波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

のぞき部あついぶー!

リアクション公開中!

のぞき部あついぶー!
のぞき部あついぶー! のぞき部あついぶー!

リアクション


第3章 ギルティー


 野添貴神社の境内では、屋台を組んだり獅子舞が隅で練習していたり、参拝客を迎えるための準備が進められている。
 パンダ隊はそこに集まっていた。メンバーは以下の通りだ。

白波理沙
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)
菅野 葉月(すがの・はづき)
チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)
ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)
ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)
隊長の応援団、リュース・ティアーレ

「凄い存在感じゃ……」
 パンダ隊の撮影を担当している忍は、ファインダー越しに感じていた。
 人数は少ないが、のぞき部対策のエキスパートが揃っているため、無駄にあつい烏合の衆よりも頼りがいがあるかもしれない。何より、この魂サーモメーターは正直で、既に振り切っていたのだ。
 そこに、副隊長の広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)は遅れてやってきた。
「あわわわー! もうみんな集まってますねっ。ごめんですーっ! でも、神主さんから許可を得たですよーっ」
 と言いながら転びそうになっている。
「ファイ~っ! 落ち着いてっ」
 パートナーのウィノナが冷静に支えていた。
 なんとも心もとない様子を見て、身長120センチの忍はすぐに気がついた。
「存在感が大きいと感じたのは……わしの背が低いからじゃったな」
 ファイリアが神主から得た許可とは、本殿裏のテントの隣にもう1つテントを建てることだった。
 狙いはこうだ。
 本殿の裏にはバイトの巫女さんが着替えたり休憩したりするためのテントがあるが、のぞき部がそこを狙ってくるのは明白だ。そこで、ファイリアは偽のテントをすぐ隣にもうひとつ建て、そちらにのぞき部員をおびき寄せて一網打尽にしつつ、かつ「本テント」にいる巫女さんを守るという計画だ。
「ファイちゃん、手伝うよ。テントを建てに行こう!」
「うん。がんばろうですー!」
 そして裏にまわったパンダ隊は、口をポカーン。
 ――本テントの隣には、既に偽テントが建っていたのだ。
「ファイちゃん。どういうこと……?」
「神主さんが気を利かせてくれたのかな……」
「まあ、わけなんてなんでもいいか。ラッキーだね!」
 ありがたく使わせてもらうこととして、偽テントの中に入っていった。
 しかし、偽テントを建てたのは神主ではなかった。森の中で、のぞき部のナンパバカ鈴木 周(すずき・しゅう)が息も荒く座り込んでいた。
「ハアハア。……やったぜ。誰にも見つからずに、テントを建てたぜ。……ハアハア。穴もあけてあるから、あとは偽テントに巫女さんをたっぷり入れて、うまくのぞくだけだな……! ちょっと休むとするか」
 バタンと仰向けになった。
 が、すぐにまた跳ね起きて、ケータイをいじる。
「やべえ! さっき壮太に電話したとき、テントに遊びにこいって言っちまったぜ。堂々とテントに入ったら、あいつ女子に何言われっか……」
 しかし、周が電話をかけたのは壮太ではなかった。
「もしもし! クライス? ……ああ。……オーケー……偽テントは無事完了したぜ! ……ああ、そうだな。少し休ませてもらうぜ……おう、また後でな!」
 周は今から始まる「戦い」のために、テント作りで疲弊した体に休息を与えようと横になった。
「壮太……は、めんどくせえ。もういいか。百合女がどうとかくだらねえ自慢話してやがったからいけねえんだよな。だいたい俺よりほんのちょっとだけモテるからって調子に乗りやがってよ……けっ」
 ぐーぐーぐー。眠ってしまった。
 パンダ隊は、既にあつい部と連絡を取っていて、のぞき部の行動を把握していた。
 菅野葉月がケータイを切り、みんなに報告する。
「のぞき部が、先程蒼空学園の部室を出たそうです。のぞき部が来るまで、偽テントは使わないで各自見回りしたり罠を張ったりしませんか」
 理沙が頷いて檄を飛ばす。
「そうだね。あつい部も協力してくれるみたいだけど……パンダ隊の力を見せてやろうよ!」
 こうして、パンダ隊のみんなはいったんテントを後にした。
 本テントには、バイトの巫女さんが何人か集まっていた。
 シャンバラ教導団の道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は、まだ巫女の装束を着ないでバイト仲間にお茶を淹れていた。ここにはテーブルと椅子が数脚あり、お茶や珈琲、お菓子などが揃っていた。テントの両端には棚があって、そこに着替えが置けるようになっている。棚の上には、巫女の装束が用意されていた。
「ありがとう。いただきます」
 玲からお茶をもらったのは、東條 かがみ(とうじょう・かがみ)双葉 京子(ふたば・きょうこ)だ。
 お菓子を並べながら、玲が尋ねた。
「東條かがみは元々巫女さんだと聞いたけど、本当なのですかな」
「まあ一応。修行中ですけどね」
「なるほど修行中でしたか。普段はお母様にでも付いているのですな」
「うーん。師匠はおばあさまなんだ。才能はあるって言われてるんだけど、なかなかねえー」
 言いづらそうなので、京子が口を挟む。
「かがみさんがやんちゃだから、お祖母様は心配してるみたい」
「へへっ。でもここで巫女の私がバイトで巫女さんやることはちゃんと断ってきたんですけどね」
「よく許しが出たよね」
「まあねえー」
 玲は2人の会話を聞いて、なるほどと頷いていた。
「巫女さんにも色々あるんですな。あっ、どうぞどうぞ」
 後から入ってきた神代 明日香(かみしろ・あすか)神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)に椅子を勧めて、お茶を淹れる。
「お二人は本職の巫女さん……ではないですよね」
「はいぃ。違いますぅ」
 明日香はメイド服に赤い大きなリボンをしていて、一見して巫女らしさはない。
「でも、巫女の装束はきちんと着られるんですよぉ」
 玲は感心して、お茶を淹れながら前から気になっていた質問をする。
「では、巫女の装束では下着をつけないと聞きますけど、あれは本当ですかな」
「それは間違いですぅ。裾除けという昔の下着をつけるものですよぉ」
 それを聞いて、慌てて夕菜が口を挟んだ。
「あれって、防寒着かと思ってましたわ」
「うふふ。みなさん、いろんな勘違いをするんですねぇ」
 下着をつけると聞いてホッとした玲だったが、次の瞬間、首を傾げた。
「おや? そのポスター、おかしいですな」
 テントの横幕に、佐倉 留美(さくら・るみ)が大きなポスターを貼っていた。
 ――「野添貴神社における巫女装束の正しい着付け方」と書いてあり、「ひとつ、下着は一切着用してはいけない」とあった。
 留美は、ポスターを貼りながら振り向いた。
「神主さんに貼ってくるように言われたのですから、おかしくはありませんわ」
「神社によって風習が違うということでしょう」
 のぞき部が出没するなんてことは知りもしないので、かがみがあっさりと下着なし装束を認めてしまった。
「本職さんが言うなら、そうなのだろうな」
「うーん……」
 明日香はおかしいなーと思いながらも、認めることにした。やはり、のぞき部のことを知らないので、大して問題視しなかったのだ。
 こうして、以後はこのポスターに従うのが慣例となっていった。
 留美は話がまとまったのを見て、ルンルンでテントを出て行った。
「甘酒持ってきますねー!」
 ルンルンなのは、作戦がうまくいったからだ。可愛い女の子が大好物の留美は、偽のポスターをわざわざ用意してきたのだった。そして、甘酒には御神酒をたっぷり混ぜるつもりだ……。
 かがみは、京子が慣れない巫女装束を着るのを手伝った。
 のぞき部のことを知らない彼女たちは、手伝いやすいこともあって、広い中央付近で堂々と着替えていた。
「ほらほら。京子さん、襦袢の合わせ方がおかしいですわよ。胸のあたりは……こうして……」
「ふえ……あ……あんっ!」
「あら。何か触れました? しょうがないですわ。女同士なんですし、恥ずかしがらないでくださいね」
「う……うん……」
「ズレてしまいましたね。もう一度、一からきちんと着てみましょうね。ほら手を広げて……」
 そのとき、テントの外から1人の少女が顔をのぞかせた。
「ええーっ。わたし、恥ずかしいよおっ」
 ヴィオレッテ・クァドラム(う゛ぃおれって・くぁどらむ)だ。パートナーのラーフィン・エリッド(らーふぃん・えりっど)が背中を押しながら励ましている。
「ほらヴィオ。そんなこと言ってないで。みんなやさしいから。ボクがいなくても大丈夫っ!」
「でもお……」
 ヴィオは背中を押されても、まだもじもじしている。
 それを見た玲は、サッとヴィオの手を掴んだ。
「遠慮してないで、入ってくればいいですよ。本職さんもいますから、なんでも教えてくれますよ。ほらっ」
 その手をグイッと引っ張った。
 と、そのとき、背中を押していたラーフィンも一緒に入ってしまった。
「ふぇ……ふえええ~!!!!!」
 京子は慌てて胸を隠した。
「うわわわわ。ボ、ボク……す、すみませーん!」
 ラーフィンはバタバタと出て行った。
 夕菜はちょうどスカートを脱いだところで、真っ赤な毛糸のパンツが丸見えだった。
 のぞかれたショックで固まって、目には涙をためていた。声に出さず、しずかに泣いていた。
「あらあら。困りましたね~」
 テントの奥にいた明日香はいつもの調子でのんびり呟いて、一転、凄まじいスピードでラーフィンを追いかけた。
 が、慣れないことをするものではない。
 どっかあんっ。
 動揺してアタフタしている京子に激突した。
「あらら~……」
「ふ、ふえ~」
 京子はぶっ倒れて、気がついた。
「そうだ。そうなんだ。これが噂に聞くのぞき部ってことなんだ……!」
「京子さん、落ち着いて」
 かがみが震える京子の肩を抱きしめるが、京子はのぞかれたショックを押えることができなかった。
 すごい勢いで、パートナーの真にメールを打っていた。
「ふええ。真くーん……」
 ラーフィンが慌ててテントを出て行くのを、あつい部兼美少女戦士部のヴァルキュリア・サクラこと、飛鳥桜は見逃さなかった。
 隠れていた庭園からゆらりと姿を現し、ラーフィンの行方を追う。
 が、その姿を見てヴァルキュリア・サクラに宿るあつき正義の魂に早くも火がついた。
「むむむー! もう安心して逃げるのをやめるとは、なんて図太い奴!!!」
 ラーフィンはやましい気持ちがなかったので、最初から逃げるつもりはなかった。ただ、騒がれたからその場を離れたに過ぎない。
「ふう。あぶなかったあ。ボク、ほんとに何も見えなかったし、悪気がないのもわかってるはずだし……無罪だよね」
 しかし、ヴァルキリア・サクラにその声は聞こえていなかった。
「ファイファーするぞ、親分!!」
 と気合いを入れて振り向くと、ロランアルト・カリエドはのんびりトマトを囓っていた。親分はトマトが大好きなのだ。
「ん? トマト食うか?」
「ばかあっ! トマト食べてる場合じゃないよっ!!! ていうか、その真っ赤なカゴはなんだあ!!!」
「トマトやけど……カゴがちょっと小さかったな。なんぼか落としてもうたわ」
「うわあーっ! いきなり庭汚してるっ!」
 落としたトマトが砕け散って、真っ白な石橋が真っ赤に染まっていた。
「あとでちゃんと掃除すっから、堪忍したってな!」
 親分の空気の読めなさにがっくり肩を落としたヴァルキュリア・サクラだったが、なんとか正義の心で持ち直すと、再びラーフィンをさがした。
「あれ? のぞき部がいない! どうしよう! あーん。僕らのリーダー、アメリア・レーヴァンテイン(あめりあ・れーう゛ぁんていん)!」
「呼んだ?」
 隣には、いつの間にか美少女戦士部部長“紅炎のルビー”ことアメリア・レーヴァンテインが立っていた。
「リーダー!!!」
「ていうか、なにこのトマト? 落としすぎだよーっ!」
 アメリアは大笑いだ。
「そやねん。早よ掃除せな……」
 親分はが凹んでいた。
 静かに隣に立っていたアメリアのパートナークルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)は……苦笑していた。
「やれやれ……桜……上を……見てみろ……」
 彼の冷静で落ち着いた口調は、周囲の者をも落ち着かせた。
 ヴァルキュリア・サクラが落ち着いて見上げれば、テントのすぐ上を箒に乗って飛んでいる影があった。
 それに気がついたのか笑顔で上空から手を振っているのは、イルミンスールの五月葉 終夏(さつきば・おりが)だ。
「やー、諸君! 元気かーい!」
「あれは……のぞき部に違いないっ!!!」
 しかし、その時クルードはまた別の気配に気がついた。
「敵が……俺の罠に迫っている……。桜! ……上の奴はまかせた」
 そして、次の瞬間!
 クルードは、アメリアとともに姿を消した。
 ヴァルキュリア・サクラは、また慌て出した。
「僕もがんばらなきゃ。えっとえっと……あ! これでいいや!」
「それでいいんかい!」
 親分も思わずツッコミを入れるほど、正義のヒーローには似合わない武器を掴んでいた。
「くらえっ!! 熱爆裂のあっついあっついトマティーナ攻撃!!!!!」
 トマトを思いっ切り、投げた。
 ぴゅーーーーー。
「おわわ。なんてことするのかね。まったく」
 終夏はなんとかかわしたが、トマティーナは箒にあたって、
 ひゅーーーーー。
 ビチャッ!
 熱爆裂のトマティーナは、テントから出てきた東條かがみの頭に爆裂した!
 巫女装束に着替えたかがみは、さすがは本職なだけあってその辺のバイトとは存在感が違う。
「さっきから神聖な神社で何を騒いでるの?」
 頭からトマティーナをかぶったまま、ゆっくりとヴァルキュリア・サクラに近づいていく。
「ご、ごめんね。でも、ぼ、僕は……騒いでるんじゃない! あつく燃えてるんだっ! のぞき部を倒すためにっ!!! 悪いけど、ファイファー!!!」
 また上空の終夏に向かってトマティーナを投げつけようとしている。
 正義とは恐ろしいものだ。人は自分が正義だと信じているとき、そのためなら多少の犠牲もやむを得ないと考えてしまう。しかし、これはただの傲慢であり、粛正されてしかるべきであった。
「お静かに願います……よっ!!!」
 かがみは、上を見て隙だらけのヴァルキュリア・サクラに火術をぶちかました。
 ボッフォオオオオ!!!
「あっつーーーーいっ!」
 ヴァルキュリア・サクラはぶっとんで……ばっちゃーん!
 池に落ちた。
 かがみは石橋の上で待ち構えると、冷たい水に震えるヴァルキュリア・サクラに再び火術をぶちかましてやる。
 そして、かがみが思わずポロリとこぼした本音を、親分は聞き逃さなかった。
「……楽しくなってきた」
 親分は、トマトのカゴを抱きかかえて、スタコラ逃げていった。
「えっと、トマトの神様は、こっちかな~」
 一方、クルードは別の敵を捉えていた。
 それはストーブを持ってテントの周りをうろうろしている神野 永太(じんの・えいた)だ。隣には機晶姫の燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)もいる。
「そこまでよ!」
 アメリアが立ち塞がった。
「この世に悪がいる限り、正義の心が煌き燃える! 陽光の輝き、紅炎のルビー!!!」
「え? えええ? なんのことですか?」
「女の敵は、悪よ!」
 アメリアは爆炎波をぶちこみ、敵を罠に追い込んだ。
 そこで、クルードが遠当てで張っていたロープを切ると網が……
 バッシャー!
「え? なにこれー? 永太はのぞき部じゃないですよー! ザイン! どうしますか?」
 隣のザイエンデも一緒に罠にはまっていた。
「わたくしにはどうにも……このお二人には敵いませんから」
「ザイーン! あきらめるの早いですよ!」
 顔を上げると、既にクルードが目の前に立っている。
「……夜空に煌く銀月の如く……月光がこの地に光臨する……銀月の輝き……月光のムーンライト……」
 名乗るのを躊躇っていると、アメリアに目で早く言えと催促され、仕方なく……
「ん。おっほん。……クルー」
「待って下さいー! のぞき部じゃないんですー。冤罪です。冤罪なんですー!」
 永太が食い気味に訴え、クルードは名乗らずに済んだ。が、それはそれでつまらぬものだった。
「許せん……!」
 永太とザインは、木刀で殴られた。
「わあ。もうやめてえー。だいたい月光のムーンライトってなんだよう……。こっちは頭が頭痛で痛いよおおおおお……」
 永太とザインは本当にのぞき部ではなく、ストーブをテントに運んであげてる善意の人たちだったが、残念、ボッコボコにされてしまった……。
 騒動の発端となったラーフィンは、境内で神主と雑談していた。
「神主さん。参拝客が増えてきて賑やかでいいですね」
「いい天気だし、かわいい巫女さんもいっぱい雇ったし、愉快愉快。はっはっは」
 2人とも、テント周辺での騒ぎには気づいてなかった。
 屋台も営業をはじめて、リュースは既に14杯目の焼きそばを食べていた。まだのぞき部が来ないと知って、油断していた。
 しかし、理沙は違った。鋭い眼差しで境内を監視していた。
 ラーフィンのすぐ後ろでは、京子のパートナー椎名 真(しいな・まこと)がメールを読んでいた。
「京子ちゃんをのぞこうなんて不届き者は、俺が許さない。緑色の髪の毛で、一本三つ編みの色白野郎だな。必ず見つけ出してやる!」
 京子は、真にラーフィンの特徴をメールしていたのだった。
 と、犬仲間の獣人ヨーゼフ・八七(よーぜふ・やしち)が真の腰に頭をぐりぐり押しつけている。
「ヨーゼフさん。どうした?」
 ヨーゼフは一点を見つめて、頭をぐりぐりするだけだ。
「腹でも減ったのか?」
 ぐりぐりぐり。
「しゃ、しゃべってくれ……」
 ぐりぐりぐり。
 真は困り果てて後ろ頭をポリポリ。
 と、そのとき、ようやくヨーゼフのメッセージを理解した。彼の視線の先には……ラーフィンが立っていたのだ。
「なるほど……わんこ、みな兄弟。よく教えてくれた」
 真はヨーゼフの頭を撫で撫ですると、ラーフィンの前に立って、これ以上ないという笑顔を作った。
 何も知らないラーフィンは、にっこり笑顔で挨拶した。
「こんにちは。いい天気だね」
「緑色の髪の毛……一本三つ編み……色白……」
「え? なに?」
「ユー! ギルティー!!!」
 と、いきなりの蹴り!
 ガッボーーーッ!
「うげええっ!」
 さらにラーフィンの顎を蹴り上げ、宙に浮いたところを立て続けに下から突き上げるようなアッパーの連打。
「ギルティー! ギルティー! ギルティーーーーッ!!!」
「そ、そんなーーーっ!」
 ひゅーーーーーっ。ズポッ。
 ラーフィンは参道の入口付近まで飛ばされ、ゴミ箱に尻が埋まって出られなくなり……脳みそがトコロテンになってしまった。
「んぱーんぱー」
 そして真は、再び京子のために警備に戻った。
「京子ちゃん……必ず守るからね!」
 ただ、京子はとっくに着替え終わってフツウに働いていた。
 その頃、参道をあつい部ではないが、ある意味凄くあつい男が歩いていた。
 風邪で熱が出ているエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)だ。
「ああ、なんか頭がくらくらするぜい。しかし、この神社は巫女さんが無駄にたくさんいるという噂。無理して来ちゃったぜー」
 隣には、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が心配そうについている。
「エース。ほんとに大丈夫?」
「たったの39度8分じゃねえか、大したことねえよ……」
 さっきから、参道をふらふらふらふら。まっすぐ歩けていない。
「そこに屋台があるよ。おしるこ屋さんで休ませてもらおうよ?」
 おしるこ屋のおばさんは、ゴミ箱のラーフィンを必死に引っ張っていた。あと少しで出られそうだ……!
 エースはふらふらとおばさんに近寄って、話しかけた。
「これはこれは。素敵なお嬢さん……お花をどうぞ」
 大したナンパ根性だが、熱のせいでいろいろとグダグダだ。
 おばさんはお嬢さんではないし、花は風邪がうつったのか、すっかり枯れていた。
「あんたも手伝ってよ、これ引っ張るの」
「オーケー。お嬢さん、任せといて」
 しかし、エースはふらついて転び……ラーフィンの腹に手をついた。
 ずずずーーーっ。
 抜けそうだった尻はますます埋もれてしまった。
「んぱーんぱー」
 エースはおばさんに蹴飛ばされて、参道にごろんとのびた。
 クマラが駆け寄って額に手をあてると、ますますあつい。
「もう帰ろうよー」
「おい……おしるこ屋の看板娘と巫女さん……どっちが大切なんだよ……?」
「風邪を治すことだよっ!」
「うるせーっ! 俺は……俺は……絶対、巫女さんに……」
「巫女さんに?」
「……なるっ!」
 エースは立ち上がると、巫女さんバイトをやるためにふらふらと歩き出した。時速25メートルくらいのスピードで。
「巫女さんに……なる?」