波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

リアクション公開中!

聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回) 聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

リアクション


(・東地区)


 北と東の境界沿い。
「なんだ、あの黒いのは?」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)はその姿を発見した。
 人の形はしている。だが、人間ではない。
「まずいな、こっちは居住区画だ」
 そこで、北側へと移動する。すると、黒い姿はこちらへ向かってきた。多数の一般人がいる方へは行かず。
(契約者のみに反応する、ということか)
 それならばと一般人から離れるようにして、「影の人」を誘導していく。
「クレア様、どうやらこれは実体を持つ存在ではないようです」
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)がレーザーブレードで敵を斬り裂くも、すぐにそれは形を取り戻す。
 身体を構成しているのはガス状の物体のようだ。
 もう一度斬りかかることで、その中にカード状の物体が見えた。
「おそらく、それが本体だ」
 クレアが轟雷閃を放ちそれを破壊すると、敵は消滅した。
「だが、これがまだ街の中にいるとなると……」
 そのときだ。
「クレア様、敵が来ます!」
 禁猟区に反応があった。
 敵のクローン強化人間達だ。
 最初は轟雷閃を放ち、装甲服の迷彩を起動できないようにする。どうやら、まだ他の強化人間はここまで突破してはいないらしい。
 ナイフを構え、敵が加速してくる。
「無効化するには――」
 首を刎ねる。
 だが、出来ることなら殺さずに無力化を図りたい。衛生科に所属する彼女達としては、人道的な見地からもなるべく敵を自爆させたくはない。
 案の定、首へと攻撃が来るのを予測してナイフで受け止めた。
 敵が自爆する理由はPASDの推測によれば、クローンであることが判明しないためだったという。
 ならば、それが知られてしまった今はどうなのだろうか。まだ自爆するように仕込まれているのだろうか。
 爆発音が聞こえてきた。
 やはり、自爆するようになっているらしい。彼らの意思ではなく、おそらくは自動的にだろう。
(その原理を知らなくてはな)
 ナイフをかわしながら、敵に攻撃を加えていく。致命傷を与えずにだ。
「――!」
 別の気配。
 迷彩を起動していた敵が近付いているのを、ハンスの禁猟区で感じた。レーザーブレードで一閃する。
 迷彩が解除され、敵の姿が現れる。今度は傷がかなり深かったらしく、敵がよろける。
「伏せろ!」
 そして自爆した。
 ここまで見て、敵が自爆する条件をクレアは推測する。
 前は顔がバレそうになるか、自らの命が尽きようとしたときだった。ならば、致命傷を与えずに敵の「思考」を止めればいいのではないか。
 仮死状態を作ればどうにかなるかもしれない。
「試してみるか……」
 戦いながら、敵に向かって氷術を放つ。温度を急激に下げることで仮死状態に出来ないか試みる。
 敵の動きは止まった。
 続いて、迅速に光条兵器を出す。メス型ということもあり、それで切開し、爆弾を取り除こうとする。
 だが、爆弾は発見出来なかった。
 かなり特殊なものであるらしく、今の状況で調べるのは困難だ。
 それでも分かったのは、気絶ではなく仮死状態にすれば無効化は出来るということである。
 気絶でも自爆していたことを考えると、心臓が動いている状態で、なおかつ脳からの信号が送られる状態が維持されていることが自爆の条件だと仮説付けられる。

* * *


(何やら南からは巨大な化け物、そして北の飛行機からはまたあの黒い装甲服連中。それに、ガス状の影。何者かは知りませんが、この海京、シャンバラを好きにはさせませんよ)
 志方 綾乃(しかた・あやの)は追跡してくる「影の人」と戦いながら、北を目指していた。
 精神感応を行える彼女は、北の方から多くの気配を感じ取ったのだ。ならば、そこが地上における一番の激戦区だ。
 住宅街を疾走する。建物の陰からは次から次へと黒い人型が沸いて出て、彼女を追いかけてくる。
(せめて広い場所、人が少ない場所まで出れれば……)
 途中で公園を発見した。
 あえて噴水の前に直立し、集まってくる影の人を見遣る。
「さて、ここなら流れ弾で一般人を巻き込む心配もありませんね」
 魔道銃を構える。
 そしてリリカルソングで歌を口ずさみ、舞うように引鉄を引いていく。影の塊の中から薄っすらと見えたカード状のものを、エイミングで撃ち抜く。
 それによって体内のカード――核を失った影の人は消滅する。
(魔法、術式の類だとは思いますが……何かが違いますね。魔力を一切感じませんし)
 戦いの中でわずかに感じる違和感。
 イルミンスール魔法学校に通っていた身としては、強い引っかかりを覚えずにはいられない。
(何かは知りませんが、その前に)
 振り返り様に、スナイプで背後に迫っていたクローン強化人間の眉間を、ヘルメット上から撃ち抜いた。
「どうやら、近くにいるようですね。志方ないですね」
 リリカルソングからの子守唄を歌い、敵を眠らせようとする。
 公園の周囲で爆発が起こる。何人かは眠ったことで意識を失い、自爆したようだ。
(途中で音をシャットダウンしましたか。ならば……)
 精神感応によって気配を読み、魔導銃を撃つ。姿が見えないうちはエイミング。そして黒い装甲服が露になったらスナイプで頭を吹き飛ばす。
「作られし者よ。せめて安らかにお逝きなさい」
 中途半端な攻撃はしない。確実に一発で仕留める。
(さて、まだまだ敵は多そうですね)
 周囲に敵がいないことを確認し、綾乃は公園を後にした。

* * *


「皆さん、こちらです〜!」
 同じく東地区。
 地下シェルターへの誘導を行っているのは、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)達だ。
「まだこっちには敵はきてないみたい。メイベル、他の状況は分かる?」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)がメイベルに尋ねる。
 彼女は篭手型HCの地図データを携帯電話に繋ぎ、情報を確認する。シャンバラとは違って、ここは地球。GPSが使えるのは何より心強い。
「北の戦闘が一番激しいようです。ただ、元々住人がほとんどいない場所ですので、一般人の被害はないとのことです」
 西地区では一部の研究員を除いて避難が完了したということだ。
 南地区は天御柱学院地区であり、非戦闘員である教員達が避難し、戦える者達が敵襲に備えていると連絡を受ける。
 そして自分達がいる東地区の状況を見る。
 区には四つのシェルターへの入口があり、今彼女達がいる場所が最も多く人が集まっている。
 ちょうど夕方だったせいだろう。
 居住区域である東地区には、多くの飲食店やスーパーがある。そういった場所にいた人達が、今避難しようとしているのだ。
「皆さん、ここは大丈夫ですわ。落ち着いて下さい」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)もまた、不安顔の住人達を落ち着かせ、促す。
「……何かいます!」
 ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)がそれに気付いた。
 黒い人型がメイベル達に近付こうとしている。
「同じものが、この海京の至る所で目撃されています。どうやら『契約者』だけを狙っているようですが……」
 こうやって避難誘導をしている以上、一般人が巻き込まれないとは限らない。
「私達が対応しますので、皆さんは大丈夫です。落ち着いて避難して下さい」
 ざわつく住人をなんとかなだめる。
 幸せの歌をセシリアと歌い、パニックが起こらないように尽力した。
住人達がちゃんと地下シェルターへと移動しているのを確認し、影の人へと向かっていく。
 相手は武器のようなものは持っていないが、油断は出来ない。
「誰も傷つけさせません」
 ステラがライトニングブラストを影の人に向ける。
 人型は離散し、再び元の形に戻った。
「何か、あの姿の中にありましたわ」
 それこそが敵の核だ。
 フィリッパが敵を斬り裂き、それを確認する。そして、カード状のそれを剣で貫いた。
「強くはありませんが……薄気味悪いですわね」
 襲い掛かってくる、といってもただ契約者の姿に反応して追ってくるだけだ。戦闘力はほとんどない。
 ただ、影に触れると闇術を受けたときのように気分が悪くなるらしい。そういった情報は入ってきている。
 メイベルが再びHCを確認した。
「南地区にも強化人間部隊が現れたそうです。そろそろこちらにも来るかもしれませんね」
 ここは東地区の中でも中心に位置する。
 まだ猶予はあるが、出来る限り残りの人員を迅速に避難させたい。
「こちらの方で最後ですわ」
 ひとまず、付近の住人は避難し終えた。
「念のため、建物の中に残ってる人がいないか確認しないとね」
 街中の人の誘導は行ったが、まだ一軒一軒詳細に見たわけではない。地上が危険であることは変わりないため、残りの住人がいないか、彼女達は確認しに街へと繰り出した。