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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~

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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~
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リアクション

 
「はーやっと着いたー……。
 なんか、ここに来るまで随分かかった気がするわよ……」
 
 ようやくのことで訓練場に辿り着いたライカが、辺りを見回す。
 ライカが今いる場所は生徒のための修練場で、アルマインの訓練場は地下に降りていく必要があるようだ。
「となればこっちねー」
 ライカが、地下へ降りていく階段を見つけ、そちらに向かう。
 
 その時、修練場の方では――。
 
 
「さて、僭越ながら修行の相手になってやるぜ。
 すまねぇが、俺は手加減できねぇんだわ。二対一っていう事だから、最初から本気を出させてもらうぜ」
 
 そう告げて、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が構えを取り、ゆっくりと息を空い、吐き出す。
 ラルク曰く『鬼の力を借りる』ことで強化された闘気が身体を包み、その闘気は対峙する五条 武(ごじょう・たける)とリンネにも感じられた。
「こりゃこっちも、本気でやらねぇとマズイよな……変身!」
 武が『パラミアント』へと変身を遂げ、横で緊張した表情を浮かべるリンネに振り向く。
「さっきも言った通り、この模擬戦はお前ェの新しい戦い方、魔法の使い方を見つけるためのモンだ。
 戦い方は一つっきりじゃねぇ。お前ェの持ってる力にゃ、色んな使い方があるはずだ。それをよく考えてみるんだな」
 
 武は、同じロイヤルガードであるリンネが最近悩んでいるのを目の当たりにして、若ェな、と思いつつ、何かしらの解決策を提示してやろうと思い立ち、ラルクを連れてリンネとの特訓を持ちかけたのであった。
 
(リンネちゃんの持ってる力を、色んな形で使う……)
 武の言葉に頷きながら、リンネはこれまで取得してきた魔法を、自分がどのように使ってきたかを思い返す。
 
 基本は、得意の炎熱属性魔法『ファイア・イクスプロージョン』による一点集中攻撃。しかし、一口に火術といっても色々な応用がある。拡散させることも、小規模の炎弾を連射することも出来るはずだ。
 また、リンネは雷術と氷術も相応に会得している。雷術は火術に勝る効果の伝達速度が長所である(その分、範囲は狭くなる)。氷術はその逆で、伝達速度は遅いが効果範囲が広い。
 そして何より、今回は二対一の(ラルクとリンネでは、リンネが詠唱を行う前に撃退されてしまうと予測されたため。実際ラルクを目の当たりにしたリンネは、武の予想が正しかったことを悟る)戦い。近接メインの武を活かすも殺すも、リンネ次第であった。
「さあ、そろそろ始めようぜ! 五条、早々にぶっ倒れんじゃねぇぞ?」
「テメェこそ無様な格好晒すなよ? マジで倒す気でやっからな」
 二人の間に火花が散り、おもむろに構えを取る。直後、ラルクが地を蹴り、巨体からは想像もできない速さで武に迫る。
「防御ガン無視かよ、ナメられたモンだな!」
 繰り出される拳を、勝るとも劣らない身のこなしで武が避ける。地面だけでなく壁、さらには宙をも蹴るようにして、ラルクが攻撃を繰り出す一瞬の隙を狙う。
(ここで、地上付近で爆発する魔法で援護すれば……!)
 二人の戦い方を見届けたリンネが、詠唱を開始する。しかし――。
「俺が詠唱を許すとでも思ってるのか?」
 ラルクから放たれる闘気が、リンネを襲う。かろうじて直撃は免れたものの、このような状況では集中することも出来ない。
「んな広っぱらで詠唱なんてしてんじゃねぇ、どうしたら妨害されねぇか頭使えよ――」
「おっと、余所見してる余裕あんのかぁ?」
 振り返った武、そこに生まれた一瞬の隙を、ラルクが見逃すはずもない。
「チッ!」
 続けざまに打ち込まれる拳を、一発目はそらし、二発目は甘んじて受ける。前もって準備していたとはいえ、攻撃を受けた武の身体は大きく舞い、地面に着いてもなお後退する羽目になる。
「ってぇ……ブチ抜かれるかと思ったぜ」
 痺れの残る手を振って、武がラルクを見据える。二人を前方に見、リンネはどうするべきか悩んでいた。
「リンネ、マントで身を隠せばいいんだな」
 そこに、モップス・ベアー(もっぷす・べあー)のアドバイスが入る。モップスをパートナーにするリンネは、身につけている物に光学迷彩を施すことが出来る。存在は隠せなくとも、どうしても人はあるものに頼ってしまうこと、視覚が情報取得の大きなウェイトを占めることから、視覚を利用できなくするのは効果が見込めるはずであった。
「そっか!」
 今まで活用していなかったものに気付くことが出来たリンネが、光学迷彩を発動させると、たちまち視界からリンネの姿が消えた。
「気配を読むだけじゃ、全部は分からねェだろ? ましてや、俺を相手してんならな!」
 リンネが視界から消えても、ラルクには大体の位置は把握できていた。しかしやはり、点として見える視覚情報に比べ、空間として見える気配察知では、確実性に欠ける。当てずっぽうで攻撃してもいいだろうが、武にその隙を突かれる可能性もある。
「だったら、全部避けてやるぜ!」
 気配察知を、武とリンネの繰り出す攻撃を察知することにラルクが決め、その通りにする。
「いっけー!」
 今度は無事に詠唱を完了したリンネの、地上付近で爆発する魔法がラルクを狙う。
「よっと!」
 しかし、気配を読んでいたラルクにはあっさり見抜かれ、何も無いところで炎弾が炸裂する。
「ここで間髪入れず追撃、ってかぁ?」
 爆風の中を突っ切り、武の繰り出す拳がラルクを襲う。この時点では武・リンネ側が攻撃の主導権を奪っていたが、ここで一つリンネに問題が発生する。ここで援護をしようとすれば、ラルクだけでなく武にも被害が及ぶ。
 
(リンネちゃん考えるんだよ! ピンポイントで、かつ威力のある攻撃を可能にする手段を!)
 うーん、と考え込んだリンネが、頭にピコーン、と閃いたらしくポン、と手を叩く。
 雷術の長所は、伝達速度の速さ。リンネは炎熱属性魔法が得意で、威力も最も高い。
(じゃあ、くっつけちゃえ!)
 ……なんともリンネらしい発想である。だいだいそんなことが出来るのだろうか――
「いっけー!」
 ……出来てしまった。これでいいのだろうか。ま、いいよね。
 
 リンネの、これまでより数段速い伝達速度で迫る炎に、ラルクの対応が一瞬変わる。
「隙ありだゴラァ!」
 武の、ここぞとばかりに振るった拳を、ラルクは受け止めざるを得なくなる。硬質化させた両腕で凌ぐが、やはりこちらも大きく後方に下げられた。
「オラ、一発デカイのぶちかませ!」
「うん! ……天界の聖なる炎よ、魔界の邪悪なる炎よ。
 今ここに手を取り合い、
 大気を切り裂く雷迅に乗り、
 立ちはだかる敵を塵と化せ!

 ファイア・イクス・アロー!!
 リンネが両手に生み出した炎を一つに合わせ、しかしそこから掲げるのではなく、まるで弓矢を引き絞るような動作を見せ、生じた細長い炎をラルクに向けて放つ。
「こいつも持ってけェ!」
 リンネの魔法の発動に合わせ、武も拳に炎を生み出し、爆炎として放つ。横から見ればちょうど、細長い炎を胴体とし、広がる炎を尾として、炎の鳥の如く見えるそれが、ラルクを襲う――。
「おおおぉぉぉ!!」
 ニヤリ、と笑ったラルクが、闘気をさらに湧き起こらせ、その闘気が乗った拳を振るう。拳の先の闘気と炎が激しくぶつかり合い、やがて両方が消滅するように消えていった。
「……へっ、ちったぁやるじゃねぇか」
 拳の先端に出来た火傷の痕を、ぺろり、と舐めてラルクが構えを解く。
「リンネがぶっ倒れちまったから、ま、引き分けってことにしといてやるぜ。
 五条、運んどいてやれよ」
「ったく、デカイのぶちかませっつったのは俺だけどよぉ、自分の力量考えろよな……」
 やれやれと呟いて、地面に突っ伏したリンネを担ぎ上げる。光学迷彩を使用しながら立て続けに魔法をぶっ放したせいで、一時的な魔力不足に陥ったようだった――。
 
 
「おーおー、リンネさんなんか開眼した感じだねぇ?
 ……でもアレだよな、屈強な男二人に挟まれて特訓……それなんて3p……げふんげふんっ」
 ふらりと修練場に顔を出した七刀 切(しちとう・きり)が、ラルク・リンネ・武の並びを見てなにやらいかがわしい想像をしかけ、咳払いをして平静を保つ。……全てはリンネの胸がいけないのだ、多分。
「しっかしあの調子じゃあ、続けて特訓ってのもキッツいよなぁ。
 ……つうわけで、フィリップさんや、ちょいと俺と訓練してみようぜぃ?」
「……へ? あのあの、僕はそのつもりは……」
 リンネと訓練をするつもりだった切が、流石にあれではしばらく動けなかろうと判断し、横にいたフィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)の首根っこを引っつかんで連れて行く。
「ま、わてはシンプルに、近接メインで行くんで。
 魔法使いには嫌な戦い方とは思うけど、訓練なんでいいよね」
「い、一方的に決めないでくださいよ! ……ハァ、やるからにはやりますけど」
 ため息をつきつつ、フィリップが杖を持ち、太刀を呼び出した切と対峙する――。
 
「いいか? 実績を残せないからって焦るな。俺だって実績は残せてないしな。
 実績ってのは積み重ねなんじゃねぇか? 少しづつ築いていくものだと俺は思ってるぜ。
 同じロイヤルガードなんだ、皆で共に協力していこうじゃねぇか」
 
「お前ェ等みてーな若ェ衆は、迷った時ゃ俺達みてーな頼れるオニイサマ達に頼りゃ良いンだよ。
 ……まァ何だ。俺ぁパラ実生だが、イルミンっつー学校は嫌いじゃ無ェし、何かあったら手伝わせてもらうぜェ」
 
 目を覚ました後、それぞれの言葉で教訓と、ロイヤルガードとして協力して物事に向き合うことの大切さを説いて去っていった、ラルクと武の言葉を、リンネが思い返す。
(……うん。リンネちゃん、ちょっと焦ってたかも。
 今のリンネちゃんに出来ることを、やるしかないんだよね)
 二人に心の中で感謝をし、もし事件があった時には遠慮無く力を借りようと思いながらリンネが歩いていると、前方、右から左へと吹き飛んでいく人の姿があった。
「あれは……フィリップくん?」
 駆け寄ってみると、樹に背中をぶつけたらしく、フィリップがぐったりと項垂れていた。
「あらら、ちぃと力入っちまったか? って、リンネさん、もう大丈夫かい?」
「うん、リンネちゃんは大丈夫。……切ちゃん、フィリップくんと訓練でもしてたの?」
「ま、そんなとこ。でももう無理そうやし、切り上げて一つ、反省会と行くかぁ?」