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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

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第二章 〜面会〜


「イコンは今後欠かせない技術、分野になっていくことは想像に容易いよね。薔薇の学舎にあるシパーヒーは謎も多いし、詳しい人間がいた方が今後有利になると思わない?」
 柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)は校長のジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)に紹介状を書いてもらえないか、頼み込む。
「……と、ここまでは建前だな。本音を言うなら俺はもっと学び、より高度な知識を学びたい。ここ最近の興味の対象は、魔法を物理エネルギーに変換する術だ。博士が実験に成功したとの噂を聞いたので……教えを乞いたいのだ。そのためにどうか、貴殿の力をお貸し願えないだろうか?」
 柚木 瀬伊(ゆのき・せい)が深々と頭を下げる。博士に会いたいと考えているのは、彼なのだ。
「いくも、瀬伊おにいちゃんのためなら、どんなだいしょうでもおうよ。だから、ジェイダスこうちょう、瀬伊おにいちゃんに力をかしてほしいの。おねがいっ」
 柚木 郁(ゆのき・いく)も、潤んだ瞳でじっとジェイダスを見つめ、懇願する。
「薔薇の学舎の品位は決して落とさない。小早川 隆景の名に誓って」
「……そこまで言うのなら、いいだろう。すぐに用意する。それと、面会するには事前に日程調整が必要だろう」
 そこで、面会に必要な手続きと日程の確認を取り、ジェイダスの紹介ということで取り付ける。
 そしてジェイダスから紹介状をもらい、海京に向けて出発した。


・強化人間管理棟


「ねーたん、こえ、あじぇのみはしあがっこの、おはなしひろえたお。あとねー、あじぇのみはしあみたいながっこのはなしも!」
 林田 コタロー(はやしだ・こたろう)は天御柱学院設立以降の沿革を調べ、林田 樹(はやしだ・いつき)に伝えた。
「今の三つの学科のうち、最初に出来たのが超能力科か」
 2018年設立。パイロット科と整備科はその翌年からだ。
「あじぇのみはしあに、こたのおともらち、いたお! こた、ねーたんのめーるれ、がっこあんないおねまいしといたんらお!」
「……ん、誰と連絡を取ったって?」
 コタローは天御柱学院の榊 朝斗(さかき・あさと)に頼み、間を取り持ってもらおうとしていた。
 ただ、強化人間管理棟は天学生でさえ手続きを踏まなければ足を踏み入れることが出来ない場所だ。そこでコタローは上官に掛け合い、『教導団から正式に強化人間調査依頼を受けた』という名目を得る。
 管理棟を案内してもらうのは難しくても、これならば話を聞くことくらいなら出来るだろう。

* * *


「すいません、強化人間管理課はこちらですよね?」
 東間 リリエ(あずま・りりえ)は管理課の受付にやってきていた。
「はい。ご用件は?」
「強化人間に興味がありまして……パートナー契約するために、紹介してもらえないかなと思い、こうして参りました。少しでいいので、見学させて頂けませんか?」
「少々お待ち下さい」
 受付係が確認を取っている間に、周囲を見渡すリリエ。
「なあ、今の……本気か?」
 ジェラルド・レースヴィ(じぇらるど・れーすゔぃ)が小声で耳打ちする。
「……あくまでも口実ですよ」
 とはいえ、ジェラルドがどうにも腑に落ちないという顔をしている。
 リリエがここまで足を運んだのは、強化人間を知るためだ。パラミタ化手術によって、パラミタから拒絶されなくなった者。
 突き詰めてしまえばそうなのだが、彼女の認識は「地球人と契約出来る地球人」というものだ。
 さらに人工的に作り出せるとなれば、パラミタに渡らない「契約者」を量産することが出来る。契約者と一般人(パラミタ種族を含め)の間には、大きな力の壁が存在する。強化人間と契約すれば、その力を容易に手に入れることが出来るのだ。
 元は契約者とならずにパラミタへ行くための技術だったが、最近ではそういった意味合いを持つようになっている。鏖殺寺院はそれによってイコンのパイロットを大量に生み出したくらいだ。
「お待たせ致しました。所属学校をお教え下さい」
「イルミンスール魔法学校です」
 その瞬間、受付の人が凍りついた。
「……申し訳ありません。ご案内することは出来ません」
「どうしてだ?」
 ジェラルドが訝しげに問う。
「課長から『何があっても魔法使いや魔法学校の者は通してはいけない』と指示を受けていますので」
 とても申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「基本的に管理棟は、天御柱学院の生徒に対しても大部分が非公開になっています。それでいて、課長の魔法嫌いは筋金入りです。悪いことは言いません。課長の目に留まる前に、お引取り下さい」
 受付の人はリリエ達の身を案じているようだった。同時に、何かに怯えているようにも見える。
 知らなかったとはいえ、こうしてやってきた彼女の顔を受付は目に焼き付けたことだろう。
 それにしても、魔法に対してこれほどまでに強い拒絶を示すものなのだろうか。
 疑問を抱きながらも、ひとまずこの場を去らざるを得なかった。

* * *


「あ! あしゃとしゃん。てくのくりゃーとのこーはいの、こた、きたおー! こえが、こたのねーたん、はやしらいちゅきれす」
 コタロー達が、案内役の朝斗らと合流した。
「少年よ、すまなかった。コタローが無茶なことを言ってしまって。『強化人間管理棟』というところに案内してもらえるとは、ありがたい。外部の人間が尋ねるには、難しいところだったからなぁ。
 ……ところでコタロー、どんな根回しを使ったんだ?」
「う? ないしょれす」
 コタローから教えてもらえなかったものの、門前払いを食らう心配はないようだ。
「なんかもう、コタ君の行動力は日に日に育ってきているような……」
 緒方 章(おがた・あきら)がコタローを見やる。二人が知らないところで、色々学んでいるということだろうか。
 朝斗達の案内で、天御柱学院のある海京南地区の管理棟までやってきた。
「それでは、僕達はここで」
「ん? ここまで案内するだけてことは、榊くん達はこれから何かしに行くのかい?」
 この後の行動について、章が質問した。
「これからホワイトスノー博士に会いに、海京分所へ」
 何か考え事をしている様子だ。
「……お互い思うところはあるようだな。では、ありがとう。行ってみることにするよ」
 朝斗らの一行と別れ、入口へと向かう。

「シャンバラ教導団の林田だ。管理課の代表者と会わせて欲しい」
 コタローによれば、受付で教導団の名を出せば対応してくれるだろうとのことだった。
「はい、お待ち下さい」
 気になったのは、受付の顔色が悪いことだった。何かあったのだろうか。
『課長、教導団の方が見えました』
 ほどなくして課長が現れる。スーツを着た若い男だ。
「話は聞いております。こちらへ」
 応接室へ通された。その間、何人かの強化人間とすれ違ったが、これといっておかしな点はない。課長や樹達の顔を見て、挨拶を普通にしているくらいだ。
「強化人間管理課課長、および超能力科科長代理の風間です。強化人間のことをより詳しく知りたい、ということで宜しいでしょうか?」
「ああ。我が教導団団長のパートナーに、『強化人間』がお目見えしたのでな」
「ドージェを退けた男、羅 英照ですね。彼は非常に優秀です。軍人としても、強化人間としても」
 どこか含みのある言い方だ。
「強化人間の最大の利点は、単独でパラミタに渡れることです。また、他の種族に比べてパートナー契約がしやすいというのがあります。例えるなら、地球人とパラミタ人が契約出来る可能性を20%とすると、強化人間との契約成功率は50%といったところでしょうか」
 シャンバラにいると忘れがちになるが、契約には一定以上の素質が求められる。
「欠点は、精神がやや不安定になりがちなところでしょうか。パートナーへの依存は、強化人間が精神を安定させるための、『自然行動』です。パートナーが心の拠り所になるというわけですので、契約した強化人間は基本的に安定しています」
「暴走する、なんて話も聞いたことがあるが」
「超能力は人間の脳と密接な関係にあります。暴走というのは精神の安定性が失われ、能力制御が出来なくなったことから起こるものです。本人が過度な超能力の使用を避ければ問題ないと言えるでしょう。学院にはパートナーをもたない強化人間を安定化させるための技術があります」
 それについては教えてくれなかった。
「強化人間については大体分かった。だが、そのようなリスクがあるにも関わらず、なぜ作り続ける?」
 風間の目つきが鋭くなった。
「君達は自分がどれだけ特別な存在なのか、気付いていないようですね。契約者となった地球人は世界の人口の一割にも満たないのですよ。大多数の人は、自由にパラミタの大地に立つことさえ許されない。パラミタ化手術も、強化人間も本来ならば危険なものではありません。ただ、それらは特別な素質を持たない者がパラミタへ渡るために存在しているのです。
 超能力とはその副産物に過ぎません。パラミタに適応した地球人というのが本質です。ですが、シャンバラでは地球人なのに地球人ではない、かといってパラミタ種族でもないからと化け物扱いしているのですよ。彼らが不安定になるのは、そうやって偏見を持たれているからに他なりません」
 強化人間と聞けば、ろくに調べもせずに危険だ、非人道的だと騒ぎ立てる。だからこそ、強化人間となった者達は自分が人間ではないと言われているような気がして、不安定になってしまう。その心を繋ぎとめるために、誰かを頼らずにはいられない。
「私達はただ、『パラミタの大地に立ちたい』という思いに応えているだけですよ。その結果が強化人間、ということです。もっとも、シャンバラで契約者であることが当たり前の環境にいた者には、そういった人々の気持ちなど分からないでしょうが」
「そういう貴方も、契約者では?」
「元、ですよ。三年前に事故でパートナーを失ってからは、パートナー契約をかわしていません」
 現在は、ただの人間でありながら管理課の強化人間達をまとめているということだ。
 ――暴走の危険をはらんだ者達を。
 そこへ、扉をノックする音が響いた。
「風間さん、時間です」
 優等生然とした眼鏡の少年だ。
「分かりました。
 最後に、何かありますか?」
 どうやらここまでのようだった。
「一般公開されている強化人間関係の資料だけ頂いて宜しいでしょうか?」
 章が風間に聞く。
「受付でお受け取り下さい」
 そのまま風間は席を立ち、樹達を受付まで案内した後は管理棟の奥へと消えていった。