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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第3回/全3回)

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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第3回/全3回)

リアクション

「謎はすべて解けた!」
 ダンスが行なわれている中、壁際のソファーに腰掛け、ドリンクを飲みながらブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)はにやりと微笑んだ。
「舞士は嘆きのファビオの子孫で王国復興を目指しており、ラズィーヤの大切な物とは物質ではなくて、彼女の人としての自由。正当な王家の継承者であるラズィーヤを擁立して王国復興の旗頭に据える。その場合、ラズィーヤの個人としての自由はなくなる。加えて王国復興の為には人材も必要。予告状を出して、騎士と同じ二つ名を冠した物を回収して回ることで、自分の存在と秘した目的を聡明な者たちに伝え、ラズィーヤの元に私のような才色兼備の人材を集めて王国復活の狼煙をあげる。なんて萌えるシチュエーション!」
「そ、そうだったのですね」
 隣に座っていた橘 舞(たちばな・まい)は、目を見開いて立ち上がった。
「彼はこのパーティーに来ていますのよね!?」
 舞は周囲を見回しながら、真剣な表情で中央へと歩いていく。
「あ、5000年経ってるから似てるわけないとか、そんな現実無視よ無視。今回はこれでいこう〜。頑張って、まーい♪」
 ブリジットはソファーに座ったまま、舞を暖かく見守る。

 舞は、身長の高い男性の顔を覗きこんで回った。
 仮装をしているために、素顔も体格も全く解らない人が多くて、ダンスや食事をしている人にぶつかってしまったり。
 謝りながら、足早に歩き回って、探し回る――。
「危ないよ。もう子供じゃないんだから、落ち着かないとね」
 突然、ぐいっと手を引かれ舞は驚いて相手の顔を見上げた。
 黒い髪の男性だった。ハロウィン用の蝙蝠の羽のようなアイマスクをつけている。
 服装は普通の正装。派手ではない、けれど。
 金髪ではないけれど。
 光の翼を広げてはいないけれど。
 それが彼であると、舞には感じられた。
 ただ髪の毛を染めているだけで、服装を変えて、アイマスクをしているだけの姿。
 近くで見たことがある人物が良く見れば、分かってしまう程度の変装でしかない。
「一曲踊ろうか」
 ワルツが始まった。
 引っ張られて、無意識に曲に合わせて踊りながら、舞は彼から目を逸らさずに、言葉を発する。
「あなたは、ラズィーヤさんをシャンバラ王国復興の旗頭にしようとしているのではないですか? 自分の存在と目的を伝えるために、わざわざ予告状に、ラズィーヤさんのご先祖を警護した騎士の皆さんの二つ名を入れた。違いますか?」
 口元に笑みを浮かべているだけで、その青年は何も答えなかった。
「見当違いかもしれませんが、ただ、これだけは言えます。あなたが誰で何をしようとしているにしても、人から大切な物を奪ったり誰かに何かを強要するような行為は間違っています。目的が正当であれば、その過程も正当化されるというのは詭弁です。お願いですから、こんなことはもうやめて下さい。話し合えば皆で幸せになれる道はちゃんとあるはずです」
「もう、やらないよ」
 彼の言葉に、舞は驚きの目を見せる。
「謝ったら、許してくれるかい? 最初に会った時、そう言ってたよね、キミ」
 くすりと笑う彼に、舞は軽く眉を寄せながらも、頷いた。
「ちゃんと全てを話してくれれば、そして盗んだ物を全部返して謝っていただければ、私なら許します。皆にも許してもらえるかもしれません」
「……でも違う。女王は俺達にとって絶対的な存在。ラズィーヤ・ヴァイシャリーを旗頭にするつもりはない」
 繋いでいた手を離して、青年は舞の髪に触れて舞の目を見た。その瞳が切なげで、本当に許しを請われているようで、舞は不思議な気持ちで彼を眺める。
「続きは私に聞かせてくれるか」
 青年の腕を、強く掴む者がいた。――アルフレートだ。
「盗んだものに、価値はなさそうだった。記された情報が目的だったのか? 仲間に関わるものか? あなたと契約した者に関わることか? 過去、6人の騎士に何があったかわからない。だが、今この時、新たな悲劇を招こうとしているのならばそれは許さん」
 強い力で腕を握り締め、鋭い目でアルフレートは青年を睨みつける。
「悲劇、か……」
 一瞬、自嘲的な笑みを浮かべ、その笑みを青年は甘い笑みへと変えていく。
「今日は贈り物を持って来たんだ。招いてもらった御礼にね」
 捕まれた腕を引いて、青年はソファーの方に向かい、置いてあった大きな袋を掴んだ。
「キミの好きにして構わない」
「……!?」
「それはわたくしへの贈り物ではなくて?」
 振り向いたその先に、会場で一番目立つ豪華な衣装を纏ったラズィーヤ・ヴァイシャリーの姿があった。
 その側には古の5人の騎士の姿も。
「お帰りなさいませ。随分長くお出かけでしたのね。女王の騎士。そしてヴァイシャリー家の騎士、ファビオ」
 ラズィーヤがおもむろに伸ばした手に、青年――嘆きのファビオは手を重ねた。
 5人の騎士とアルフレートに囲まれながら、ラズィーヤとファビオが最後のスローワルツを踊り始める。