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葦原の神子 第1回/全3回

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葦原の神子 第1回/全3回

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15・外敵

 葦原明倫館隠密科の生徒、秦野 菫(はだの・すみれ)はハンナ総奉行の密命を受け、陵山周辺を探索している。
「中東系の若者を探せとのことだが、拙者は鏖殺寺院が関わっているように思えてならないでござる。八鬼衆ももしや鏖殺寺院と関わりあるのではないか」
 付き添っていたシャンバラ人梅小路 仁美(うめこうじ・ひとみ)が即座に否定した。
「葦原藩に使えてきた家系ですので「八鬼衆」のことは伝え聞いていますが、鏖殺寺院との関係はないと思います。ただ」
「ただ、何じゃ?」
「ナカラ道人、総奉行様が復活を恐れているのも、鏖殺寺院と関係があるのやもしれません」
 二人は、前方に怪しげな男たち2名を発見する。
「近寄ってみるでござる」
 そっと背後に忍び寄る二人。
「(潮の香り)」
 仁美の唇を菫が読む。
「(海から来たのでござるな)」
 頷く。
 暗号をハイナ付きの隠密に贈る菫。暫くして返事が来た。
 菫は、クナイを手にすると、農民風に装いを替えている中東の男たちに近づく。
 それは一瞬で行なわれた。
 男らがバタバタ倒れてゆく。
「殺したのですか?」
「まさか、眠り薬でござるよ。あとはこいつらを縛り上げ、援軍を待つのみでござる」


 祠に向かうハイナ達は、陵山麓まで数里という場所で本陣を張っていた、法螺貝の音を聞いて一時兵を留め置いている。菫からの知らせはすぐさまハイナに届く。
「菫に援軍を」
 ハイナの元にローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)アーキス・ツヴァインゼファー(あーきす・つゔぁいんぜふぁー)が呼ばれた。
「Hi,nice too meet you.【STG(Shambala Training Group=シャンバラ教導団の英名)】のローザよ。今回は宜しく頼むわね」
 ローザマリアは、本陣到着前から陵山一帯を偵察して回り、中東系テロリスト集団の発見に全力を注いでいた。
「そちらは、中東系テロリスト集団の掃討に名乗りを上げたと聞いてありんすよ。力になってくんなまし。」
「もちろんよ、同じ南部出身なの。私はミシシッピ州のパスカグーラよ。尤も、私の家は市議会の議員選挙出馬が精々だったけどね」
「パスカグーラでありんすかぁ、懐かしい」
「アーキスだ、俺もテロリストだった、同郷の不始末は着けさせてもらおう」
「噂は聞いています。心強いでありんす」


 ローザマリアは、英霊シルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)と獣人グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)、精霊ネージュ・グラソン・クリスタリア(ねーじゅぐらそん・くりすたりあ)を連れている。
 アーキスと共に、切り立つ崖に身を隠し、暗礁に乗り上げた廃船を見ている。
 いつの間にか背後に隠密の菫が来ている。
「奴らはあの廃船に通信機器を持ち込み、陸の情報を集めているでござる。偵察によると、船には20名程度いるようでござる」
「やつらはいつ動くのかしら」
 狙撃銃にはサイレンサー代わりに銃身に底を刳り抜いたペットボトルを装着したローザマリアが、海岸線を眺めながら狙撃ポイントを探している。
「葦原明倫館と八鬼衆が戦いつかれ、数を減らしてからだろう。混乱に乗じて相打ちさせる作戦かもしれない」
 容姿・背格好全てが契約者のローザに瓜二つなイングランド女王エリザベス1世の英霊、シルヴィアは、マナーモード、バイブレーションオフにした携帯電話を準備していた。
「わらわたち4人は既に携帯しておるが、アーキス、そなたにも渡しておく」
「了解」
 アーキスは、答えながらも思案顔だ。
「どうした、不満かの?」
 シルヴィアの問いに、
「いや、廃船を拠点にすえるにはかなりの資金が必要だ。おかしいな。これほどの規模の組織が残っていたか。あらかた潰しておいたはずなんだがな?」
「夕暮れを待つ時間はなさそうだ。行くか」
 アーキスの言葉に各自の役割が確認される。
 シルヴィアはこの場所からの狙撃、ネージュはスコープで、戦闘開始後は観測手(スポッター)としてローザの射撃を観測、射撃を補助する。
 アーキスとグロリアーナは、船内に潜入。
 水棲哺乳類最兇の鯱に変身する獣人、グロリアーナは、海に潜り、海側に逃げる敵を捕まえる。
「300秒後に戦闘開始だ」
 アーキスの言葉に、一同は時計を見る。

 まず、アーキスとグロリアーナの潜入で始まった。
 見張りの一人をアーキスは、自分の糸型【光条兵器】による首絞めで脅し、背中への蹴りで気絶させる。
 グロリアーナは、ルーンの剣で見張りを峰打ちした。
 それぞれを海に投げ込む。
 鯱の姿となったグロリアーナは、投げ込まれた敵の衣類を噛み、海岸線へと向かい、待機している菫に引き渡す。
 ここからは、銃撃戦となった。モニターに移った敵の姿にテロリスト集団が銃を手に戦いを仕掛ける。
 ローザマリアは、ネージュの補助を受けて、シャープシューターで遠距離より正確に敵を狙撃してゆく。
 出来れば全員を人質にと打ち合わせてあった5人だが、船内は狭い場所での銃撃戦になっている。
「其方ら如きに名乗るほど安っぽい名は持ち合わせてはおらぬが、倒された相手の名も知らずにあの世に行かせるのもまた不憫……妾が真の名、イングランド女王エリザベス1世を其方らの引導代わりとするがよい」
 シルヴィアは、近距離の敵にチェインスマイトで斬り込む。
 半身を人に戻したグロリアーナは岩場に登り、海側に逃げる敵兵を中距離からスプレーショットを交えたカービンの掃射で討ち取っていく。
 時折、時折、驚きの歌が聞こえる。ローザのSPを回復させるために、ネージュが歌っているのだ。


「この光条兵器はその気になればその首も落とせる。手加減されているのもわからんか?」
 テロリストの必死の抵抗に、アーキスも戦い方の変更を余儀なくされた。
 銃の球を実弾に変え、急所(心臓、頭)を撃ち抜く。
「出来れば、避けたかったんだがな」
 アーキスは、自身がテロリストとしての過去をもち争いの無意味さを実感している。
 大きく水しぶきが上がった。
 首謀者が海に逃げた。
 グロリアーナが、鯱に変身して彼を追う。
 暫くして、首謀者らしき男は海岸線に引き上げられた。まだ息がある。
「作戦終了・開始より620秒」
 アーキスが時計を見た。

16・祠

 教導団松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は、忍犬を伴って祠の警備に当たっている。

 祠は、木々が埋め尽くす小高い丘に作られている。鳥居のようなものはなく、一間ほどの観音開きの扉の奥には小さな仏像が納められている。その奥は見えない。
 社殿は石造で、山形の形状をした切妻屋根が乗っている。質素なものだ。5000年の間には、何度か扉が付け替えられたのだろうが、ナカラ道人が恐怖を知るものが減り、伝承の物語のなかでのみ生き続けた封印の祠は、忘れ去られ、朽ち果てていた。
 葦原明倫館一の大将、葦原太郎左衛門が、この朽ち果てた祠の警護に回されたとき、城の誰もが「太郎左衛門はしくじった」と思ったという。「総奉行のご機嫌を損ねて山に送られた」と嘆く部下もいたと聞く。
 半ば土に埋もれた祠の前で、葦原太郎左衛門は鎧甲冑姿でどっしり座っている。部下の殆どは死した。太郎左衛門は、この場所を護るために、部下の多くを見殺しにした。
 今、太郎左衛門の周囲には、見知らぬ若者が多く集っている。
 岩蔵の忍犬は、その若者の一人一人を丹念に調べ、一通り調べ終わると、また初めの一人から匂いを嗅ぐ。
「八鬼衆がいつ紛れ込むか分かりません」
 ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)は、祠から少し離れた場所で戦況を見ている。
 兵が引いたことで、魔物と学生のみが残された。

 蒼空学園虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)は、祠の正面からの戦闘は太郎左衛門や他の人に任せ、周辺の不審者に気を配ることにした。
 地面には、メイベルらが掘った落とし穴や鳴り子がある。空から来る敵や、変装してくるやもしれぬ八鬼衆に備えて、トラップを作る。
 木々に糸を張り巡らせ、自らは隠れ身のスキルをつかって、姿を隠す。


 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は祠の防御を第一に考えている。
 メイベルらが作った逆茂木前に陣取り、超えようと躍起になるヤマアラシのような毒針を持った野兎の群れを、機関銃で薙ぎ倒している。
 ドラゴニュートデーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)は、兎が身体を丸めて、銃弾を跳ね返すのを見た。
「エヴァルト、銃は無理だ、跳ね返している」
 ライトニングブラストも併用して、野兎を撃退するエヴァルト。時々飛び掛ってくる兎をドラゴンアーツのスキルを利用して、銃身で叩く。
 毒針が折れる。
 飛んだ針が、木にぶつかる。瞬時で枯れてゆく。
「やっかいだな」
 頭部だけが少女型で、完全に金属製のボディを持つ機晶姫ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は、エヴァルトに訴えた。
「焼き払おう」
 轟雷閃と爆炎波を続けざま、野兎の群れにぶつけるロートラウト。
 デーゲンハルトも火術を使う。
 なんとか、兎を壊滅することが出来た。

 少し離れた野では雑兵が消え、それまで粉塵や煙幕で見えにくかった戦況が分かりやすくなったっている。
 桐生組と名乗る少女たちは、火を使う男と戦い、苦戦している。
「大型の魔獣も数頭残っているし、小さな魔物はどんどん出てくる。変だよね、獣母は死んだのに」
 ロートラウトが呟く。
 エヴァルトもそのあたりは不可解だった。
「ボク、あっちに行って来る。大暴れするから見ててよね!」
 SPチャージでパワーを回復したロートラウトは、六連ミサイルを乱射しながら、魔物の群れに突っ込んでゆく。
「しかたないのう」
 デーゲンハルトは苦笑している。




17・砂の葉

 セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は、まだ魔法使いだか、まだほんの子どもだ。
「私は動物が好きなんじゃぞう、なんでなんででこんな敵ばかりくるのじゃ」
 愛らしい栗鼠や子羊が口から火を吹き、尾を膨らませて襲ってくる。
「元に戻ればよいのだがのう、もう獣母は死したと聞くし、無理なのだろうなぁ」
 時折、雷電を打って戦っているのだが、魔物とはいえ、動物を殺すことには抵抗がある。
「それ行けミリィいざ行けミリィ、世界はお主を待ってるのじゃ!」
 パートナーのアリス、ミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)を前に押し出すセシリア。
「世界が待つほど大規模な事件でもないでしょ!?たまにはおねーちゃん前に出てよあたしより頑丈なんだから!」
「何をいうのじゃ、いやだって魔法使いが前に出ても格好がつかなかろう」
魔女の福音 『アラディア』(まじょのふくいん・あらでぃあ)は、隠れ身で岩陰や木陰に隠れながら二人の側にいる。
「こうした依頼で一緒に動くのは初めてだけど。あの子達、何も考えてないのか大物なのかわからないわねぇ」
 おっとりマイペースに呟く。
「氷術で凍らせてみるか、もしや魔力が解ければ元にもどれるかもしれのう」
 セシリアは、棍棒の尾を持つ栗鼠と火を噴く子羊を氷術で凍らせる。
 常にディテクトエビルを張って敵意を持ってる存在の場所を確認しているセシリアに、何かが引っかかった。
 その方角に雷術を打つセシリア。
 杖を突き、手ぬぐいを被った旅の女が立っている。
「そちは優しいのだのう、魔物にも情けをかける」
 後ずさりするセシリア。
「おぬし、何やら変じゃぞう」
 手ぬぐいの中が動いている。
 ズルズルッと下がるセシリア。
「ミリィ、ミリィ」
 小声で名前を呼ぶ。
 様子見を決め込んでいた魔女の福音 『アラディア』が、窮地を察して、スナイパーライフルで旅姿のおんなを射撃した。
「なんと、乱暴な」
 女は言い捨てると、煙幕の中に消えてゆく。
「今のはなんじゃ、八鬼衆の一人かのう」
「うー。正体不明の能力って、絶対あたしじゃ噛ませ犬だよね」
「どこに消えたのじゃ」




18・密約

「やっと見つけたぜ」
 他の奴に姿を見られたら色々面倒なので、道中は光学迷彩で姿を消しブラックコートで気配を消しながら歩いていた景山 悪徒(かげやま・あくと)は、先ほどの旅女とセシリアのやり取りを見ていた。
「なんて話しかけるんだ?」
 目の前を歩く旅女に声を声を掛け倦ねる。
 女が振り返った。人の良い笑みを浮かべている。
「初めまして、俺は景山悪徒…」
「そうか。我が名は砂の葉。八鬼衆の一人じゃ」
「ああ、やっと会えた」
 悪徒は安堵の溜息をつく。
「俺もナラカ道人復活という同じ目的を志す者同士だ、微力ながら力を貸そう」
 悪の組織の一員である悪徒は、小型 大首領様(こがた・だいしゅりょうさま)から、
「明倫館がそこまで必死になるほどのナラカ道人とやらの力…見てみたくはないか?今回の指令を与える。八鬼衆に加勢しナラカ道人を復活させ、その力を我が組織の手中に収めるのだ」
との命令を受け、八鬼衆を探していたのだ。
「よし、よし、では何を頼もうかのう」
「復活させると言っても…ただ祠を壊せばいいのか?」
「そうだ、そちに頼んでみようか」
 砂の葉は、頭を覆った手ぬぐいを取る。露になった髪は、その一本一本に口がある。
 一本、抜き取る砂の葉。砂の葉の手の中で、みるみるうちに、蛇と変わる。
 その蛇を悪徒に授ける。
 蛇は悪徒の指に纏わり、其のまま輪となった。
「取ろうとすると、噛まれるぞ」
 砂の葉は笑う。
「噛まれると」
 悪徒が問う。
「傷口が砂となる。さあ、仕事じゃよ」
 砂の葉は、背中に背負った風呂敷を下ろし開けた。
 無灯の首が入っている。
 自らの腕を刃で切る砂の葉、風呂敷に血が垂れる。
「これを祠の前に置くのじゃ」
 頷く悪徒。