最後の一人までしっかりこなしたのは言うまでも無い。

 果たして、翌日の大統領選挙は、光一郎やオットーの予想通り、光一郎の圧倒的大勝利に終わった。


「誰だっ!『魔神を自在に制御出来る』とか言ったのは!!」
「す、すまない、ハデス殿〜!」
「神奈!お前は完璧な四州島征服計画を立てるまで、帰って来るなっ!」
「そ、そんな〜!」

 神奈が、ハデスの元に嫁ぐのは、まだ当分先のようだった。