校長室
聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
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(・ローゼンクロイツ3) 「やっぱり、ここにいましたか」 真口 悠希(まぐち・ゆき)はローゼンクロイツの姿を目に映した。 「なんだ、戦ってるわけじゃなさそうだぜ?」 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が訝しそうな顔をする。 途中、戦闘音を頼りに追っていたが、それは途中で止んだ。 状況は分からないが、相手にはまだ交戦の意思はなさそうだ。 「またお会いしましたね」 深々と一礼するローゼンクロイツ。 「以前、貴方は自分が弱い人間だと言いました……ボクもそうだから分かります」 悠希は相手の言葉の真意が知りたかった。 「弱い人間は……戦わないです。何か、強い動機がない限り。ローゼンクロイツ……貴方はどうして戦うのですか?」 彼女は問う。その理由を。 そしてローゼンクロイツは先ほど未憂に言った内容を答える。 「強い動機がなくても、例えば『罰』を与えられ、赦しを得るために戦わなければならないのなら、その者は戦うでしょう。永劫の苦しみから解かれることを信じていれば、ですが」 ローゼンクロイツが空を見上げた。 「私は弱い人間ですよ。世界を敵に回してでも守ると覚悟を決めたにも関わらず、結局たった一人の人間を守り切れなかった。本当の名も失った、ただの憐れな敗者。その成れの果てが私です」 遠い昔を思い出しているかのように見えた。 (悠希、まだ話そうとするの?) 魔鎧として纏われているカレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)が悠希に呟く。 (だって……お互いのことを沢山知れば仲良くなれるかもしれないじゃないですか。戦わずに済むかもしれないじゃないですか。ボクは……お互いが傷つけ合って憎しみ合って……どこまでも戦い続けて……そんなのが正しいとは思えないから) 自らを敗者だと言ったローゼンクロイツ。 「貴女はお強い。それだけの力を持っていながら、はっきりと守るべきものを見据えて いる。そして今も」 そして言葉を続ける。 「貴女達と戦うつもりはありませんでした。ここでその瞬間を共に見て下さればと思いますが……そうは言ってられないことでしょう」 ローゼンクロイツの白手袋の魔方陣が光を放つ。 『召喚』 後ろで髪を束ねた、凛とした顔立ちの女剣士が現れる。 「その意志、覚悟、貴女達自身が『偽り』ではないか、同じ契約者として確かめさせて頂きます」 それが偽りならば、悠希達に資格はないと相手は告げてきた。 「ボクは……ミューさま達、友の為、かつての自分の様な、力なき人々の為、そして……愛する人の為に。貴方は本気でないのかもしれない……けど……」 忠烈によって自らを奮い立たせる。 (怖気づいた……のではなさそうね。なら、いい……力を貸してあげる) カレイジャスが悠希に言葉をかける。 そして、悠希はローゼンクロイツ達と目を合わせた。 「……ボクは今の全ての、本気で――行きます!」 悠希とローゼンクロイツのパートナーが、前に飛び出した。 (行くですよ、ミュー!) リリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)を身に着けた、ミューレリアも銃を構える。前の戦いでは幻覚に惑わされたこともあるため、まずは様子見からだ。 ローゼンクロイツはその場で佇んだまま、ただ自分のパートナーと悠希の刃がぶつかり合うのを見ている。 (自分が出るまでもないってか?) もしくは、あれが幻覚かどちらかだ。 超感覚で耳を研ぎ澄ます。背後から回り込んでいるということはない。 そこで、魔道銃を目の前にいるローゼンクロイツに撃つ。相手は左手をかざし、 『ギャラハッドの盾』 シールドを展開し、彼女の攻撃を防ぐ。 (相変わらず厄介だぜ) だが、あれが本物であることは確実なようだ。 基本的に相手はシールドで防御する以外は特に何もしてこない。本当に、あくまでこちらの力を試しているかのように。 銃口をローゼンクロイツのパートナーの方へと向ける。 「く……重い……!」 相手の一撃一撃が重くのしかかってきているようだった。 敵は一本の剣で、悠希は二刀の構え。 にも関わらず、受太刀でも完全に受け止められないほどの重さだ。決してフェイタルリーパーが使うような大型の武器でもないのに。 (悠希、相手は純粋に剣技のみでこの強さよ。耐えてるだけじゃ、厳しいわ) 遠目から見てもその力量は分かるほどだ。 「ゆっきー、援護するぜ!」 ミューレリアが弾幕援護で突破しやすい状況を作る。魔道銃から放たれるのは弾丸ではなく、彼女自身の魔力だ。通常の剣でさばくのは楽ではないだろう。 敵は後方に飛んだ。 そこはちょうどギャラハッドの盾の効果の内側。そして剣を鞘に納め―― 「ぐ……!」 抜刀術。 しかもただの居合い風なものではなく、地面を蹴ると同時に抜く。その斬撃は真空波をも生み出すほど鋭いものだった。 フォースフィールドで、真空波の方は耐え抜く。 だが、刀の方がそろそろ限界に達しようとしていた。 (あの二人は、片方が攻撃のみに徹し、もう片方が防御のみに徹している。ならば) その連携を崩せばいずれかに隙が生じるかもしれない。 再び魔道銃を放つ。 そしてそれを敵が剣で受けた直後、 「これでどうだ!」 サイコキネシスを顔面に向けて繰り出す。威力は弱いが、不意に受けたことでバランスを崩す。 さらに、 (今よ、悠希!) 光術でローゼンクロイツのパートナーに対し目晦ましを行う。 片手で両眼を抑え、ギャラハッドの盾の内側まで再び引いた。二人が一ヶ所に集まった今がチャンスだ。 二対二。魔鎧を纏っていることを考えれば四対二か。 ミューレリアが銃を構えて照準を合わせ、魔道銃でギャラハッドの盾を撃つ。それに合わせて、悠希もそれに向かって斬撃を繰り出す。 パン、と音がし、盾が砕けた。 そのままさらに踏み込もうとするが、今度は別の力が発動する。 『アイアス・フィールド――ファースト』 それに阻まれ、彼女の攻撃は阻まれる。 だが、少しでも隙を与えれば女剣士が再起し、飛び込んでくる。時間はかけられない。 (使うなら、今しかないか) ミューレリアは大魔弾コキュートスを装填。自らの魔力と合わせて、最大火力の一撃を放つ準備に入る。 ギャラハッドの盾と同種のバリアだろうが、二人分の渾身の一撃でなら破れるはずだ。スナイプで正確に狙いを定め、 「っけえええええ!!」 トリガーを引く。 狙うは敵の左手にかざされた一枚の札だ。 それがアイアス・フィールドにぶつかった瞬間、悠希が弾丸の後ろから疾風突きを押し当てる。 「これが第二の合体技コキュートス・リリィ! 貫けっ!!」 空間にヒビが入り、割れた。 そしてその刃が、まずローゼンクロイツのパートナーの目前にまで迫り、 「な……!」 止まった。 『セカンド』 アイアス・フィールドはギャラハッドの盾と違い、一枚ではなかったのだ。 「二重障壁……か!」 その瞬間、ローゼンクロイツのパートナーが抜剣し、悠希の二本の刃を吹き飛ばした。 そして一気に前進し、ミューレリアへと距離を詰める。 「速い!」 だが、弾幕を張り、その間にミラージュを使い幻覚を生み出す。 (こっちだぜ!) レビテートで彼女の真上に上がり、銃口を向けたが、その瞬間に銃身が切断された。 見抜かれていたのだ。 しかも、敵はあえて二人の武器だけを破壊した。 そして、ローゼンクロイツとそのパートナーは、武器を失った二人を静かに見つめていた。