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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第2回/全3回)

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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第2回/全3回)

リアクション

「メロディですっ。御主人様ぁ。絶対、絶対、会いに来て下さいね!」
 元気な妹風口調で、言いラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)は、携帯電話を白百合団のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)に渡す。
「メリーれす。よろしく〜♪ ねぇ、おにぃちゃんも、わたしとあそんでくれるの?(はぁと)」
 舌足らずな口調で言い、ミルディアは団員の氷川 陽子(ひかわ・ようこ)に携帯電話を渡した。
「はじめまして。アイスリバーです。パートナーのベティともども、よろしくお願いします」
「はじめまして。ベティです。パートナーのアイスリバーともども、よろしくお願いします」
 陽子とパートナーのベアトリス・ラザフォード(べあとりす・らざふぉーど)が電話に向かって言い、最後に団員のヴェロニカ・ヴィリオーネ(べろにか・びりおーね)に回す。
「アンジェラです。お待ちしておりますわ。うふふ」
 ヴェロニカは魅惑的にそう言った後、携帯をラキシスに返した。
 ラキシスはこくりと頷いて受け取る。
「皆楽しみにしていますぅ!」
 その後、2、3個と会話をした後、ラキシスは電話を切った。
「……大和ちゃん、人数とか言ってこなかった」
 ラキシスは不安気な目を皆に向けた。
 メンバーの人数などをそれとなく伝えることが役割の1つだったのだが。
「言えないような状況のようではございますが……作戦が知られてしまっているわけではなさそうです」
 ヴェロニカの言葉に、優子が硬い表情で頷く。
「ナガンからは『べんとう18』とメールが届いている。18人はいると考えられる」
 廃屋から少し離れた場所に、メンバーは集まり、作戦決行の時を待っていた。
「逃げないで、電話をしてきたってことが、合図だから」
 ラキシスはぎゅっと携帯電話を握り締める。
「綾と接触を果たしたということか。――皆、すまないが頼む」
 優子が一同を見回す。
 深く頷き合った後、メンバーは班ごとに分かれ、それぞれの方向から廃屋へと向かう。
「お願いしますね」
 突入班の和泉 真奈(いずみ・まな)は、教導団の松平 岩造(まつだいら・がんぞう)にパワーブレスをかけた。
「任せておけ!」
 岩造は力強く言い、剣を抜く。

 ガシャン
 窓ガラスが割れる音が響いた。
 外の見回りをしていたナガンがリナリエッタが捕らえられている部屋へ窓を破って侵入した音だった。
 ナガンはリターニングダガーを投げて、リナリエッタの縄を切る。
「ありがと」
「やはり裏切ったか、ナガン!」
 駆けつけた男達が銃を撃つ。
「……っ」
 リナリエッタは急ぎ飛び出す。
 服や靴に銃を仕込んでくることも考えていたのだが、拳銃は用意できず、突撃銃のアサルトカービンを仕込むことは無理だった。
 放たれた弾のいくつかがリナリエッタの身体を掠め、服に血が滲んでいく。
 ナガンが飛び出す彼女を手を引いて、外へと引っ張り門へと走る。
「全軍一斉攻撃!」
 凛とした声が響く。
 騒ぎを合図に、白百合団副団長神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)が全軍――いや、突入班に指示を出す。
 敵の目を欺くために、わざと全軍という言葉を使った。
 建物の影に潜んでいた白百合団と協力者達が、一斉に駆け込んでくる。
「撃て! 屋敷に入れるな」
 廃屋の中で指示を出したのは――怪盗舞士の偽物だった。
「歩兵科所属少尉の岩造様も伊達じゃねぇぜ!!」
 真っ先に屋敷に踏み込んだのは、松平 岩造(まつだいら・がんぞう)だった。こちらもハッタリを豪語しながら、カルスノウトを手に派手に斬り込んでいく。
「さぁ、かかってきなさい!!!」
 パートナーのフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)は、光条兵器の大剣を振るう。銃を用意したかったのだが、買いに戻る時間はなかった。遠距離から攻撃してくる相手に、剣での攻撃は不利だが、自分達の目的は敵を倒すことだけではない。
「……女子どもを誑かす輩ども、覚悟はできているのだろうな……?」
 虎堂 富士丸(こどう・ふじまる)は、ホーリーメイスを手に敷地内に飛び込み、廃屋から出てきた柄の悪い男に叩き込む。咄嗟に、男は剣で富士丸の攻撃を受けた。
「油断しないでね。相手にも契約者いるみたいだから!」
 月隠 神狼(つきごもり・かむろ)は後方からアサルトカービンで援護をする。
 富士丸と交戦する男の足に、神狼が放った弾丸が直撃する。同時に富士丸は男の脳天を打つ。
「容赦なしないぜ、悪党ども!」
 岩造は銃を恐れることなく、地を蹴って窓から現れた男の元に跳ぶ。
「右、いくよ!」
 声を発し、神狼が窓の敵の右腕を打ちぬく。岩造は左側からカルスノウトを打ち下ろし、男を斬り捨てた。
「私が相手です!」
 フェイトは岩造の後につき、彼の背後を守りながら応戦する。敵と斬り結ぶ彼女の元に、2階から銃弾が浴びされる。
 瞬時に神狼が2階の敵の銃を撃ち飛ばす。
「……来るぞ……」
 富士丸が禁猟区で作った結界に反応はあるも、今のところ敵は廃屋内だけのようだ。
「総員回避!」
 優子の声が飛び、富士丸が木の後へと跳んだ直後、玄関のドアが勢いよく開かれ銃が乱射される。
「射撃が止み次第突入する」
 塀に隠れながら、言った優子の言葉に、彼女を守る者達が無言で頷いた。先に突入した3人に加勢せねば、3人の命が危ない。
 また敵の攻撃が外部に及べば一般人に被害者が出てしまう。
 敵の射撃が治まり、次の攻撃が始まる僅かな切れ目に、シフトで防御をしながらヴェロニカ・ヴィリオーネ(べろにか・びりおーね)がまず飛び出し、白百合団副団長の優子、左右を白百合団のステラ・宗像(すてら・むなかた)イルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)が守りながら、突入をする。
「守りを固めて、走り抜けますわよ!」
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は後につき、状況を見定めながら注意を促す。
「……人質がいなければ、いけそうだ……」
 廃墟の大きさ、現れる敵戦闘員の数から富士丸はそう見定めた。
 木の陰から飛び出す。茂みの影から白百合団に向けられる銃口に向かって飛び、潜む敵にホーリーメイスを打ち下ろす。
 弾丸が富士丸の脇腹を掠めるも、敵は富士丸の攻撃で昏倒する。
「こち!」
 身を屈めて花壇の裏に隠れていたリナリエッタは、塀の外に待機していたパートナーの南西風 こち(やまじ・こち)と再会を果たす。
 こちは携帯を握り締めたまま、不安気な目をしていた。
「マスター……大丈夫、ですか?」
「平気よ。やられた分は返さないとねッ!」
 リナリエッタはこちの頭を軽く叩いて安心させた後、預けていたアサルトカービンを受け取り、2階の敵に向かってスプレーショットを放つ。
 2階の窓が派手に割れて、2階からの攻撃が治まる。
「優子お姉さま、無茶はしないで下さい! ご自身はいつでも退けるように……っ!」
 桜月 舞香(さくらづき・まいか)は、優子の後ろに立ち、彼女の背を守りながら、いざという時に指揮官であり要である優子が退けるよう退路を守る。
 廃墟側面の窓から飛び出した敵が、舞香に迫る。
 舞香は仕込み竹箒で応戦する。
「男なんて……最低っ!」
 舞香は身を逸らして男の一撃を避けた後、刃で男の腹を斬り裂いた。
「あ……っ」
 反対側から放たれた弾丸により、舞香は肩に傷を負う。
 敵は神狼により、足を射抜かれて倒れる。舞香は駆けつけはしない。自分の役目は優子と仲間を身を盾にしてでも護ることだから。
「舞香も無茶をするなッ。負傷した者は一旦退け!」
 声上げながら、優子は剣を振り翳し敵と斬り結んでゆく。
「掠り傷です!」
 舞香は怯むことなく、優子の背を守り続ける。
「やれやれ……ッ」
 白百合団のイルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)は半ば呆れ顔ながらも、応戦する。
 もう少し密やかな手段をとって欲しかったと思いはしても、その意気は評価していた。
「即席部隊だからな、やむを得ぬか」
 カルスノウトを、優子を狙う敵に振り下ろす。
 防戦に徹したいところだったが、近距離武器を携え積極的に突入を行なう者の人数が少なすぎる。優子の周りばかり固めているだけでは、突入班の役目を果たす事はできない。
 また、魔法による援護がないことも、かなり厳しい。
「考えが甘いのは百も承知だが――やらねばな!」
 イルマは繰り出される剣をカルスノウトで弾き、瞬時に攻撃に転じ敵を斬り倒す。
「あとは任せて!」
 後方に立つミルディアが子守唄で、負傷した敵を眠らせていく。
「ちょっと大人しくしててよね。後でいっぱい喋ってもらうけどっ」
 ミルディアが紐を取り出す。
「2階からの狙撃の危険性があります。外へ連れて行きましょう」
「うん」
 ミルディアは真奈と共に、眠らせた敵を塀の外へと引きずり出し、眠らせた敵の両手両足を縛っていく。
「本当、不用意ですわね」
 白百合団のステラ・宗像(すてら・むなかた)は、ホーリーメイスを振るう。
「決して、突出などをせぬように」
 敵に一撃を加えて直ぐ、ステラは後方に飛び、優子の傍らで立ち塞がる。
「すまない」
 優子が割れている窓に、更に剣を叩き込む。
「破片が飛び散りますわよ、防御を!」
 声をかけた後、ステラも思い切りホーリーメイスを振り、窓ガラスを破壊する。
 大きな入り口を作り上げ、白百合団の乙女達は一斉に部屋へと侵入を果たす。
「……っ」
 ヴェロニカは銃弾から味方を守りながら、ランスを繰り出し接近する敵の足を貫いていく。
 今回は皆、敵を殺すつもりはなかった。だが、手加減している余裕もなかった。
 家具の後から狙っている敵の元に飛び込んで、弾丸を身に受けながらランスで突く。
「ヴェロニカ交代だ」
「はい」
 優子の指示に従い、ヴェロニカは一旦下がりステラとイルマが前へ出る。
「素敵ですわよ」
 ミルディアと共に部屋に飛び込んだ真奈がヒールでヴェロニカを癒す。
「ありがとうございます」
 礼を言いながら、次の敵に向かいヴェロニカはランスを繰り出した。
「少し、眠ってて下さい」
 怯んだ敵剣士に、ステラがホーリーメイスを打ち下ろし、殴り倒す。
「綾ちゃん、迎えに来たよ! でもまだ危ないから隠れててね!」
 ミルディアは声を上げて、前衛の後で防衛に当たる。
 外から回り込み、銃を向けた男の元に、素早く真奈が跳んだ。
「戦いはあまり好きではないのですが……襲ってくるのでしたら仕方ないですよね?」
 振り上げたホーリーメイスを男に叩き付ける。よろめきながらしぶとく銃を撃つ男に続け様にメイスを叩き付け、最後は腹に強烈な一撃を打ち込み、吹っ飛ばした。
 ミルディアの子守唄の必要もなく、男は白目をむいて失神した。
「真奈大丈夫!? ……寧ろ、敵さん大丈夫ってカンジだけど」
 言いながらミルディアが近付き、ヒールで真奈の傷を癒す。
「二人とも、物陰へお隠れ下さい」
 鎧を纏ったヴェロニカが真奈とミルディアの前に立ち、物陰へと誘う。
 廊下へと続く2箇所のドアに同時に弾丸が打ち込まれ、部屋の中に飛び込んでくる。
 バタンとドアが開いた先から、銃を携えた男女が部屋へと突入する――。