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葦原の神子 第2回/全3回

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葦原の神子 第2回/全3回

リアクション

6・幽巫


 他の八鬼衆同様、幽巫もナラカ道人の末裔である。5000年ほど前、ナラカ道人は鏖殺寺院に組して戦い、陵山に封印された。
 彼女の血を引く一族も、同じように抹殺されたが、辛くも生き延びたものがいる。
 幽巫の祖先は、追っ手から逃れるように険しい山中の洞窟に居を構えた。異能異形の血は、いつしか薄められ、人々は里に降りて暮らすようになる。
 その中で、生きながら死して生まれたのが、幽巫だ。
 産まれたときには身体があった。ゆえに名もあった。日々過ごすうちに、影に変じ宙を舞うようになる。名も消えた。


 書院では。
 八つの同じ母を持つ子の御伽草子が見つかった。
 見つけたのは風祭優斗である。堅苦しい戦術書物の間に子供向けの書物があることに、不審を持ち手に取った。
 八鬼衆の物語だ。
 母の姿は朧でわからない。
「土地も時代も違うのに、なぜ同じ母・・・」
 側で天音が覗き込む。
「同じ母か…同じ理由が知りたいのだよ」


 ハイナの援軍は祠の葦原太郎左衛門と合流している。
「入り口はここか」
 ハイナは壊れた祠の奥にあいた空洞を見る。
「我々はここを離れておりません。まだ何人もここを通ってはおりませぬ」
「では、わっちが」
 ハイナは、中へと進もうとする。
「お待ちください」
 太郎左衛門が制する。
「祠に入れば、魔女の思う壺かと」
「ではどうする!」


「太郎左衛門殿」」
 声を挙げたのは、弐識 太郎(にしき・たろう)だ。太郎はこの時を待っていた。
「お役に立ちたい。祠の潜入は任せてもらいたい」
「ナラカ道人の復活を阻止するためには、まず房姫を救出する必要があると思う」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)は房姫が拉致されたと聞き、崩れた陵山から殺気看破で幽巫
 の気配を探していた。
「この奥にきっと房姫はいるぜ」
 垂は何かを感じ取っているようだ。
 太郎左衛門が頷く。
「総奉行、先ほども学生たちは八鬼衆を倒しております、ここは任せましょう」
「しかし!」
 ハイナは自ら房姫を助け出したい。
「お立場をお忘れないよう。総奉行まで敵の手に渡ったら葦原藩はどうなりまする」
 太郎左衛門の一言で、ハイナは祠前で太郎左衛門と共に、名乗り出た学生たちの戦果を待つこととなった。
 城で房姫と共にいたレン・オズワルド(れん・おずわるど)が駆けつけたのはこの時だ。
「待ってくれ!俺も行く。房姫が攫われたのは俺たちのミスだ、それに」
 レンはハイナに向かい合う。
「房姫からの伝言を預かってきた。判断を見誤るな、それだけだ」
 レンは、すでに準備を始めた一隊に加わる。


 祠に入るのは、上記3名のほかに、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)朝霧 栞(あさぎり・しおり)
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)御陰 繭螺(みかげ・まゆら)国頭 武尊(くにがみ・たける)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)天城 一輝(あまぎ・いっき)ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)風間 光太郎(かざま・こうたろう)斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)の二十名だ。

 太郎左衛門は、昵懇となった太郎に耳打ちする。
「全部が善意とは限らない、気をつけろ、敵は仲間にもいるやもしれぬ」
 頷く太郎。

 刹那、祠より蝙蝠や野鼠が飛び出してきた。いずれも尖った歯を剥き、襲いかかる。
 他の学生には目もくれず、ハイナを狙っているようだ。
「いけ、ここは護る!」
 太郎左衛門の言葉で、一同は小動物の群れを別け、祠へと駆け抜ける。


 織部 イル(おりべ・いる)が密書を携え、戻ってきたのはこの時である。
 太郎左衛門は、密書を読むなり眉をひそめる。
「どうしたのじゃ」
 イルが問う。
 太郎左衛門は、まだ戦える状況ではない。小動物の群れを刀で避けるので精一杯だ。
「まだ、治療が必要じゃ」
 イルは無理やり太郎左衛門を度会 鈴鹿(わたらい・すずか)の元に連れ行く。
 鈴鹿は、多くの怪我人を手当てし、孤軍奮闘していた。
「今はひとりでも多くお助けしなければ!」
 鈴鹿はイルの姿を見て、喜ぶ。
「太郎左衛門殿はどうしたのですか、傷が痛みますか」
 鈴鹿が問う。
「いや、密書じゃよ、顔色が冴えない理由は、のう?」
 ルイがあけすけに問う。
「何があるのじゃ?」
「密書だぞ、ルイ。ここで言っては侍ではないぞ」
 太郎左衛門は磊落に笑うが、その目は沈んでいる。



 地下道はすぐに枝分かれした。問題はどの道からも幽巫が察知されることだ。トラッパーとトレジャーセンスのスキルを持つレンが先頭を歩いていたが、道はいくつにも枝分かれする。皆の選ぶ道が一致しない。
「もし間違った道を進めば、房姫までたどり着けないわ、ここは分かれましょう」
 誰かの一言で、皆はそれぞれの道を選ぶ。
 分かれる際、レンは皆に声をかける。
「自棄を起こして英雄的な行動を起こす前に、一緒に戦う仲間を信じる気持ちを忘れないでもらいたい。俺たちが戦う敵は、最初から死ぬ気だ、そんな奴に付き合って、一緒に死ぬ必要などない、いいか、俺たちは生きて帰る」
 レンの言葉に、皆が頷く。


 道は、ライゼがディテクトエビルを駆使して選んでいる。祠からの地下道は眠るナラカ道人へと続く一本道かと思われたが、実際は枝分かれが激しく蟻の巣のようになっている。
 朝霧 垂は、地中を進みながら不思議な気配を感じていた。殺気看破で幽巫を探しているのだが、全ての壁から殺気のようなものが生じている。
「いいか、壁に触れるな、壊すとやっかいだ」
 幽巫を見つけたらすぐさま使えるよう、試作型星槍を構えて歩く垂。
 ライゼが困惑している。
「ディテクトエビルって、邪念を抱いている存在や、自分や味方に害をなそうとする存在の居場所を感知するんだよね。」
「どうしたの、ライゼ」
 魔道書、朝霧 栞が、ライゼの呟きを聞きあたりを見回す。
 壁面には人も通れない細い道が様々あり、迷路に迷い込んだようだ。
「邪念を感知してもすぐに消えちゃうし、また復活するし。一つじゃないのかな」
 垂はひたすらに幽巫の気配を探している。
「とにかくこの道を選んだんだ、次に分かれるまではここを進もう」


 国頭 武尊は、パラ実から助っ人として小型飛空挺で葦原明倫館に向う途中、陵山での騒ぎに遭遇した。房姫が攫われたと聞き、突入を希望した。
 武尊は、今、一人だ。
 枝分かれする道の誰も選ばなかった道を敢えて選んだ。
「だってよ、みんな違う道を選ぶんだぜ、おかしいだろ、同じスキルを使ってんのに」
 武尊は、歩きながら、誰もいない通路で剣を振り回す。
「出てこい!オレが相手だ!姿を消すとは卑怯な。正々堂々と戦え!!」
 壁が微かに動く気がする。
「なんだか、気味が悪いな」
 殺気看破と女王の加護を併せ持つ武尊も、敵を感知することが出来る。
「幽巫以外にもいろいろいそうだな」
 武尊は、警戒しながら前に進む。