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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

リアクション


10:30〜


・情報収集 その2


 空京大学内、PASD本部。
「はろはろー、ノインさんお時間いいですかー? 取り込み中なら待ちますー」
 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は受付に立ち寄り、ノイン・ゲジヒトを呼び出す。
「ねーアルコリア、魔女ノイン? って強いの?」
「話に聞いたところ、『あの子』の封印を五千年守っていたようですからね。弱体化してしまったというのが惜しいですが、相当な強さだと思いますよ」
「それと戦うのは駄目なの? きゃははっ」
 ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)が楽しげにノインのことをアルコリアに聞いている。
「今はまだ……もっと面白そうな敵がいますからね」
 そうしているうちに、ノインから返事が返ってきた。
『時間ならある。用件はなんだ?』
 テレパシーが伝わってきた後、白衣を纏い眼鏡をかけた少女がアルコリア達の前にテレポートしてきた。
「ちょっと聞きたいことがありまして」
 海京決戦で遭遇した敵について尋ねる。
「あのノヴァって人、それと搭乗してた機体がどんなものか分かります?」
 これについてはとりあえず聞いてみる、といったところだ。
 そこへ、ラズンが割って入ってきた。
「ねぇ、ノイン。ラズンが鎧になってアルコリアに纏われてるのと、ラズンとアルコリアの二対一、どっちが戦うに厄介?」
 じぃーっとにやにやしながらノインを見つめる。
「どちらであろうと同じことだ。一人なら力を一点集中、二人なら拡散させればいい。労力は変わらん」
 魔術を使うものらしい答え方だ。
 そのままアルコリアに向き直り、彼女の質問にも答えた。
「我には分からぬが、海京にいるジール・ホワイトスノーなら知っていることだろう。繋ぐか?」
「ぜひぜひ、お願いしますー」
 受付にある高性能通信機を手に取り、ホワイトスノー博士に連絡する。
「ホワイトスノー博士、初めまして」
 軽く挨拶をし、ノヴァについて質問する。
『ノヴァは超能力を生まれながらに持っていた人間だ。それも、今の天御柱学院の超能力者とは比べ物にならないほどの力だった。イコンについては――』
 そこに別の割り込んできた。
『あれはジズ。わたしが……いえ、わたし達が造り上げた原初の「代理の聖像」の一体よ』
「あなたは?」
『調律者、って昔は呼ばれてたわね』
 幼い少女のものと思しき声だ。
「単刀直入に聞く。ボクらでアレ――ノヴァとやらのイコン、ジズに勝ち目はあるのか?」
 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が問う。
『生身じゃまず無理ね』
 そもそも、イコンに生身で挑むこと自体、本来なら無謀な行為なのだ。
「現状イコンで戦うにしても、あの支配能力をどうにかせねば勝ち目はなさそうだが……製作者なら対処法を知っているだろう?」
『同じ類の力を持った姉妹機が存在するわ。どうやらまだ相応しい乗り手が見つかってないようだけど……「彼女」なら、あの力を無効化することは可能よ』
 だが機体を動かせない以上、他の手を考えなければならないだろう。
「ワイバーンはどうだ? あれならイコンのように支配されないと思うが……」
『そうね。でも、正直今のジズの強さは未知数だから何とも言えないわ。一重に、乗り手のせいなのだけどね』
 元々も相当な性能を誇っているらしいが、あのパイロットがそれを十全に引き出しているらしい。
「ああ、そうだ。このレーザーブレードって、別にイコン特効ってわけじゃないんだよね?」
 何かを思い出したかのように、ラズンが声を漏らした。
「イコン自体が光輝や雷電に弱いわけでもないし、純粋に攻撃能力がイコンの装甲に通じるだけの高さがあるって意味でいいんだよね?」
『半分は正解だ。起動しているイコンの装甲の表面は機晶エネルギーで覆われている。そのせいで対イコン用兵器以外はほとんど役に立たない。装甲が堅いのも事実だが。純粋な攻撃力だけならレーザーブレードより高い武器はあるが、対イコン用でなければ威力が半減すると思った方がいい。使用者の魔力や気といったものを撃ち出す一部の例外的な武器を除けばな』
 ホワイトスノー博士が淡々と答える。
「でも、これを作ったってことは生身で戦うことも想定してるんだよね? 戦闘する際のアドバイス、何かある?」
『機体に取りつければ、イコンに成す術はない。ゼロ距離で対イコン用武器で攻撃すれば、大抵のイコンは倒せるだろう。もっとも、それが出来る者など限られているだろうが』
 三者がそれぞれ質問を繰り出している中、その様子を眺めていたナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)にアルコリアは視線を移す。
「ナコちゃんは?」
「わたくし? そうですわね……」
 博士と繋がってることもあるので、彼女も尋ねる。
「搭乗者のスキルを増幅する装置、そういったものは開発されていますの?」
『超能力に関してなら、これから試運転を行うレイヴンがそれに近い。機体に乗った状態で契約者の力を使うというのであれば、覚醒状態なら可能だ』
 ただ、人為的にパイロットの能力を高めるのは危険なことらしい。
『今でこそレイヴンはリスクを軽減する目処が立ったが、本来そういった装置はパイロットの身体を破壊しかねないものだ。造るのは簡単だが、な』
 どうやら時間らしく、博士との話はそこまでだった。
 ただ、まだ気になることはあるため、アルコリアはノインへの質問を続ける。
「知覚の方法は、超能力とか魔法とか、何であるか感じられましたか?」
 機体のカメラやセンサーでは説明しきれないものがあると彼女は考えた。
「能力としては、ファーストコントラクターのものに近いだろう。魔法の類ではない」
「ならば、私達を吹き飛ばした攻撃は……サイコキネシスの様なものでしょうか? ではなく、テレポート? もしくはそれ以外か分かりますか?」
「確証はないが、おそらく両方だろう。サイコキネシスをぶつけるのと同時に、天沼矛の前に転送させる。そしてそのまま激突させたというところか」
 どちらにせよ、超能力であるのは確かなようだ。
「それと、あの幻影は単なるミラージュによるものだ。ほとんど実体と変わらない精度で顕現させていたが」
 これまでの話から、ノヴァは機体に乗った状態でも超能力が使えるということは分かった。
「なんとか生身で叩き壊せないか、考えたり、ぶつかったり、やってみますよ。いろいろありがとうございました」
 パートナーと一緒にPASDを後にしようとした。
「最後に我の方から一つ聞く」
「なんでしょう?」
「はっきり言おう。力の差は歴然だ。我とて一分と耐えられまい。それでも、イコンに相手が乗っていようが生身での戦いに拘るのはなぜだ?」
 振り返ることなく、アリコリアは答えた。
「灰色の影が私に手を差し伸べるからですよ。ステージに引き寄せるために」
 それだけ残し、帰路に着いた。
(そんな子じゃないんでしょうけどね、あの子は)
 ならば、今目の前に彼女が現れたら何と言うだろうか。
(力を持つと誤解されやすいってのは知ってるつもりです。私もか弱くて、泣き虫ですしね)
 『灰色の花嫁』の姿を思い浮かべる。
「いずれまた、会えることでしょう。その時は――」