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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

 山葉たちが自棄チョコをする中、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)は戻ってきた永夜 雛菊(えいや・ひなぎく)にそっけなくチョコクッキーを渡した。
「いつもありがとう」
 受け取った雛菊はビックリする、
 もらえるとは思っていなかったからだ。
 折角のバレンタインなのに、こんな嫉妬段狩りなんて危ないことやめたいなあと思っていた雛菊は、それが終わり、翡翠からチョコクッキーをもらって、うれしくなった。
「私もチョコを用意していて……、あ、待って翡翠!」
 照れ隠しに歩き去ってしまった翡翠を、雛菊は慌てて追いかける。
 恋愛感情はないのだけど、やっぱりこういうことはこういうことでうれしい雛菊なのだった。


 一方、成敗された後、ハルトビート・ファーラミア(はるとびーと・ふぁーらみあ)に拾われたカーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)は愚痴っていた。
「ったく、無駄足だったぜ。何がバレンタインだ。あんなのただの製菓業界の戦略じゃねぇか」
「カ、カーシュ様……。あの、これを……」
 愚痴るカーシュの前にハルトビートがチョコを差し出した。
「お、お前もか!? 何考えてんだ! こ、こんなもん………」
 しばらく呆然とした後、顔を赤くしたカーシュが拒否しようとしたが、そんなカーシュをハルトビートはじっと見つめた。
 ハルトビートは徹夜でカーシュのためにチョコを作ったのだ。
 それが、カーシュが山葉と意気投合してしまったので、渡す機会を逸してしまった、
 今、渡さなければバレンタインが過ぎてしまうと、ハルトビートはがんばって差し出したのだ。
「くそっ。わーったよ! そんな顔すんな! 腹減ったし、もらっといてやる! ありがたく思え!」
「はい……!」
 頬を染めながらハルトビートは笑顔を見せる。
 チョコの表面には「I Love You」と書かれているのだが、照れたカーシュは箱も開けずにしまってしまったため、それは分からずじまいだった。


「………………」
 そんな様子を見て、自棄チョコをしていた山葉が黙り込んだ。
「どうした、山葉?」
「いや、いいんだ。やっぱり俺なんてひどいチョコの処分とか、みんなのラブラブのスパイスに利用されるとか、どうせそんな存在なのさ!」
 涙ながらに語る山葉の上にヒールの光が降り注ぐ。
「もう、眼鏡君、最近見掛けないと思ったら何やってるのよ……」
 ヒールをかけてくれたのは四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)だった。
「花音さん、結局、どっか行っちゃったし、もらなかったの。恐ろしく憐れね……。でも、眼鏡君は積極性に欠けるわよ。私の生まれた国じゃバレンタインは男の人が女の人に花を贈るって言うのに、恋人限定だけど。ま、とにかく受け身じゃダメよ、受け身じゃ」
 そう言うと唯乃は同じイルミンスールの五月葉 終夏(さつきば・おりが)の隣に座り、自棄チョコをする山葉を観察しつつ、慰めた。
「ええと、自棄チョコとして食べられると残念なのですが……」
 エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)はそう言いながら、山葉にチョコを差し出した。
 元気が出そうなモノが色々ブレンドされた手作りチョコだ。
 しかし、劇物・毒物チョコを食べさせられかけた山葉からすると、多少のものがブレンドされていてももう怖くない。
「ありがとう。それじゃこれは自棄じゃなくて、後でありがたく頂く」
「別に今日食べなくても大丈夫なのです。食べ過ぎると色々ヤバイので、注意なのですよ」
 受け取って頷き、山葉は溜息をついた。
 終夏は山葉のためにわざわざ眼鏡チョコを作ってきてくれたし、マティエとかも義理とはいえ作ってくれたし、からかうための行動にしても自分のために来てくれた人もたくさんいるし、エラノールはチョコ作ってきてくれたし、シータも肉を狩って来てくれたしだけど、でも……。
「普通のバレンタインは、俺には結局来なかったなあ……」
 山葉は大いに溜息をつくのだった。



 騒動が一段落した頃。
 迷いに迷って教室の前をうろうろとしていた磯村 ともみ(いそむら・ともみ)がやっと勇気を出し、教室に入った。
 夕日の差す教室には誰もおらず、ともみは安心して、『彼』の机を探した。
「うん、ここで間違いない」
 教卓にある席順表なども確認し、ともみはその机に寄った。
 引っ込み思案なともみが他校に侵入するのは、ものすごく勇気がいった。
 ともみは百合園女学院で、しかも、何かの事件などでも蒼空学園に来た事が無い。
 可愛らしいコートを着た、縦ロールの髪のともみは、彼女自身が思うよりも目立った。
 男性に視線を注がれて、男子生徒に慣れないともみは照れ、何度かやっぱりやめて帰ろうかと悩んだが……。
 なんとかここまで、教室まで辿り着いた。
 あと必要なのはほんの少しの勇気だ。

 ともみはその机に桃色のハート型の花びらが舞う便箋を添えて、チョコを忍ばせた。
「気づいてくれますように……」
 きゅっと指を組んで、ともみが祈る。
 本当は手紙に好きと書きたかった。
 でも、恥ずかしくて、名前さえ書けなかった。
 便箋にはただ一行。
『自分に正直な生き方をしているアナタのことを想っている女の子もいるんですよ』
 それだけを書いておいた。
「あたしの気持ちの一片でも気づいてもらいたいな」
 そう思いながら、ともみは教室を出た。
 名前すら書けなかったけど、でも、意気地の無い自分が、ほんの少しでも踏み出せた最初の一歩。
 蒼空学園の校門まで行き、校門を出る直前で、教室のある方角に振り向き、ともみは声に出ない言葉を口に中で呟いた。
「好き……」

 この磯村 ともみ(いそむら・ともみ)のチョコに{SNM9999001#山葉 涼司}が気づくのはバレンタインの次の日。

 「眼鏡が女の子からチョコをもらったぞー!」

 と、蒼空学園中で話題になり、名前が書いて無かったこともあって、ますます話題になった。
 
 それほどの話題なっていると、百合園にいるともみが知るのは、しばらく後の話。