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栄光は誰のために~火線の迷図~(第1回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第1回/全3回)

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 その頃まだ、中央の通路を選んだ生徒たちは、攻撃にあわずに無事に通路を進んでいた。
 「つくづく、遺跡って言うより、未来都市って感じだよねー……」
 イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)のパートナーの剣の花嫁、カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)が、進むに連れてともって行く照明に感心して、金の瞳を瞬かせる。
 「こういった遺跡は古代人の末裔にしか読めない文字やら、動かせない機械ばかりだと相場は決まっていると思ってたんだがなあ」
 対照的に、イレブンは拍子抜けした様子だ。
 「現在推測されている遺跡の規模及びこの通路の巾から察するに、ここに居た人々は、内部の移動には何らかの乗り物を使っていたのではないかな? とすれば、そういった物も内部に残っている可能性がありますな。ふむ、楊教官が多大なる興味を持っているというのもうなずける……」
 工兵科の青 野武(せい・やぶ)が、しきりと関心しながら呟いた。
 「あー、バイクは難しくても、自転車なんかを持ち込めたら、移動が楽になるでありますね……っと」
 パートナーの守護天使黒 金烏(こく・きんう)が言いかけて、盛大に身震いをした。生徒たちがいっせいに金烏を見る。
 「いや、さっきからどうも背筋が寒くてしょうがなかったんでありますが、ちょっと今強烈なのが……」
 「あの、みなさん、あまり気を抜かない方が良いと思いますよ? 人が来ると照明がつくって言うことは、人が来たことを感知する仕組みがあるっていうことで……」
 楓がその言葉を言い終わるより早く、通路の先の暗がりからカンカンカンカン……と金属的な足音が多数聞こえてきた。
 「来るよ!」
 黒乃 音子(くろの・ねこ)が、肩から下げていたアサルトカービンを腰だめに構える。
 「ここで戦闘になったら、遮蔽が何もないでござるが……やるしかないか」
 音子のパートナー、剣の花嫁フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)も光条兵器の狙撃用ライフルを形成する。
 通路の先からやって来たのは、銀色の、女性の形をしたものだった。ただ、生徒たちのパートナーになっている機晶姫の大多数のようには人間に近くない。女性と言っても、体のラインが人間の女性に似ているというだけで、顔もデッサン用の石膏像のように大雑把な造作になっており、表情もない。一つの型で作った量産型という感じだ。
 「おお……これは素晴らしい! 是非この技術を持ち帰らなくてはッ!」
 「それは同感ですが、不用意に近づくのは止めるでありますッ!」
 思わずふらふらと近寄ろうとする野武を、金烏が羽交い絞めにして後ろへ引っ張っていく。
 「うーん、古代の兵器って、もうちょっとこう……ロマンを感じる形をしてると思ったんだけどなー。なんか雑な作りで、美しくないなあ」
 「ロマンがあろうがなかろうが敵は敵だろ。危ないから後ろに居ろよ」
 カッティが暢気に唇を尖らせるのに、イレブンが突っ込む。
 「掃除係のお姉さん……じゃ、ないよな?」
 神代正義が目をすがめて呟いた、その時。量産型機晶姫たちの肩や腕が開いて、銃身が顔を出した。
 「あんなものをこちらに向けているものが、普通の掃除係なわけないでしょ! 掃除係だとしたら、私たちを掃除に来たんだわ」
 歩兵科の紫光院 唯(しこういん・ゆい)が、冷ややかに言いながら剣を構える。
 「唯、無理はしないでください。……あなたがたは、下がった方がよろしいでしょう」
 唯のパートナーメリッサ・ミラー(めりっさ・みらー)が、楓たち技術科の生徒を下がらせる。
 「プリモ、こちらへ」
 プリモのパートナー、機晶姫ジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)もプリモを下がらせた。その間に、量産型機晶姫の攻撃が始まった。光る弾丸が、生徒たちに襲いかかる。
 「さっきの床のこげ跡の正体は、ひょっとしてこれか……?」
 目の前に着弾した光の弾丸が床を焦がすのを見て、グレンが呟いた。
 「生きて帰ることが一番大事なんだからな! 皆で力をあわせて、この場を切り抜けるぞ」
 イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が皆の士気を鼓舞するように言い、楓をかばうように前に立ってアサルトカービンを構えた。精密射撃で量産型機晶姫の頭を打ち抜くが、攻撃は止まらない。頭を失ってなお、光の弾丸を吐きながらこちらに迫ってくる量産型機晶姫を見て、楓がのどの奥でヒッと悲鳴を上げた。
 「気をしっかり持てよ、パートナーの所へ帰るんだろ?」
 イリーナは楓を叱咤した。楓は震えながらも、唇をぐっと噛んでうなずく。イリーナは再び狙いをつけ、量産型機晶姫に弾丸を叩き込んだ。音子とフランソワも集中攻撃し、やっと一体が停止する。
 「くそ、爆炎波が使えれば、一掃できるんだが……! 遺跡にダメージを与えたら、楊教官に何を言われるか判らんしな……!」
 前面に立つイレブンは歯噛みした。弾丸は光条兵器を使えば跳ね返すこともできるようなのだが、いかんせん敵の弾数が多すぎた。スウェーで避けたいが、そうすれば、後ろにいる技術科の生徒たちを危険に晒すことになる。
 「おい、深山、ガトリングぶっ放したらまずいか?」
 月島悠が手をわきわきさせながら楓に訊ねた。
 「わ、わかりません! けど、楊教官なら『なるべく壊すな』と『でもちゃんとデータは持って生還しろ』と、両方言いそうな気がします!」
 涙声で楓が答えた。
 「「ええい、どうしろってんだー!!!」」
 イレブンと悠が同時に叫ぶ。
 「て言うより、これじゃ攻撃が激しすぎて、前に出ることも出来ないわ!」
 慣れない光条兵器に持ち替えた唯は、既に防戦一方に追い込まれている。
 「こちらも、厳しい……ッ」
 イレブンと並んで前面に立つ宇都宮祥子も、何発も攻撃を食らい、騎士鎧があちこち変色している。ジーナ・フロイラインももう傷だらけだ。
 「祥子お姉さま、お願いですからあまり無茶はしないでください!」
 セリエが悲鳴を上げる。
 「これは……いったん撤退した方が良いかも知れぬな」
 林田樹が呟いた、その時。生徒たちがつけたヘッドセットから、無線連絡の音声が流れて来た。

 『遺跡正面に敵! 何者かに指揮された、ゴブリン及びオークの部隊とみられる!』

 その第一報に続き、探索を一時中止して戻るように指示された遺跡内部の生徒たちは、続々と後退を始めた。
 鵬悠たちの隊では迎撃装置を破壊して扉を開けたものの、その向こうにいた量産型機晶姫と戦闘になっていた。ナイン・カロッサが照明弾を投げ込んだが、遮蔽のない直線の通路では目くらましもたいした意味がない。ナイトたちが盾となりながら、後退するしかなかった。
 しかし、生徒たちが入口のホールまで戻ると、攻撃はぴたりと止んだ。楓たちとヴォルフガングたちもほぼ同時にそれぞれの通路から戻り、ほっと息をつく。どうやら、円盤メカも量産型機晶姫も、単純に『遺跡に侵入した者を追い出す』ためのもので、遺跡の外まで追いかけてくるつもりはないらしい。
 鵬悠とヴォルフガングが、互いにちらりと視線を交わす。だが、言葉をかける事はなく、二人は顔を背け、それぞれの隊に遺跡の外に出るよう指示を出した。