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リアクション
「よーし、がんばって、チョコを作るぞ!」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は学校から帰宅後、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に教えてもらい、チョコ作りを始めた。
「ん〜、割と難しいよぉ」
チョコのテンパリングに手こずる美羽を、ベアトリーチェは応援する。
「がんばってください。製菓用に使うクーベルチュールチョコレートは上手にやらないと表面にブルームという斑点が出てしまいますから。綺麗なハート型にするならば、上手なテンパリングは欠かせないんですのよー」
「うん……がんばる!」
大好きなコハクのため、美羽は気合を入れてがんばった。
がんばりにがんばった美羽は、結局、徹夜でチョコを作り続けた。
「大丈夫ですか?」
「うん、行って来るー」
そのまま日中に寝ることはせずに美羽はがんばり続け、やっと放課後になった。
放課後。美羽はパートナーとなったコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の部屋に行った。
「どうしたの、フラフラしてるよ?」
心配そうなコハクに、美羽は無理に笑顔を見せ、綺麗にラッピングした箱を差し出した。
「これは?」
「チョコレートだよ。今日はバレンタインだから!」
「バレンタイン?」
ああ、やっぱり知らなかったなと思いつつ、美羽はコハクにバレンタインのことを教えてあげた。
「バレンタインは女の子が好きな男の子にチョコをあげる日なんだよ」
「好きな……男の子に?」
美羽の言葉を聞き、コハクが頬を染める。
言った美羽自身も、こんなことを言うのは恥ずかしかったので、コハクに照られられて、一緒に照れてしまった。
「え、ええと……」
頬を赤くしながら、美羽はぐっとコハクにハート型の特大チョコの入った箱を押した。
「だから、このチョコはそういう意味なの。良かったら、受け取って」
「う、うん。もちろん」
照れながら、コハクが大事そうに受け取る。
だが、チョコを渡した途端、美羽の体がぐらっとした。
「えっ!?」
倒れかけた美羽の体を、コハクが慌てて受け止める。
ぎゅっと抱き形になってしまい、コハクは照れていた顔をさらに赤くしたが、美羽は身動きしない。
「大丈夫?」
コハクが心配して顔を覗くと……美羽は寝ていた。
「……どうしよう」
迷いながら、コハクは美羽を自分のベッドに寝させてあげた。
すーすーと寝息を立てて、美羽が寝ている。
コハクはジッと美羽を見つめ、お礼を言った。
「ありがとう、こんなにがんばってくれて……」
美羽の寝顔を、じっとコハクは見つめる。
これまでだって何度だって見てきた美羽の顔。
白く柔らかそうな頬と、長い睫。
転がった足はミニスカートからいつもよりさらに露になっていて、コハクは慌ててそれに布団をかけた。
「……ね、連絡とかしておく?」
ちょっと体をコハクが声をかけるが、美羽の反応はない。
起きるまでそばにいようと思い、コハクは椅子を持ってきてそのそばに座った。
でも、こうやってじっと美羽を見ていると、不思議な気持ちになった。
なんだか触れたい気持ちになって、コハクは美羽の頬を撫でた。
自分の気持ちが何だか分からなかったけれど、コハクはその美羽の頬から手を離し、眠った美羽の頬にそっとキスをした。
「んん……」
美羽が動いて、コハクはドキッとする。
でも、それは寝言で、美羽はまたスースーと寝始めた。
コハクはキスした自分の行動と、胸の高鳴りに戸惑いつつ、恥ずかしそうに美羽の寝顔を見つめたのだった。
次の日。
怖い顔をしたベアトリーチェが美羽を迎えた。
「……こそこそ自分のベッドに戻っておけばばれないとかそんなことを思って帰ってきてはいないですよね?」
そこからはお説教の開始だ。
『夜なかに電話をかけても通じなかったこと』と『朝帰りしたこと』をきつく叱り、その後、ベアトリーチェは尋ねた。
「コハクは喜んでくれましたか?」
「うん!」
美羽はうれしそうにうなずいた。
それからちょっと不思議そうに首を傾げる。
「なんだかとってもいいことがあった気がしたんだけど……夢かなぁ」
美羽が真相を知るのは、この日の午後にコハクに会い、コハクが照れて慌ててそれを追求して……になるが、それはまたちょっと後のお話。