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リアクション
今日は教導団の制服を脱ぎ、Yシャツにベストなちょっと執事風の姿で、サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)は金 鋭峰(じん・るいふぉん)に付き添った。
「なにやら実習施設に呼び出された。行くぞ」
団長の言葉にサミュは従った。
団長を呼び出したのは土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)だった。
「勝負して頂きたいであります、団長!」
勝負と聞き、サミュエルは一瞬ピクッとした。
しかし、団長は気にせずに進み出た。
「なるほど、君は秘術科だったな。では、勝負は魔法か? 私は魔法の心得はないが……」
「あ、いえ、自分はソルジャーですので……」
「ほう、まぁ良い。来るがいい」
雲雀はアサルトカービンを構えた。
近接戦闘向きの突撃銃だが、雲雀が引き金を引く前に、団長の轟雷閃が入った。
「はうっ!」
雲雀は弾き飛ばされ、転げる。
「まだまだー!」
さらに金団長に向かおうとした雲雀だったが、その攻撃を、サミュエルが紋章の盾で防いだ。
「団長はまだ本調子じゃないかもダカラ、ここまでダヨ」
金団長のパートナーである関羽は、先にドージェとの戦いで倒れている。
ミツエの元に行けるくらいの元気はあるらしい団長だが、まだ戦いに向く状態かは分からないので、サミュエルが止めに入ったのだ。
サミュエルに止められ、団長の体の調子を聞き、雲雀は膝をついた。
「ごめん、団長の体調とか、考えなくて。でも、こうでもしねーとあたしは団長に近付けねえんだよ」
雲雀はアサルトカービンから手を離し、盾を手にしたまま警戒を続けるサミュエルにだけ聞こえるくらいの大きさの声で呟いた。
「あたしよりずっと強くて、賢くて、美人で、器用で……そんな先輩たくさんいる。あたしよりずっと前から、団長を好きな人だっている。それに比べたらあたしはまだまだ新入りで、何にもできなくって……名前だってもう忘れられてるかもしれねえ。団長の眼中になんて無いかもしれねー、けど」
普段の軍人口調を完全に捨て、雲雀はコントロールできない感情をそのまま叩きつけるように言った。
「理屈じゃねーんだよ。好きなんだから、しかたねーだろ! 先輩だからとか、そんなんで負けたくねー…っ」
あまりに不器用で、想いだけが先行して、上手に相手を大事にする行動が出来なくて、自分の気持ちばかりが優先されているかのように見える雲雀の行動。
でも、サミュエルはそんな雲雀を責めようとは思わなかった。
一途で強い思い。
相手を見て考えるということが出来ない余裕のなさ。
近づくことが出来ない焦り。
自分でもどうしていいか分からないくらいの相手への想い。
それに心が乱される気持ちを、サミュエルも分かったから。
「徹夜でチョコ作ったけど全部失敗しちゃうし……付き合ってくださいとかそんな大それたことは言わないから、認めて欲しい……
秘術科に土御門雲雀って馬鹿がいるってそれだけでもいいから、団長の頭の本当に隅っこでいいから、あたしの場所が欲しいの」
いつの間にか涙があふれてきて、止められなくなった。
サミュエルはそんな雲雀の肩をポンと叩いた。
「アノネ、団長がさっき言ってたの聞いたカナ?」
「え?」
「さっき団長『君は秘術科だったな』って言ってタヨ」
金団長はクリスマスに雲雀に挑まれたときに彼女が名乗ったのを覚えていたのだ。
「あ……」
また、雲雀の目から涙がこぼれてきた。
今度はうれしくて。
雲雀の軽くなったのに気づき、サミュエルはホッとしてもう一つ、雲雀に囁いた。
「チョコは失敗して良かったカモヨ。団長、甘いもの苦手ダカラ」
「え、そ、そうなの?」
それを聞き、雲雀は慌てた。
手ぶらよりマシかと思って失敗の中でもマシなチョコを持ってきてしまったからだ。
タイミングが悪いことに慌てたときに、雲雀のポケットからそのチョコが落ちた。
「コレ……」
サミュエルが拾うと、雲雀はそれをサミュエルの方に押した。
「失敗したので申し訳ないでありますが……よろしければもらってくださいであります」
「俺に?」
「はい。先輩だからとかそんなので負けたくないと言ったでありますが……サミュエル殿の方がずっと団長を見ていて、団長のためを考えていたのが良くわかったであります。見た目は失敗しているでありますが、味は失敗していないので……敬意を表したものだと思ってもらってくれたらうれしいであります」
雲雀は涙を拭き、立ち上がってきりっと敬礼をして、去っていった。
「お疲れ様デシタ。団長」
サミュエルは簡易椅子を用意して、団長に少し冷えた烏龍茶を差し出した。
自分で入れたものではなく、買っておいたものだ。
次に団長に会うのは皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)だった。
「本当に助かって良かったです。お怪我はありませんかぁ?」
伽羅の言葉に金団長は「うむ、大丈夫だ」と頷いた。
山葉の反乱により閉じ込められた団長を助けるべく、伽羅は奮闘?したのだ。
2人きりを伽羅が希望したので、サミュエルは少し離れたところにいる。
伽羅は中華風にラッピングを施した特大月餅を金団長に差し出した。
「あの……これ、春節の縁起物の月餅ですぅ。甘さを極力控えめにしてみましたので、よろしかったらお召し上がりくださぁい」
バレンタインだと……という伽羅の気遣いで春節にかこつけたものになったのだ。
「ありがとう」
金団長は素直に受け取った。
伽羅と金団長が別れ、団長にサミュエルが近づこうとしたとき、皇甫 嵩(こうほ・すう)が団長によって諫争を試みた。
「座興にしても過ぎまするし、喧噪逃れで騒動を起こされては部下はたまったものではありませぬ」
金団長を始め、校長たちが山葉に閉じ込められたと思った嵩はそう言ったのだが、その言葉を聞き、サミュエルは眉を跳ね上げた。
「恐れナガラ」
団長と嵩の間に入り、サミュエルは怒りを抑えるように、英霊の嵩に丁寧な口調を心がけて言った。
「状況判断っていうのちゃんと出来テル? 山葉が閉じこめたのは蒼学の占い娘の香鈴ダヨ」
それは山葉の援護に行った魔法少女エーコ・城定 英希(じょうじょう・えいき)や、伽羅の手助けをしようと山葉に立ち向かった水渡 雫(みなと・しずく)も良く分かっていた。
山葉が閉じ込めたのは香鈴であり、香鈴は各学校の校長や生徒達のあらゆる連絡先を知っていた。
だから、香鈴が閉じ込められてしまうとデートしたいと言う人が連絡が取るきっかけが無くなり困るのであって、別に校長達自身が捕まったわけではないのだ。
「団長を諌めるならば、ちゃんと状況って言うのを見たほうがイイヨ。団長が捕まったなんていう早とちりをするようじゃ……」
「サミュエル」
さらに何か言おうとしたサミュエルを団長が止める。
「……はい」
団長の制止をサミュエルは素直に聞き、一緒に戻っていった。